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Learning Creator’s Labで「探究」を探究する旅が始まった。

1.Learning Creator’s Lab(LCL)を卒業しました。

「探究学習を本格的に学びたい」「理論と実践を行き来したい」「働きながら大学院で研究しようかな」そんな気持ちを抱いてモヤモヤしていたところ、一般社団法人 こたえのない学校 が運営する Learning Creator’s Lab(LCL)を見つけ、昨年4月から約一年間、「探究」を探究し続ける日々を過ごしてきました。

※非常におすすめです!まだ、ぎりぎり来年度(LCL7期)の応募に間に合うかも⁉ 受付は終了しました。

Learning Creator’s Lab HPより

上記画像に書いてある通り、LCLのコンセプトは、「探究学習を実践するものは自らが探究者である」です。企業や行政出身の方など、多様なバックグラウンドをもった教育に熱い方々と共に探究することを通して、「探究学習」に関する洞察を深めることができました。また、自分なりの探究観を形成する大きな一歩を踏み出せたかなといった感じです。「探究」を探究する旅についに出発!6期のテーマは「わたしの道、あなたの道、みんなの道」
わたしの道にとっての、あなた、そして、みんなの道って、いったい何なんだろうなあと考えながら毎月過ぎていきました。ちなみにスケジュールは下記の通り。

前半は、みんなと知り合う時間をたっぷり設け、じっくりLCLに溶け込んでいきながら各種探究理論を学んでいきます。四人一組のホームグループをつくり、そのメンバーと振り返りを毎月おこないます。その結果、単に学びが深まるだけでなく、気づけばLCLが心理的安全性の高い場所になっていました。教育や探究に熱い人が多く、率直に意見を言いあい、疑問を聞きあえた良い時間でした。

前半の終わりにプロジェクトチームを結成し、夏は合宿と中間発表。後半はプロジェクトを進める実践が中心となり、冬(秋終わり)に最終発表といった流れです。

正直、いつもどおり働きながら、各探究理論を学び、実際にプロジェクトチームを組み、最終発表までおこなったことは、今考えると決して、楽な道のりだったとは言えませんが、最高に意味のある貴重な時間でした。

費用は15万前後ですが、上記以外にもプラスで学ぶ機会やイベントも複数あり、内容の濃さを考えれば本当に安いとしか言えません。こちらを主宰している藤原さとさんは、教育新聞の記事の中で、下記のようにおっしゃっています。

LCLは何かの資格を取るためのプログラムではありません。参加者が「自ら探究者」となり、「一生を通じて学び続けるためのベースがセッティングできた」と思ってくれたら本望です。

 「教師が学ぶ探究 上  自らが探究者となる」 教育新聞 2021.2.17

産業社会の要請に応じて、その都度、必要な資格を取得することも確かに大切ですが、それらは一過性の小手先だけのものになってしまう恐れがあります。やはり、生涯学び続けるための「自分なりの学びの型」を形成していくことが肝心です。

迷っている方は、藤原さとさんの著書、【「探究」する学びをつくる】を、ひとまず読んでみることをおすすめいたします。



ちなみに、私は6期生として卒業し、こちらにその感想を書いております。


世界的天才である台湾IT担当大臣のオードリー・タンさんの「自由への手紙」には、こんなフレーズがあります。

私からのアドバイスは、「人生を通して学びなさい。学び続けなさい」ということ。そして、ともに学び、ともに創造し、ともに発想する仲間をもつこと。
仲間をもつことは、どんなスキルセットよりもはるかに大切なものです。これは若い世代ばかりでなく、年を重ねた人々にとっても大切なことだと思います。 (p54)

オードリー・タン 「自由への手紙」 講談社

ともに学び、ともに創造する仲間をもつことは、どんなスキルセットより大切。まさにその通りだと実感した一年でした。

とはいえ、当然スキルセットがいらない訳ではなく、仲間とともに、さまざまなスキル(資質・能力)を磨いて必要があります。感想にも書いたよう、「こたえのない世界」を少しでも楽しく、そして豊かに生きていくためには、果たしてどういったスキルを身に着けるべきなのでしょうか。

2.探究学習が求められる背景

下記は、6月18日「米国ハイテック・ハイの授業デザイン~深い学びの実現にむけて~」のジョン・サントス教諭のお話より、21世紀における教育でみられるシフト例についての資料です。

