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自選集:詩

35
密室で延焼する憎悪と、古戦場に揺れる花と。
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#言葉

吐き捨てるような反駁の、あふれ出したような雑言の詩

吐き捨てるような反駁の、あふれ出したような雑言の詩

「あなたはそれを何年やったの?」
「頭でっかちだ」「理屈っぽい」「単なる想像」

僕が一番嫌いな言葉たち
論点をずらして反論を放棄し、人格攻撃へとシフトしているからだ

本当にあなたが十分な経験を積んでいるのなら、もっと冷静で具体的な反論ができるはずだ
まっとうな言葉や頼りになる背中で、しっかりと伝えられるはずだ

それが出来ないということは、つまり

何も伝えずに、ただ発狂してるだけの人への反応

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虹色の絵図

虹色の絵図

「虹色だ。ああ、美しい!」誰かが言った。

どす黒いガソリンのような化学物質が辺りに塗りたくられている
樹木に、草花に、岩肌に、地面に、小屋に、

それらが光を反射して虹色に擬態している
神の創作物の絶唱が響き渡っている

どこかの工場から この地に排出されたのだろうか
その工場は 何を呑み込んで 何を吐き出しているのだろうか

何を犠牲にして 誰のためのものを出荷しているのだろうか

「虹色だ。

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名も無き風として

名も無き風として

たくさんのシールが貼り付けられた人たちがいる
プロフィールに並んだ、肩書、経歴、受賞歴

僕はそれを見るほどにその人が誰なのか分からなくなる
その人の中身が 裸の姿が

無名の僕の嫉妬なのかもしれない
確かにそうなのかもしれない 技術が洗練されていることは理解できる

でも僕は 既存のシステムの棚に秩序よく陳列されることに我慢がならない
品行方正な嘘をつくことに我慢がならない どうしても自分に嘘は

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多次元の朝

多次元の朝

小さな宇宙には朝があった
全ての始まりの刻印として

空気の振動が停止した
一世一代の計りの朝

燃える恋でもしているのか
ダムが決壊したような期待があふれ出す朝

悪夢の続きを目覚めてなお見るような
冷暗室の悲鳴の朝

異邦の床で目覚めた
いつもとは違う朝と、いつもとは違う自分

仮宿の友人と迎えた
喧騒の残滓が漂っている朝

しかし、
これらの朝の中には確かに殺人犯が紛れ込んでいるのだ
それを

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こっちの世界と、あっちの世界

こっちの世界と、あっちの世界

あっちの世界では、ほとんど何もできなかったな
どんなに血を流し、身を裂く嵐を受け、混乱して道化を演じたとしても

こっちの世界では、それに比べればずっとマシだな
嘘をつかなくて済むし、だからと言って、すべてが解決したわけじゃないけど

あっちの世界では、まだ阿修羅たちが果て無き戦いを繰り広げているのかな
彼らも心の奥では気がついているから、あら探しをやめられないんじゃないか

こっちの世界でも、争

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オフィスに転がった万全な死体

オフィスに転がった万全な死体

空調が完備されたオフィスの中に、死体が転がっている
清潔で合理的なオフィスの中に、死体が転がっている
完全に慎重なオフィスの中に、死体が転がっている

叫び出す事すら許されなかった 此処では
掻き毟る事すら許されなかった 此処では

今日も仲良く、体温が失われている

僕が死んでいる 酸素の中で溺れるように
彼も死んでいる 絶望的な賭けに敗北し
彼女も死んでいる 極めて密やかな偽装工作の末

死に

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