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【大蒔絵展レポート】蒔絵の世界が深すぎる。

※現時点では終了しています。余韻に浸りすぎて、記事アップが遅くなり申し訳ございません。

日常生活ではまず聞かれないでしょうが、日本の伝統工芸品で何が好きかと言われたら、蒔絵と答えるぐらい好きです。


蒔絵との出会い

私と蒔絵の出会いは、2年前の静嘉堂文庫美術館
そこで出会った、住之江蒔絵硯箱がすべての始まりでした。

硯箱の盛り上がり方がすごく印象に残っているのと、何より百人一首の「住之江の岸による波よるさへや夢の通い路一目よくらむ」(藤原敏行)を描いているのがステキで。

波の表現と、一部を字ではなくて絵で表現しているのに感銘しました。

その後、蒔絵が絡みそうな美術館展覧会には駆けつけるほど好きになった私に、舞い込んできたのが「大蒔絵展」


大蒔絵展での再会

はじめて知ったのが、1年前のGW。
熱海のMOA美術館で開催されると知り、もう終了してまう!とGWの予定を変更していざ熱海へ。
確か1週間前ぐらいに気づいたので、GW真っただ中の激戦区中の激戦区、熱海でホテルが取れるはずもなく日帰り強行軍でした。

こんなに蒔絵が一堂に会している展覧会などめったにない。
特に王朝時代の古筆切にちりばめられた蒔絵と、尾形光琳の蒔絵が好き。

そこで、念願の再会を果たしました。住之江蒔絵硯箱。

しかも漆に金ですから、明るすぎては良さが伝わらないのです。
照明がちょっと暗いのではと感じたのですが、展示にはちょうどいい明るさにしていると気づきました。

まさに『陰翳礼讃』
のちに『陰翳礼讃』を読んでみたら、なんと蒔絵にも触れられているではないか。

つまり金蒔絵は明るいところで一度にぱっとその全体を見るものではなく、暗いところでいろいろの部分がときどき少しずつ底光りするのを見るように出来ているのであって、豪華絢爛な模様の大半を闇に隠してしまっているのが、云い知れぬ余情を催すのである。

谷崎潤一郎『陰翳礼讃・文章読本』新潮文庫

私が大蒔絵展で感じたことを、ぴたりと言語化されていて、そうそう!と思うとともに、昔の日本人の感性の高さに驚きました。


分厚い図録も何も考えずに惹かれるまま買ったのですが、重かった。
帰りは歩かないといけないことをすっかり忘れていた。
熱海なんてそうほいほい行けるところじゃない…

だけど今一番読み返している図録になったので、私の肩の犠牲は報われたと思います。

そこからさらに転がり落ちていって、次の展覧会を楽しみにしていました。


2回目の大蒔絵展での新発見

3つの美術館で順に開催されていて、2回目に行ったのが徳川美術館
三井美術館は日程が合わず断念。旅行とかぶっちゃったんですよね…

ちょっと名古屋から外れたところでしたが、何とか行けました。

ここでは住之江蒔絵硯箱が残念ながらなく…見逃しただけかもしれませんが、その代わり推しの蒔絵を2つ発見できました!

ひとつが、忍蒔絵硯箱
百人一首つながりですが、こちらは「陸奥のしのぶもぢずり誰ゆえに乱れそめにし我ならなくに」(河原左大臣)の歌を表現しています。

河原左大臣は源融のことです。嵯峨天皇の皇子ですね。

文字は「たれゆえに」のみ。大きいのに不思議となじんでいる。
住之江蒔絵硯箱だと、黒地もうまく活用していましたが、こちらは忍草を隙間なく表現していて余白の使い方が違うなと思いました。

光琳蒔絵(住之江蒔絵硯箱)と光悦蒔絵(忍蒔絵硯箱)の趣向の違いなのでしょうか?


あともうひとつ、繊細さがすごくて(語彙力がなさすぎた)、引き込まれたのが比良山蒔絵硯箱

これは実物を見ないと分からないような迫力です。

人が小さく描かれているのに存在感が圧倒的で、花びらが小舟の周囲にちりばめられている。
静寂さのなかのはかなさをここまで表現できるのかと思いました。

水墨画とかでは表現できない、蒔絵ならではの技法を駆使した芸術品だと思います。


江戸時代の蒔絵ばかりになってしまいましたが、蒔絵の変遷を見れるのも大蒔絵展の面白いところ。

豪華絢爛でいうなら、やっぱり徳川家光の長女千代姫の婚礼調度「初音」でしょう。

華やかさでは群を抜いていて、圧倒的でした。まぎれもない国宝です。

「初音」は源氏物語をモチーフにしていて、所々に連想できそうな情景が描かれています。


蒔絵以外にも常設展示や特別展があり、そこもめぐって面白い発見がありました。
ですが、この記事は大蒔絵展の感想がメインなので、またの機会に。

また来年も開催してくださりますように!!
できれば近畿も…



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