2022.6.18 米国ハイテック・ハイの授業デザイン ジョン・サントス教諭の資料より

今も続いてしまっている伝統的な学校教育は、20世紀の工業社会に対応するためには、理想的な教育でした。産業革命以降、命令に逆らわず、常にお手本に忠実で、均質化された従順な労働者を育成することが目標でした。マニュアルを覚え、それを正確に再現する能力を身につけるための教育がここまで続いてきました。早く正確に正解を出せる子どもが評価される世界です。ひたすら膨大な量の知識を暗記し、それをミスなく素早く再生する修行のような伝達型授業は、知的筋力を鍛えるトレーニング的な意味合いではある種必要かもしれませんが、これだけでは、これからの時代を生きていくことは難しいはずです。

下記文章をご覧ください。

100年後の教育史には、「19世紀~21世紀にかけて、知識を単に所有していることを学力と呼び、それでテストをして、人生が左右されるような、変な時代がありました」と書かれると思っているんです。

「探究する教室」 授業づくりネットワークNo39 学事出版

私はこの奈須正裕先生の表現がおもしろく、大変印象に残っています。SF的な物語だと奈須先生はおっしゃっているが、ChatGPTのようなAIのすさまじい発展は、インターネット到来以上のインパクトがあることを考えると、あながち間違っていないかもしれなません。

とはいえ、伝統的な教科教育から得られる知識や、その教科特有の思考パターンを修得することもまた重要であり、決して、二項対立な話ではないと私は考えています ※学校での立場的にもここ重要

次に上図の右側に目線を移してみましょう。
変化が激しく予測困難な「こたえのない時代」に突入している21世紀の学校教育では、他者と協働しながらイノベーションを生み出す人を育てることが求められています。自ら問いを立て、その答えを創造していく能力は今後、必要不可欠になるでしょう。また、SDGsなどの世界規模の社会課題に対応すべく、よりよい社会を実現しようとする態度の育成も喫緊の課題です。

2020年度から順次導入が進んでいる新学習指導要領では、改定の経緯の冒頭には「生徒一人ひとりが社会の担い手となること、新たな価値を生み出していくことが期待される」との記載があります。「持続可能な社会の担い手」の育成についても明記されています。あわせて、教育課程全体を通じて育てる力は、「知識及び技能」「思考力、判断力、表現力」「学びに向かう力、人間性等」の3つの柱で組み立てられています。

あくまで、知識は大事なことの一部に過ぎず、「知識をどのように使うか」や「知識を使って自ら学びを進める力」「知識をもとにどのように社会・世界と関わりをもつか」などが重要視されています。

また、下記資料は、高校教員が生徒に対して将来的に特に必要と思う力についてのアンケートです。主体性・課題発見力・実行力・創造力、柔軟性の順に高いという結果になりました。受験という出口があるため、大量暗記を強いている先生方も、本音のところは、こういった力も必要だと感じているようです。一方で、日々の業務の多忙さや、実際に探究学習をするとなると「やり仕方がわからない」などがボトルネックとなり、思うようにいっていない現状があるのだと理解しています。

2023.1.16  教育改革に関する調査2022(リクルート進学総研調べ)より



さらに、こちらは私立創英中学・高等学校の工藤校長のツイートです。

2019.11 日本財団「18歳意識調査」

上記の図表をご覧ください。2019年11月に日本財団が発表した「18歳意識調査」です。世界9カ国の17~19歳各1000人の若者を対象に、国や社会に対する意識を聞いたものです。

「将来の夢を持っている」「自分は責任ある社会の一員だと思う」「自分で国や社会を変えられると思う」に対して肯定的に答えた割合は最下位でした。

日本の18歳は、主体的によりよい社会を創ろうとする意識もなければ、自分の生き方あり方についても真摯に考えておらず、将来の目標や夢もないという状況です。学校での学びが社会と乖離しすぎてしまっていることも原因の一つだと考えられます。日本の子どもたちが今受けるべき教育は、知識を蓄えるだけの授業ではなく、自分の生き方や社会の在り方について、ロングスパンで深く考える授業が必要なのです。


上記「21世紀におきる教育シフト」「新学習指導要領」「将来的に必要とされる力に関するアンケート」「18歳意識調査」をみるに、やはり、これから必要となる力や資質能力(非認知能力)をしっかり育んでいくには、探究学習を進める他ないと思っています。


3.そもそも探究学習とは何か。

そもそも「探究学習とは何か」を改めて振り返ってみましょう。「総合的な探究の時間」の学習指導要領によれば、探究学習の目標は「自己の在り方生き方を考えながら、よりよく課題を発見し解決していくための資質・能力を育成すること」とされています。探究プロセス(サイクル)は、以下のように表現されています。

