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Vol.53 止め絵の連続はアニメーションになるのか?

『合わせようとするな!合う訳がない!…とにかく(音を)出せ!…すると、合うから!』
…こんな禅問答みたいなアドバイスを受けたのは、私が ” 某 社会人音楽サークル ” にいた頃の話。
どんなシチュエーションだったのかと言いますと『「 ” 吹奏楽コンクール(注1) ” 県大会」2週間前の合奏練習』の真っ最中、合奏がうまく嚙み合わず(※ ” 音楽が停滞する ” というやつです)八方塞がりな状況でした。
その時、演奏を客席でチェックしていた臨時コーチの ” 某 打楽器奏者 ” から全員に向かって「前述のアドバイス」が出たのです。
…つまり、合奏を重ね ” 決め所を合わせる事 ” に執着し過ぎた結果、いつの間にか「 ” より確実に合わせる為に ” 各人が楽器に注ぎ込む息のスピードは緩慢になり、豊かな響きが損なわれ」「音楽全体も ” より確実に合わせる為に ” 楽曲全体通じての躍動感・推進力が失われていた」…そんなわけなんですね。

では、なぜ そんな昔話を思い出したのかと言いますと(前回(Vol.52「え~!ズレてますか?」) に引き続きの話題ですが)、先日 ” ひこね市文化プラザ グランドホール ” で開催された『第60回滋賀県吹奏楽コンクール』の「大学の部」と「職場・一般の部(←要は ” 社会人サークル部門 ” ですね)」に足を運び、各団体の演奏を鑑賞したからです。

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※これまた、前回の繰り返しの説明になりますが、書籍『聴かずぎらいのための吹奏楽入門』の著者 ” 漆畑奈月さん ” のライフワークである、『日本各地で開催される ” 吹奏楽コンクール ” の聴き歩き( #吹奏楽コンクール2024地方大会めぐりのたび )』に触発されての行動でございます。

※書籍『聴かずぎらいのための吹奏楽入門』の詳細な情報は下記にて↓

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特に「職場・一般の部」は、前述の通り ” 以前は私も出る側 ” だったこともあり、8団体の演奏すべてを興味深く拝聴したのですが、部門全体の雑感は『「演奏レベルが突出した1団体」と「(多少の差異はあれども)演奏レベルが似たり寄ったりの7団体」』という印象。
{※参考までに『「今回出場の8団体中、6団体」が「(例年2枠与えられる)県代表推薦枠」の獲得経験団体」』という辺り、「( ” 突出した1団体 ” 以外の)演奏レベルの拮抗ぶり」が伺えるかと思います。
なお、今回の県代表推薦枠は「突出した1団体」に加えて「 ” そつのない演奏 ” を披露した団体」に与えられた…というのが、私の感想です。}

ちなみに(先日、『第67回 中部日本吹奏楽コンクール 滋賀県大会/中学校小編成の部』を聴いた時も感じた事なのですが)、私の様な「無定見で ” バカ耳 ” の持ち主(笑)」が「吹奏楽コンクール」で様々な演奏を立て続けに聴くと、「一瞬 陥る状態」がありまして……こんな事を書くと本当にバカみたいですが、『似たり寄ったりな演奏レベルの団体』が『「良い…かも…?」と思わせる ” 聴かせ所 ” 』を含んだ演奏を、次々 披露するのを目の当たりにすると『ゲシュタルト崩壊にも似た「そもそも ” 良い演奏 ” って何だろう?」と考えてしまう瞬間』があるのです。
{そんな一方、ごくまれに(中高生で多いのですが)「まじめなフリ!?して本番に臨んでるものの、 ” メンバー一同 練習サボってる事 ” がモロバレな演奏」に遭遇することもあります…まぁ、それはそれで ” 別種の面白さ ” があるのですが…(笑)}

しかし、『「良い…かも…?」が一瞬漂う演奏』を聴いて混乱しても、『正真正銘の良い演奏』を聴くと、「そうそう!これこれ!」とばかりに我に返るのも事実。
私の場合、どれだけ「部分的に豊かな響き」を浴びせられても、「全体的な音楽の流れ」を感じられないと、どこか無意識的に醒めているのかもしれません。

そして、ここからは私の暴論(珍説!?)なのですが、私は『「音楽のスコア(楽譜)」は「アニメーションの止め絵(セル)」みたいなもの』と考えてまして、『「動きを逆算した止め絵(セル)」を、連続して見せることでアニメーションが成立するのだから、『 ” 音楽全体の流れ ” をおろそかにした状態で「楽譜で示される、部分的な1音、1和音、1フレーズ」を抜き出し、磨き上げても、観客は違和感が残るだけでは?』と思う訳です。
※誤解の無いように言いますが「箇所ごとに抜き出して練習すること」自体を否定したい訳ではありません。「その ” やり方 ” を間違えて、音楽の流れがズタズタになったり、推進力が損なわれたら元も子もない」という事が言いたいのです。
アニメーションに置き換えて言えば『「どれだけ美しい ” 止め絵 ” 」を繋げても、 ” 前後の絵との関連性 ” がおかしかったら、スムーズな動きには見えませんよね?』…ということです。

…もっとも、出場されてる(特に指揮者の)皆さんからすると「そんな事は先刻承知でも、気づけば陥っているんだよ!」という事かもしれませんね{※前述の ” (私込みの)某 社会人音楽サークル ” のように…}。

…では、今週の締めの吃音短歌(注1)

鐘の音の 澄んだ響きに 劣っても 出せる喋りで 想い奏でる

※同じ打楽器でも、某 打楽器奏者が叩くと「更に良い音」がしたものです…やっぱりプロフェッショナルは違いますね♪

【注釈】

注1)全日本吹奏楽コンクール

一般社団法人全日本吹奏楽連盟と朝日新聞社が主催する、年に一度のアマチュア吹奏楽団体のためのコンテスト。
1940年の「第1回全日本吹奏樂競演會」を起源に、戦時下やコロナ渦による中断をはさみつつも、今日に至るまで脈々と開催されており、下部大会も含めて「日本国内最大規模の吹奏楽イベント」という側面も持つ。

注2)吃音短歌

筆者のハンディキャップでもある、吃音{きつおん}(注3)を題材にして詠んだ短歌。
この中では『「吃音」「どもり」の単語は使用しない』という自分ルールを適用中。

注3)吃音(きつおん)

かつては「吃り(どもり)」とも呼ばれた発話障害の一種。症状としては連発、伸発、難発があり、日本国内では人口の1%程度が吃音とのこと。

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