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まほうのおばちゃんインタビュー <後編>

「まほうのおばちゃん」として佐川町立図書館で月に一度読み聞かせをしてくださっている田村裕子さん。まほうのおばちゃんの読み聞かせを聞いていると、子どもだけでなく、大人もまるで魔法にかかったように物語の中へ誘われ、わくわくしてお話を聞いていたあの頃に戻ることができます。おばちゃんの「おしまい。」の声とともに現実世界に呼び戻されますが、しばらくは物語の余韻を感じずにはいられません。

実は「まほうのおばちゃん」こと田村さんは、NPO法人とかの元気村が2006年から佐川町の図書館の指定管理者として運営していた約9年半、図書館長として活動の中心を担っていました。現在建設中の新図書館の整備検討委員会を立ち上げに関わるなど、佐川町立図書館の礎を築いた田村さんにお話を伺いました。<前編>では、旧図書館での図館長としての活動を中心にお伺いしました。<後編>では新しい図書館に対する期待をお話してくれました。

飛び出す図書館


ーー佐川町立図書館ではどのような活動をされていたんでしょうか。

田村 図書館で待っていても人は来てくれない。みなさんにもっと図書館を知ってもらおうと「飛び出す図書館」としてどんどん外へ出ていったことで、地域との関係ができてきました。学校や保育所などで出前図書館をおこなったり、学校の司書教諭さんと一緒に夏のおばけ話大会や読書スタンプラリーなどをおこなったり。あるときは高知県からの依頼で子ども司書の養成講座を開催して、小学校5年生から中学生がたくさん参加してくれたこともありました。

旧図書館での読み聞かせの様子(2022)

田村 図書館という場所の楽しさが子どもたちから、地域の方々にも伝わったんじゃないかしらと。お金がなくても、たくさんの人に助けてもらいながらみんなの知恵を集めて色々やっていきましたし、活動を資金的に援助してくださる利用者の方もいらっしゃいました。教育委員会も含め、本当に多くの人に支えてもらいました。

 そのような活動を通して、私の中にもなんだか図書館としての手応えがありました。そして質を上げていく活動のなかで、文教の町にとって図書館がどんなに大切な場所なのかというのを多くの人に知ってもらいたいなという想いもありました。そこから建て替えも含めて「新しい図書館」ということが、じわじわと湧き上がってきたんです。

新しい図書館へ


ーーそのじわじわが、どのようにかたちになっていったのでしょうか。

田村 新しい図書館が必要とされているんだということをお伝えするために、署名活動を行いました。NPOからはじまり、PTAや地域の方々、多くの方に賛同してもらい4,000を超える署名が集まったんです。紆余曲折、波がありながらもひたすら情熱を持ち続けて、はちきんといごっそう魂を燃やしながらやった結果、2014年にようやく新しい図書館についての検討委員会が発足しました。

 新しい図書館について考えていく中で、みなさんから頂いていた「こんな図書館がほしい」「こんなことができたら嬉しいな」ということや、これまで感じていた図書館としての使いづらさや改善点などをしっかりとふまえ、地域のみなさんを大切にした居心地のいい場所、気兼ねなく過ごせる場所、人を大事にできる場所、人と人とがつながる場所になったらいいなということを強く思うようになりました。

2015年(平成27年)に提出された図書館整備に向けた提言書


ーー佐川町の図書館は、本の貸し借りだけではない役割がある気がします。

田村 たとえば、お子さんの付き添いできたお母さんから育児についての相談を受けたり、佐川町へ新たに引っ越してきた方や、転勤の付き添いで来られた方から、どのように近所の人とお付き合いしたらいいかなど、そのような本以外の相談をされることも少なくありませんでした。来館者に図書館から声を掛けるということはしませんが、ちょっと少し話を聞いてよという方がお話をしに来てくださる。図書館はそういう暖かい気持ちの交流が生まれる場所だなと思ったんです。

 なんらかの理由でお仕事を退職されて、図書館に通い始めて、また再起して就職された方や、ご病気になって悩まれている方、こもりがちだったけど外へ出てきて図書館でなにかに出会う方、さまざまな方の居場所として、少しでもやりとりを交わすことのできる場所としての役割を、館長を務めた9年半大切にしてきました。なので、図書館は誰にでも開かれている場所として、例えば図書館だから静かにしなきゃいけない、なんてことはしてきませんでした。


ーー新しい図書館では、どのような活動を期待されますか?

田村 これまでの図書館では本だけでなく、人を紹介することも多くありました。佐川町のお城を調べている方には詳しい方をおつなぎしたり、佐川町の歴史を知りたいという方には佐川町の歴史研究などをされているNPO法人くろがねの会を紹介したり。図書館に来て情報を集めたいという人に私たちは頭をぐるぐると回転させて知っている限りをお伝えしていました。ほかにも、植物に詳しい人、野鳥に詳しい人、さまざまな方が町内にいらっしゃるので、ぜひその方たちのお話を聞いてみたいです。交流スペースで話を聞いて、すぐに図書館で資料を閲覧できる、インターネットで映像を見られる、「もっと見たい、学んでみたい」が出てくる。私たちの時代はアナログでしたが、今はデジタルなんかも使いながらもっと広がりがつくれるんじゃないかなと思っています。

子どもが集まるエリアのイメージ図。奥の読み聞かせスペースで「まほうのおばちゃん」の読み聞かせを聞くのが楽しみです。

田村 新しい図書館では、私も縁の下の力持ちとしてボランティアなどの活動をしていきたいなと思っています。読み聞かせもそうですが、たとえばお母さんたちが本をゆっくり選べるように、子どもたちの面倒を少しの間見るお手伝いなんかができるかなと。利用者であっても地域の住民として「適度なおせっかい」で利用者同士がお互いに助け合っていけたらと思っています。それが日常の心づかいにも広がっていって「さかわらしさ」になっていく。そんなことを夢見ています。


今でこそ、本の貸し借りだけではない図書館の役割が注目されていますが、田村さんたちは手探りながらも、いや手探りだったからこそ、さまざまな方々の支援や協力、そしてなにより図書館運営者としての情熱によって、地域に根ざした図書館づくりをされてきました。人と人とがつながりをもち、佐川町という地域だからできること、そこから生まれる「さかわらしさ」。これから新しい佐川町の図書館がどのようにそれを受け継いでいくことができるのか、とても楽しみです。


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