探究における生徒の学習の姿 文部科学省 2018:12

私が考える探究学習もほとんど同様の表現で、「自分の興味関心や日常生活の疑問、社会の問題などをテーマに、問題解決的な学習を発展的に繰り返すことによって、物事の理や自分の生き方・社会の在り方について洞察を深めていく」ことです。

自分が取り組みたいテーマや日々の生活や社会と繋がるテーマだからこそ主体性や当事者意識(より良い社会を実現しようとする態度)が育まれます。
多様なメンバーとの対立やジレンマを経験することで協働力が育ち、オリジナルのこたえを創り上げることで創造力が育まれます。そして、自分なりのこたえを創り上げる経験を何度も積み重ねることは、自己肯定感の向上にもつながると考えています。

実際に、認定特定非営利活動法人「カタリバ」による探究コンテスト「マイプロジェクト」に取り組んでいる高校生1654人を対象にした調査では、「今回の探究の経験から、自分の将来を自分で切り拓けると思ったか」という設問や「社会をよりよくするため、社会の問題に関与したいか」という設問に対して、肯定的な回答(とてもそう思う・そう思う)が9割を超えました。社会と学校を繋ぐ探究的な学びは、主体性や社会参画の意識を育むのに最適な学習といえるでしょう。

本校からこの探究コンテストに参加している生徒も「初めて自由な学びに出会った」「探究学習は刺激的な学び」「日頃の授業では身につかない、社会に出てから役に立ちそうなスキルが身につく」といった感想を残してくれました。現在もメールのやり取りからプレゼン資料の作成、課題設定や仮説検証、仲間を巻き込む力まで、大人顔負けの能力を発揮し、最終的には「SDGs探究アワード」まで受賞してしまいました。二人ともおめでとう!


4.探究の軸と輪(サイクル)について


ここで、Learning Creator’s Lab(LCL)を主宰している、藤原さとさんのブログ(宝物のような素晴らしい記事がたくさん)を参考に、探究サイクルと探究の過程で身につく力についても見ていきたいと思います。
※元の記事はこちらとなります。【探究と探究でないものを分かつものは?~這いまわる経験主義に陥らないための考察と整理】


 探究サイクルの簡易図   藤原さと氏 作成

ジョン・デューイによれば、「不確定的状況」が整理・統合され、「確定的状況」に変化していくサイクルが探究と定義されています。不確定的状況とは、必ずしも「良質な問い」や「きちんとした仮説」でなくてもよいのだそうです。「ワクワク」や「モヤモヤ」、「何かちょっとやってみたい」そういったものでもOK。私は「なんか許せないなあ、なんか好きなんだよなあ」から出発しようと生徒に伝えています。
これが下図の①にあたり、文科省の表現でいう「課題の設定」に該当するのかな。
②は「情報の収集」「整理・分析」をまとめたような過程で、混沌の中、試行錯誤しながら深めていく場面です。
③は「まとめ・表現」にあたる過程で、プレゼン(発表会)やレポートなどがこれに当たります。

探究の軸と探究サイクルの図だけでなく、〈探究の過程で身につく・つけたい力〉についても、ぼくはこの捉え方が大好きで、しばしば使用させていただいております。

・軸を設定する力
→問いを設定する能力、課題設定能力、概念を把握する力
・より大きく重い車輪を回す力 
→レジリエンス、協働する力、仲間を巻き込む力
・新たな車輪を設定し、学び続ける力
→一旦の解に辿りついた後、また新たな車輪に挑戦し学び続ける力

探究の過程で身につく・つけたい力 藤原さと氏 作成


ちなみに、こちらは、その際に書いた雑感メモ的なものです。汚くてごめんなさい(笑)

探究の軸と探究の輪(サイクル)について 森井メモ(雑感)


探究の軸(本質的な問いや解決したい課題、大きなテーマなど)を設定するのは、非常に難しい。今回LCLに参加して、最初から素晴らしい問いを立てる必要はないということを、体感しました。確かに、ぴったりフィットする良い軸を挿せば、探究の輪は摩擦なくスムーズに回るかもしれません。しかし、そのようなことは稀で、どのプロジェクトチームも課題設定に苦労していたように見受けられます。各々仕事が忙しい中、序盤はじっくり対話する時間もとれず、全員が納得する軸(協働して解決したい問いや概念)を見つけることは簡単ではありません。大人たちでも難しいのだから子どもたちは、なおさらのことでしょう。これを体感するのもLCLの醍醐味!

