社内SEの事件簿③・・・基幹システムダウン、全てをあきらめた5日間
「いつ復旧すんの?」
社内SEをやってれば、耳にタコができるほど言われるセリフ。
だが私の社内SE人生の中で、ダントツでこの質問を受け続けた事件があった。
■それは何の前触れもなく始まった・・・
ある日の午前中、私はパソコンの設定をしていた。
すると突然、携帯電話が鳴った。
「はい、社内SEです。」
「あのさ~、見積がつくれないんだけど、ちょっと見てくれない?」
ある営業さんからの電話だった。
電話で話しながら、遠隔操作で営業さんのパソコンを見たのだが、確かに見積が作れない。
「ちょっと調べてみます。」
そう言って、電話を切ると、着信が・・・10件入ってる!
そして確信する。こりゃ、間違いなくやばい何かが起きている。
それにしてもこの着信件数、尋常じゃない。
あの社内SE人生、過去最悪のメールトラブルの時だって、もう少し緩やかなスタートだった。
なんなんだ、このスタートダッシュの鋭さは?
そんなことを考えているうちにすぐに次の着信が来た。
「はい、社内SEです」
「あのさ、経理処理ができないんだよね、何か画面が固まっちゃってさ。」
さっきは営業、今度は経理・・・そして次の着信で取った内容は請求書が作れない。バラエティに富んだトラブル項目。
こ・これ・・・もしかして・・・?
そう、我が社の基幹システムがダウンしたのだ。
■いったい何が起きている?
社内SEになって初めての経験、基幹システムダウン。
社内はもちろん大混乱。私の携帯電話の着信が鳴りやまない。過去最短で、携帯電話着信履歴保有限度30件が満杯になりひとまわり完了。早速2週目に入っている。メールトラブルの時なんかとは比較にならない。
しかし私には何の情報もない。
基幹システムは外部業者に委託しているのだが、その業者にすぐに電話を掛けたがつながらない。平日の受付時間にも関わらず・・・「只今、電話が大変混みあっており・・・」と、冷静で感情を持たない機械音声(女性の声)による、全く無意味で知りたくもない情報が繰り返される。
業者にも問い合わせが殺到しているってことだな。
とりあえず最悪なトラブルが起きているのは間違いない。
はてさて、どうすっかな~
■私はこうした
とりあえず私は、まず携帯電話に出るのはやめた。
どうせ出たって、使えない、どうにかして、と言われ、今トラブってるんです、復旧見込みありません・・・と繰り返すしかない。その時間がもったいなかった。まずは全社員への情報発信だ。
運の良いことに、基幹システムとメールシステムは分かれていたので、全社員宛に、簡単なメールを送った。
”基幹システムでトラブルが発生しています。復旧の目途は経ってません。進捗ありましたらまたご連絡します。”
まずはトラブルが起きていることを、皆に知ってもらうこと。電話に出ても1人しか情報を伝えられない。いや~メールってのはやっぱり偉大なシステムだ~なんて感謝しながら・・・しばらくすると、電話着信があきらかに減っていった。
ま~、午後には復旧するでしょ・・・きっとサーバー再起動か何かで直るだろうし。ただ部品交換が絡む修理だったら、大急ぎでやっても今日の夕方くらいになっちゃうかも・・・それは嫌だな~
そんな風に勝手に復旧までの時間を予測してた私の甘い考えは、木端微塵に打ち砕かれることになる。
外部業者からの1本の入電によって・・・事態は私が想像していたより遥かに深刻な状況だった。
■ハード障害、部品は・・・”海外”!
業者の方からの1本の電話。内容はこんな感じだった。
「大変申し訳ございません。現在、基幹システムのサーバーがハード障害を起こしております。そして、その復旧のために必要な部品なのですが、日本国内に全くないことが判明いたしました。」
こ・この人はいったい何をおっしゃってるの?一瞬私の頭の中は真っ白になった。人間、本当に真っ白になると、何を言っているのか自分でも分からなくなる。私はつい・・・
「あ、あの、それって、今日は復旧できないってことですよね?」
連絡をくれた業者さんも困り果てて、
「申し訳ございません。海外で部品を探し空輸することとなりますので・・・また部品が来てから復旧作業も必要ですし・・・恐らく復旧にはどんなに急いでも数日は要すると思われます。」
「そ・そうですか・・・分かりました。」
私は電話を切ると、この事実を他の社員にどう伝えりゃいいんだと途方に暮れた。
「いつ復旧すんの?」
結局1日目はこの質問を受けまくった。やはり、障害連絡のメールをして、一時的に電話は落ち着いたが、午後になると、「マジでいつ復旧すんの?
?」という問い合わせが止まらなかった。
私もいつ復旧するか、知りたいよ・・・そう思った。
■世の中、どうにもできないこともある
復旧までの私の日課は、業者さんへの復旧いつ頃になるか確認と社員への進捗報告。
世の中、自分の力ではどんなに頑張ってもできないことがある。このトラブルほど、私にその事実を教えてくれた出来事はない。
自分自身がジタバタしても仕方ない。社内SEの立場だからって、変に気負うこともない。できないならあきらめて、その時何ができるかを考えればいいだけだ・・・と自分に言い聞かせ、ストレスをまともに受けないようにした。
ま~1日目はすごくストレスを感じたけど、どうしようもないとあきらめると、案外スッキリした。
それに他の社員も、2日目からはあきらめがついて、とりあえず復旧まで、できる作業をやろうとなった。復旧したら入力する準備をみんなでしていた。
こういったトラブルも過ぎ去ってみれば良い経験。ストレスの対処の仕方を覚えるきっかけにもなる。
基幹システムが復旧したのは発生から5日後。
基幹システムが使える便利さを、社員全員改めて認識できたことだろう。
基幹システムダウン・・・今思えば、これもまたひとつのいい思い出。
・・・もちろん二度と起こってほしくないけど。でも今後もきっと起こるだろうな
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