散歩夜想(創作怪談)
薄暗い道を歩く。
街頭が点灯している。明滅。
どうやら路肩の植木の間を、毛が抜けた猫がすり抜けている。
右、に気配を感じた。
『あれは』
小学生か?
痩せっぽちの小学生が、親に着せられたのが丸わかりのちぐはぐな服を着て立っている。
『なに』
話しかけてくるとは思わなかった。
小学生は、下を向いたまま、僕の方を向いて、地団駄を踏んでいる。
僕は、フロイトの精神分析を思い出した。
人間の精神を科学で塗り固めた…
空を見上げると、ポツリ、と雨が降った。
『あの水筒』
あの水筒?
『返して』
じゃあ、水を入れてあげるよ。
君の中には、何人居るの?
『僕は僕だよ』
そうか。
耳元で女が囁いた。
『返して』
返せない。もう返せないんだ。
『返して』
君は、彼等の結婚式に居たんだってね。
セカイは、自己の意識で更新されるのか?
『では、想像力は』
レノンは殺された。
自分と家族を守るんだ。
『そう』
遠くに見えるビルを、巨大な影が覆っている。
人。の。形。
それともあれは…。
僕は夕飯に食べた町中華のチャーハンを思い出した。
甘酸っぱいね。
学校のピアノ室で失禁した彼女は、何故僕に抱き付いたのだろう。
『3つの、大丈夫。』
何故、ノイローゼのあの先生は子供を大人として扱ったんだろうね?
まるで性的虐待じゃないか。
宗教施設が立ち並ぶ通り。
お香の香りがする。
『人間は』
人間は?
『』
何故だまる。
人間は?
じゃあ代わりに答えるよ。
「明日が見たいんだ。」
『そう』
雨は誰かが降らしているのか?
僕は考えるのを辞め、小学生に手紙を渡した。
『水筒は?』
水筒は、もっと先だ。
悪い風が吹いた街を、おじいさんがほうきで掃いていた。
『その影は』
遠ざけろ。
了