中盤まで、ジョン・デューイのいう探究サイクルの定義「不安から安心へ」の、まさに「不安」を感じていた人が多かったはず。しかし、最終発表では、多くのチームが、対立やジレンマ、混沌とした時間を乗り越え、全く新しい(洗練された)軸を見つけ出し、晴れやかな顔でプレゼンをしていました。

つまり、軸が定まらずとも、輪(サイクル)を回しながら様々な軸を抜き挿しすればいいのです。プロジェクトは、語源の通り、とりあえず、pro(前へ)ject(投げる)して、探究の軸を見つけ出していけば良い。変化が激しく先の見えない時代には、テーマが決まるまでじっとしているより、走りながら考えるような、失敗を恐れない柔軟なマインドを育むことが大切だと私は思います。

なお、注意したいのは、重たい車輪(将来の夢や社会課題の解決など)を回すには、基礎学力が非常に重要だということです。この点を無視することはできません。特に、私は探究に力を入れながらも、高校で受験指導をする立場でもあるため、今まで通りの伝統的な教育も大切だということを痛感しています。今の日本において、トレードオフではなくシナジーを生む最適解としては、週4日通常授業、週1日丸ごと探究に充てるぐらいがベターなのではないかなあ、、と模索中です。。

これからの教育を真摯に考え、こういったことに悩んでいる方は、ぜひ、映画『Most Likely To Succeed』を見てみてください。他にも関連する話題が、最近記事になっていました。「考える」か「覚える」かの二項対立を「どちらも」といいとこ取りした新学習指導要領が抱える明日


5.探究の4つのレベルと軸(問い)の設定

軸(問い)の設定の難しさの話に戻りますが、そもそも、生徒が探究学習を実施する場合には、必ずしも問いの設定から始める必要はありません。下表にあるレベル1の「確認のための探究」~レベル3の「ガイド付きの探究」のうちから始めれば良いのです。

佐藤浩章(2021) 高校教員のための探究学習入門 ナカニシヤ出版 


ここに深入りすると更に長くなってしまうため、割愛しますが、レベル4にあたる「自由な探究」においては、表層的な部分に捉われず、目に見えづらいプロセスを柔軟性をもたせながらも綿密に設定し、常に気を配ることが重要です。

2022.7.29 探究プロジェクトチーム結成 寺中祥吾さん資料より


探究テーマに関して、生徒の興味関心からスタートするか、SDGsのような大きいテーマから始めるかは、悩ましいところですが、それぞれメリット・デメリットがあります。だからこそ、問いを立てるのではなく、問いが自然と立ちあがってくるよう、まずは手を動かしてみる。探究の輪を回してみることが大切なのではないでしょうか。

佐藤浩章(2021) 高校教員のための探究学習入門 ナカニシヤ出版


6.軸を設定する前に、とりあえずサイクルを回し始めちゃおう。

ここで改めて、文科省が示した「探究的な学習における児童の学習の姿」を市川力さんのお話をもとに、見てみましょう。

LCL 第2回「探究をジェネレートする」 市川さんのスライド資料(2022.4.17)

赤枠で示されている「日常生活や社会に目を向け児童が自ら課題を設定する」これがそもそも難しいことであると市川さんはお話されており、まさに、これは軸探しの部分であり、今までお話ししてきた内容そのものです。そう簡単に、興味関心をもてる自分なりの課題が見つかるはずはないのに、さらっと、しれっと書かれています。
探究は、索&研と解釈することもでき、研究=探究の輪を回す(課題設定→情報収集→整理分析→発表)ことは出来るようになりますが、それ以前の課題を探索する(軸探し)部分が一筋縄ではいかないのです。

これを解決するヒントとして、ロバータ・ゴリンコフとキャシー・ハーシュ=パセックが提唱した、これからの社会を生きるのに必要な21世紀スキル「6Cs」があります。
6つの「C」は、下表、左から右に向かって、レベルは下から上に向かって成長していきます。ポイントは、コンテンツ(知識を得る)とクリティカルシンキング(思考する)より、コラボレーション、コミュニケーションが先にあることです。つまり、他者と交流、協働してこそ、学びは始まるのです。(社会的構成主義の学習観にも通ずる)

