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Scenting Design Academy 講師 深津 恵-講師 インタビューVol.1

卒業生 maoが Scenting Design Academyの講師・卒業生に、これまでと、今、これからを聞いていきます。
今回ご紹介するのは、Scenting Design Academy 講師 深津 恵さんです。
『@aroma』の立ち上げから携わり、ANA、ルイスポールセンなど、数多くのカオリ制作や空間デザインのプロジェクトを国内外で約20年にわたり手掛けています。
2020年に A Green株式会社 を設立され、香り素材を発掘するアロマプランツハンターとして産地との活動も。近年は、大学での教鞭、講演やセミナーも行い、”Scenting design” という文化を広げることに尽力されています。
著書:電子書籍『Scenting Design -カオリしつらえ-』(2021年、A Green)


精油が思い出させてくれたこと

Scenting Design Academy 講師 ・ A Green 株式会社 代表取締役 深津 恵さん 

――香りをお仕事にすることにしたきっかけを教えてください。
大学を卒業し航空会社でキャビンアテンダントとして働く中で、お客様への心地よいおもてなしをすることにやりがいを感じていました。ただ一方で、空の上で人工的な飛行機の中で多くの時間を過ごすということに疲れてしまったんです。その時に自分自身がリラックスしたり気分転換をしたり健康管理をするのに天然の精油を使い始めたのが、大きなきっかけです。
私は大分県 日田市という自然がとても豊かな場所で生まれ育ちました。父が林業の製材業を営んでいたこともあって、家ではいつも木の香りに包まれていたんです。小さい頃は自然の中にいることが当たり前で、植物の香りや木の香りに包まれていたことに気付かなかったんです。でも、高校を卒業して東京では人工的や工業的なものに囲まれる生活でした。そこで小さい頃に育った環境がいかに自然に恵まれていたか気付かされたんです。
精油を使っているうちに改めて子供の時に得ていたものを思い出したり気付いたりする形で、香りの仕事をしようと思っていったように思います。

恵さんご実家の製材所

――精油を手に取ったきっかけがあったのですか。
元々部屋にお花を飾ったり植物を部屋に置いたりするのが好きだったのですが、ちょうどその頃アロマセラピーという香りを使った自然療法が欧州から日本に入ってきた頃でした。植物から抽出された精油はやはり花や植物と同じ系統の香りがする、同じ香りがするっていうのを瓶に入った液体から感じられたんです。その香りの良さと力強さに本当に驚かされたのがきっかけですね。精油は瓶に入れて持ち運びもできるのでそれをどう使うのか、何を持ち歩くのかというところからより深く精油の持つ効能などを勉強しました。実際に自分で使いながら気がついたら家にある精油もどんどん増えていきました。

”Scenting Design ”とは

ーー精油の効能などを学ばれたとのことですが、アロマセラピストではなく空間に香りを広げたいと思うようになったのはなぜですか。
今でこそ ”アロマ空間デザイン“ とか ”空間に香りを“とか私たちも ”Scenting Design“ という言葉を提唱していますが、それらの言葉がない時から ”空間に自然の香りを広げる“ ということは初めからやりたいこととして明確でした。
ただ、当時は空間に自然の香りを広げることについて教えてくれる人や学べる本というのがなくて…やりたいことを実現するために何をしたら良いのかと考えたところ、まずは ”精油自体を学ぶ ”  “人への効果を理解する“ というところから英国の国際ライセンスを取得しました。

――既に恵さんの中では“空間に香り”という明確なものがあったのですね。
そうなんです。
“空間で多くの人にアプローチをする”
“自然の精油を使う”
“複数の精油を使って香りをデザインする”
というこの3つは当初からやりたかったことで、目指していたことです。

――改めて“Scenting Design”とはどのようなものですか。
自然の香りを空間にしつらえることによって、その空間を使う人過ごす人の気持ちができるだけポジティブに快適になるように空間の香りのあり方を考え提供すること。そしてそれを提供し続けるというのが ”Scenting Design” だと思っています。

