見出し画像

ラジオにおける「トーク」とは

ラジオというメディアはテレビと違ってだいたいにおいて「一人で聞く」ものであることは、おそらく今も昔も変わらないだろう(いや、テレビがなかった時代はまた別だけど)。そんな中、話が伝わってくるパーソナリティと伝わってこないパーソナリティがいる。これにはちゃんとした理由があったりなかったり。

「ラジオ」の特性

今更言うまでもなく、ラジオとは音声だけですべてを表現しなくてはならないメディアであって、兎にも角にも「喋る」こと以外で相手に何かを伝えることはできない。たとえばここに「美味しそうなリンゴ」があったとして、テレビであれば真っ赤に熟したリンゴをアップにして、「美味しそうですねえ」のナレーションを入れれば済むことが、ラジオではそうはいかない。「今目の前にリンゴがおいてあるんですけどね、すごく赤く熟してて、重さもしっかりしてるんですよ。固くもなくてまさに食べ頃って感じですねえ」とか、そんな感じで「どんなリンゴがあるのか」を伝えなければならない。

テレビ出身のアナウンサーがフリーになってラジオに出ると、テレビに出ていた頃より全然面白くない、という事が結構ある。筆者の経験だと、すごーく昔だけど雪野智世というアナウンサーがいた。もともとはテレビ朝日の局アナだったところ、95年にフリーに転向。ニッポン放送のお昼のワイド番組のアシスタントとしてデビューしたものの、半年で降板。根岸紀子(当時は入社3年目)に取って代わられた。

結構鳴り物入りでの登板だったにも関わらず、なぜすぐに降板になったか。色々な事情はあったのだろうが当時位置リスナーだった私の間隔では、とにかく「トークがつまらなかった」のだ。そして、メインパーソナリティの塚越孝が、いわゆる「ラジオの人」で、喋るテンポがテレビのそれと全く違うということもあったのだろう。とにかくトークが噛み合わない。(ちなみに塚越孝は2006年、フジテレビに転籍となってしまい、その6年後に悲惨な最期を遂げる。これはまたいずれ)。

とにかくテレビとラジオでは表現がまるで違う。だから両方できるアナウンサーって実はそれほど多くない。地方のラテ局(ラジオもテレビも放送している放送局)ならまだしも、規模の大きな放送局では、両方行けるひとはほぼ皆無だろう。

何がそんなに違うのか

冒頭にも書いたが、ラジオは一般的には一人で聞くメディアであって、「みんなでラジオを囲んで聞く」ことはあまりない。昨今ではSNSなどでリスナー間での交流を図りつつ、同じラジオを聞くという習慣もあろうが、基本的には「今」「ここで」聞いているのは自分ひとりのはずである。

そこで「対象」という概念がでてくる。

テレビは「お茶の間の皆さん」に向けて放送するというスタイル(まあ、昨今ではお茶の間って無いけど)が確立していて、「家族で見ている」「友達と一緒に見ている」などといった前提で作られていることが多い。また、作り方も、「見せる」ことが中心で、タレントがカメラの前で何かをやっているところを、視聴者は「見せられている」状態だ。だから、画面の中でタレントが何かをすると、傍観者として反応することになる。

反面ラジオは一人で聞いている事が前提になっており、リスナー側からすればスタジオ側のパーソナリティとは1対1の関係になる。リスナーの手元にあるラジオないしスピーカーは、いまスタジオで喋っているパーソナリティの分身であって、パーソナリティは「自分に語りかける」存在という意味合いが強くなる。つまり、テレビとラジオでは、スタジオがわからみたときに、だれに放送するかという・・・つまり「対象」がぜんぜん違うのだ。

「皆さん」と「あなた」

ラジオで喋るときに最もやってはいけないのが「お聴きの皆さん」に喋ることだ。もちろん、スタジオがわからみたら、リスナーは大勢いるわけだから「お聴きの皆さん」で間違っていはいない。しかしながら、先にも書いた通りリスナー側からすると、今個々で聴いているのは「自分一人」なので、「皆さん」ではない。ここで間隔の齟齬が生まれてしまう。このとき、リスナーの感覚としては「語りの焦点が自分以外にもあたっている」ため、ラジオ本来の「パーソナリティとの近さ」が生まれなくなってしまう。

ではどうするか。

ウチでラジオ番組を制作しているスタッフには、「演出上必要な場合を除いて、リスナーへの呼びかけは「お聴きの皆様」ではなく「お聴きの『あなた』」とするよう指導している。ラジオの前にいる大勢に語りかけたいのはわかるグア、ラジオが自分の分身である以上、語りかけるのはラジオの前にいる「たった一人のリスナー」だけでいいのだ。これだけで、語りの焦点が「今聴いている自分」に当たるので、それだけ話に没入することが可能となる。言ってみれば、集会での校長先生の話は耳に入ってこないけど、1対1で生徒指導されるときの先生の話は割とちゃんと聞けるのとおなじだったりする。

リスナーとの距離を大事に

テレビと違い、ラジオは映像情報がない分、集中して聞くことが難しいメディアでもある。しかし、1対1の会話をイメージして話すことで、リスナーを引き込むことができ、リスナーにとっても、その番組を聞いている時間が特別なものになるはず、である。

ここから先は

15字

¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?