井庭 崇 編著 『クリエイティブ・ラーニング』創造社会の学びと教育  慶應義塾大学出版会 

明確な答えや正解がある状況では、コンテンツファーストでよく、価値観やバックグラウンドが近い人が集まった同質性の高い集団のもと、阿吽の呼吸で物事を進めた方が、より速く正確に目標を達成できます。一方、問題が複雑に絡み合い、変化が激しく先が見えない状況において、暫定的なこたえを創造するためには、はじめの段階で多様な人たちが、まずは率直に対話し、コラボレーション、コミュニケーションを積み重ねていくことが大切です。
 

LCL 第2回「探究をジェネレートする」 市川さんのスライド資料(2022.4.17)

市川さんのスライドを見てもわかる通りです。コラボレーションこそ探究のスタートなのです。みんなでたくらみ、語り合い「あーでもない、こーでもない」と探究の輪を回していく中で、ある瞬間、しっくりとくる軸がみつかるのです。本質的な問いが立ち上がってくるのだと考えています。



7.Conenecting the circles


藤原さとさんの探究サイクルの図は、文部科学省の連続的に深まっていく竜巻上のスパイラル図とは異なります。一つの輪(サイクル)で終わっています。日々の仕事もそうですが、実際にプロジェクトをおこなうと連続的に発展していくことの方が稀だと気がつきます。探究の輪は非連続でもいいのです。
僕のイメージでは、スティーブ・ジョブズの「Conenecting the dots 」ならぬ、「Conenecting the circles」です。一つ一つ夢中になって探究の輪を回していると、気がついたらいくつもの輪がつながっているのです。

様々な探究の輪を「この軸でもないなあ、あの軸でもないなあ」と抜き差ししながら回していく。その過程で、上記にある「課題設定力」や、一人でどうにもならない状況で「仲間を巻き込む力」、理不尽な状況にも耐えられる「レジリエンス」、最後まで諦めずに「挑戦し続ける力」など、様々な非認知能力を身につけていくことができるのだと思います。それが個人と社会のwellbeingに結び付くのだと信じています。


ちなみに、探究の輪にもいろいろあります。こちらは、「最新教育動向2023」明治図書「探究学習の意義と可能性」というタイトルで藤原さとさんが寄稿したものに掲載されている図です。例えば、仕事でPDCAをひたすら、とりあえず、なんとなく回していたら、問いが洗練されていったり、方向性が見えてきたりする経験は誰しもあるのではないでしょうか。これもお話ししてきた探究の流れのひとつです。意識していないだけで、誰もが探究の輪を回しているのだと思います。みんなで「Conenecting the circles」しましょう。

「最新教育動向2023」明治図書「探究学習の意義と可能性」藤原さと氏作成 p112

左下、レズニック氏の創造的な学びのスパイラルとその学びに大切な「4P」、Peers(仲間),Play(遊び),Project(プロジェクト),Passion(情熱)」については、また今度紹介します。一点だけここで述べるとすると、やはりこれに関しても、いきなりProjectを、軸を設定し、本格的にスタートするのではなく、まずはPeersとPlayして、とりあえず、なんとなく、様々な輪を回してみるということが大切だということです。


8.さいごに

高度経済成長期以降、教育の科学化が進み、教科・学問中心(系統学習)のカリキュラムが浸透し、その結果として、知識偏重の学力重視、能力主義的な教育観が日本中を包み込みました。それに伴って、ジョン・デューイの経験主義(問題解決学習や生活単元学習など)や、それに端を発する探究学習のような学習者中心の教育が厳しい批判にさらされました。「這い回る経験主義」とまで言われていました。しかし、1990年代以降、「生きる力」の育成が目指され、主体性や協働性、問題解決・問題発見能力などの社会が求める能力を育む教育が広がり、現在では、様々な観点からジョン・デューイの思想や哲学が見直されています。

終わりは、ジョンデューイの言葉で締めたいと思います。

「教育者は他のどのような職業人よりも、遠い将来を見定めることにかかわっている」

こたえのない時代において、遠い将来に必要となるであろうスキルや態度をいかにして育てるか。今この瞬間の教育の在り方が100年先まで影響する。現実の様々な問題はいったん脇に置いて、あるべき社会から逆算して教育を設計していきます。その設計図において、探究学習が中核を担うと私は考えています。

SDGsやウェルビーイングの実現に向けて、教科か子どもか、知識か関心か、科学か生活かという二元論を超え、教育から社会が変わっていくよう、LCLで出会った仲間と探究学習を推進し、一つでも多くの重たい車輪をとにかく回し続けていきたいです。



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