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今だから、読んでみる意味がある

2021年、アガサ・クリスティ賞を、満場一致、しかも審査員全員が満点を付けるという快挙で受賞したこの作品。
当時、日頃は冷静な書評で知られる鴻巣友季子さんが、熱い評を書かれていたので驚いた。
もちろん、他の書評も沸騰!
中には、「これ以上の作品が書けるのか、著者の今後が心配」なんていう、余計なお世話的評もあったりした。
で、もちろん読みました。
いや、面白い!こりゃ、審査員全員満点付けるわ!と興奮し、私の講座の受講生さんにもかなりお勧めした。
巷には「ほとんど鬼滅の刃」なんていう人もいたけど、そりゃそうですよ。
この作品も鬼滅の刃も、<何らかの枷を抱えた人間が、さまざまな出会いや、本人の修練や、予想できなかった事件に遭い、その都度葛藤を抱えながら成長を遂げていく>と言う物語の定型、基本を押さえた上で、そこにオリジナリティを出していってる。極めてオーソドックスでありながら新しいという、正統派で面白い作品になってるわけです。
この辺は、私の講座の受講生さんなら「ふむふむ」とうなずいてくれるはず。

キャラクターの書き分け、武器、銃器の描写、戦況の説明、どれをとっても面白く、興味深かった。
深緑野分さんの「ベルリンは燃えているか」を読んだ時も考証の緻密さに驚嘆したけど、この小説も凄い。
独ソの対戦なんて誰が興味ある?って思ってしまうけど、いやあ、こんなに激しいものだったとは。
そして、戦争について、戦時の人間について、考えさせられた。戦争は始めた時点で失敗。
そしてどこの国民だろうと、戦いの最中にいるときは同じ。獣だ。

って、上記は2021年に、初めてこの本を読んだ時に感じたこと。
その時は、ハリウッドで映画化すればすごく壮大な作品になるだろうな、なんて思っていた。
でもまあ、第二次大戦のしかも独ソ戦なんて、ハリウッドで映画化はないよなあ。
待てよ、NETFLIXならあるのか?
舞台化はどうよ?舞台化するなら、主人公のセラフィマは清原果耶さんが良いなあ…なんて脳天気に妄想していたのだった。

ところが、2022年になって、ウクライナがあんなことになり、セラフィマが生きた時代のようなことが起こってしまった。
しかも、ナチスと戦ったセラフィマの国が今度は侵略者なのだ。
何故、こんなことを始めてしまったのか。
ヒトラーのように、プーチンのように一人の人間の我欲が、狂信がやがて周囲を巻き込んでいく。
戦争は始めた段階で失敗。これだけは2021年と同じく確信している。
それまでに防げなかったことを、今ウクライナを応援している西側諸国も考えなくちゃいけない。
ウクライナへの支援が武器であることは、ロシア人の死者を生む事に直結する。
ウクライナを助けることがロシア兵の死者を増やすこと、これがやりきれない。
なんで、こんなこと始めちゃったんだ!
怒りを込めながら、もう一度この小説を読んでみよう。

同じように考える人が多いのか、各局のニュースでも取りあげられ、著者へのインタビューが続いている。
その硬い表情を見ると、辛いだろうなと思う。
作者が描いた世界が現実のものになった時、その世界が幸せなら良いけど、今のような状況ではやりきれないだろう。
でも、この作品に籠められた「反戦争」を今こそ受け止めなければ。
そして、このような時期での受賞であっても、言祝ぎたい。
この作品は上質のエンタテイメント作品であり、そして、戦争がない時でも戦争に対して深く考えさせてくれる小説だから。
未読の方にはぜひオススメしたい。
今、読む価値がある。

そして、ウクライナの人々がこれまでもどれだけの苦難に耐えてきたのか、こちらの映画を見たら、よくわかる。

ただし、すごく心が痛くなるので、見終わった後にオキシトシン補充ができる状態でご覧になることをオススメします。
(私はこの手の映画の後は愛犬を抱きしめることにしている。でないと辛すぎる)

同志少女よ 敵を撃て
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