――どのように “Scenting Design”という言葉をつくったのですか。
ちょうど電子書籍を書くときにタイトルを考えていた時でした。
当時は “空間の香り演出” “空間の香りデザイン” などいろいろな言葉が使われていたんです。私自身もアットアロマ社にいるときにみんなで “アロマ空間デザイン” という言葉自体を定義して広めてきたという経緯がありました。
ただ、海外で香りの仕事をしていると、“Aroma(アロマ)” というと料理などに対して “美味しそうな香り” と表現するときの言葉として使われていました。日本の “アロマ” という言葉からイメージするところとちょっと使われ方が違っていたことが多くて…何をしたいのか、何をする仕事なのか、国内外でこの仕事について説明する時にどういう言葉が必要なのか、という時に行き着いた言葉が “Scenting Design” なんです。
“照明のデザイン” まさしく英語表記で『Lighting Design』と書かれた1冊の本を見たときに、照明が空間の中で明るいか暗いかというだけではなく照明自体が、人々の暮らしをより魅力的で感性的な意味を成し得る ”成熟したデザイン” であることに改めて気付きました。それに準えるような形で “Scenting Design” という言葉が生まれました。建築士やインテリアコーディネーターの方、また建築やインテリアが好きな方にはピンとくる言葉だというのが的確に確認ができたので、その言葉を使い同様にコンセプトを持たせています。

――恵さんがよく、”Scenting Design”を“感じるインテリア”とおっしゃっているように、まさに香りがインテリアの一部であるという位置付けですか。
そうですね。五感の中でも視覚や聴覚に比べると嗅覚の “香り” というところは、後発でありまだまだ未熟で探求も多い世界ですよね。
私は “人がどう感じるか” ということを一番大切にしています。AIやチャットGPTなどのテクノロジーが加速的に進化をしていますよね。テクノロジーと人間らしさが、どのように共存して私たち心を持った人間が役割を果たすのか。どのようにして更に快適に過ごすかというところには、“感じる” ことや “感性” などの五感がこれからも大切になっていくと考えます。また、そういった分野に注目をしています。

”コト”を作る


――ディレクターでありデザイナーである恵さんがお仕事で大切にしていることを教えてください。
ずっと真剣勝負が続いている感じがします。それは一つの空間にどんな香りが良いのかどんな香りがあると役に立てるのかという問いや、状況が変化する中で現状で良いと思わずに常に自分を高め柔軟性を持ちあわせて突き詰めていくということが、この “Scenting Design” には必要であると思っています。
「このプロジェクトをやりましょう」と言っていただくために ”コト“ を作って始めることというのが必要なんです。 ”コト“ は誰からも与えてもらえない。たとえ与えてもらったとしてもそこから先を作る ”コトを作る“ ことが、プロジェクトや事業を作る際のディレクター的な役割です。
それは意外とシンプルなことで ”上手だから得意だからやる“ のではなく、常にどういう状態がベストであるかを追求しながら自分でフィールド自体を作っていくことが、ディレクターには必要な要素だと思っています。
”世の中にもっと香りができる事を作っていく” ということ自体がやりたいから気づくといろいろな事をやっています。

――“コト”を作るためのインプットはどのようにされているのですか。
自分がアウトプットするために必要な情報を得るという感覚でいます。どうしたらやりたいことのここが見えるのだろう、もっと深くアプローチできるのだろう、今より良くなるポイントがありそうというところは深掘りしていきます。それは時には本を読むことであったり、自ら体験していくことになります。
アウトプットを成り立たせるための確信になる情報、形になるための情報をどう選択していくかというところも結構ポイントになっていくかなと思います。誰からどんなことをどのくらい自分の中で吸収するとアウトプットに変わっていくのか、アウトプットの質が変わるのかということを考えながらインプットに取り組んでいますね。

――それは恵さんが一貫されている姿勢なのですね。
そうですね。誰かの真似をすれば良いとか、誰かが教えてくれるというものはなかったんです。
全ては “香りでどんなことができて、そのためには何が必要なのか” という問いの中に成り立っていますね。

”Scenting Design”を文化として広げていくために

――“Scenting Design Academy”という、学び場を作った経緯を教えていただけますか。
実は、アットアロマ社は創業時のかなり早い段階から教育事業をやっていました。
私自身が独立して  “Scentig Design” を広げるためにどうしようかと考えた時に、アカデミーやスクールやセミナーが必要だと思ったんです。でも、教育をすることが主目的なのではなくて、私たちが何十年か先行してやってきたことの情報をどう共有するのか考えました。その情報を得た人がそれぞれの立場やそれぞれのスキルでその人なりにもっとより良いものにしていただけたらという想いでアカデミーを作りました。次世代のデザイナー・専門家を養成していくことが  “Scenting Design” を文化として作って広めて残していくためには重要なものだと考えます。

―ー現在のアカデミーの様子を伺わせてください。
アカデミーをビジネスの柱で大きな利益を得ようと思っていないので、広告をたくさん出して生徒さんにたくさん入校してもらってそれで良しとしていないんです。
自分たちができることを少数でできることからしっかりとやっていこうと思っていて、結果的に密かにやっているとかこじんまりやっているように見えるかなと思っています(笑)。

―ーそれは"一人一人生徒を見る"ことを大切にしてくださっているからですよね。

授業風景

私が責任を持って一人一人に対して理解をして寄り添って、この先も応援できるかというところも含めて考えると少数精鋭みたいになっています。

――少数精鋭であるため、授業の中で多くのフィードバックをいただきました。クラスメイトの視点や講師の方からクラスメイトへのアドバイスからも、本当に多くの気付きと学びがありました。正直、受講料は安くはないですがその価値があると思います。
受講料が高いと感じる方は多くいらっしゃると思います。
“カオリを創る” “空間に実装する” という生身の事は、空間と香りを共有しないと学べないことだと思っています。それって結構時間と手間がかかることなのですが、そこを端折らずにお一人お一人と学んでいくというところで受講料も高くかかってしまう現状があります。
この決して安くはない受講料は、私たちが常により良いものを提供することに緊張感を持つという証であり、お約束でもあるといつもそういう風に考えています。

――A Green主催の精油の産地ツアーを行なっていらっしゃいますよね。アカデミーの受講生や卒業生も参加ができるこの機会はとても貴重だと感じています。恵さんはどういった想いでこの産地ツアーを行なっているのですか。

今年9月に行われた長野での産地ツアーの様子

産地の方からの学びや精油になる前の植物自体が、どういう環境でどういうふうに育っているのかという “素材を理解する” ことで香りをデザインする時の割合や選択など精油の活用が全く異なってくると思うんですよね。精油の見方や香りを言葉で表すためにどんな言葉を使って表現するか、ということにも影響があると思っています。綺麗事じゃなくて “ホンモノであること”  “本気であること” “真摯に向き合うこと” というのは香りの世界でも振り返ると身についているという実感があります。産地で自分が得ている経験は特殊だと思いますし、想いが同じ方にはできるだけ共有して、そこから更に広がりが出ると良いなという想いでやっています。

原料となる植物との出会いが楽しいと、「アロマプランツハンター」を名乗って世界中を飛び回る恵さん

――アカデミーを受講される方に必要なことはありますか。
いろんな方がいらっしゃると思うんですね。それぞれの都合もあったり…でもそれぞれで良いと思っているんです。スキルも上手も下手も想いが強い・弱いもあるだろうし、学ぶことにどのくらいの時間を使えるかも人それぞれだと思っているんです。
ただみなさんにチャンスがありながらも “教えてもらったことをやったから点数が良いです” では、私たちのやっているScenting Designでは及ばないこともあるんですよね。
“Scenting Design” の専門家として携わるとき、自分がどう捉えどう答えを出していくかは基本になりますし、いろいろなことをやっても応用がきくようになると思います。

――最後にアカデミー受講を考える方へメッセージをお願いします
香りが好き、興味がある。何回も考えていつかやろうと思って…やはり香りに特に自然の香りを空間にしつらえることに魅力を感じているみなさんだと思うんです。
自分はできるのかなとかいろんな不安があるかもしれませんが、自分のこれまでの経験を活かしていくことができると思います。空間を通して本当にいろいろなアプローチができるので、ある種可能性がたくさんあります。見方を変えたり捉え方を変えると、自分だからこそ香りでできることがあることに自信が持てるようになっていってほしいです。

――恵さん、ありがとうございました。

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[取材・文]卒業生mao(Scenting Design Academy 卒業生) 

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