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焼き鳥屋のおじいちゃん 【エッセイ】
茅場町、9階オフィス。窓の外は曇り。街に雨の気配が沈澱しているようで、どんよりと息苦しい。お昼を過ぎたあたりから頭がぼーっとしてきたので早めに仕事を切り上げた。こういう時、個人色強めのうちの会社はありがたい。
貧血、と見せかけて恐らくストレス。自分のなかで他人が大きくなりすぎている時の症状。地球生活27年目ともなると多少は己の取説が充実してくる。
新卒採用が辛い。上手く質問できないことに対する自己嫌悪、他人の生活へ踏み込むことへの抵抗感、言葉を勘ぐることへの罪悪感。そんな私に対する上司の視線、22歳の視線。こちらが査定されているような感覚。憂鬱が向こう一ヶ月まで広がっている。
何かをしなければいけない。1時間有給を使ったのだ。何かをしなければ。知らないどこかに連れて行ってくれる何か・・・
そうして最寄りの駅前の小さな焼き鳥屋さんへ初めて寄った。コーヒースタンド程度の窓口。地域と共に年を重ねてきたようなくたびれた外観。文化も活力も感じられないこの町へと引っ越してきて以来、唯一気になっていたお店。気になっていたけど、放つ温度感が地元民に向けられていることを物語っており、なんとなくまだ行ってはいけない気がしていたお店。
新聞を読んでいるおじいちゃんに、レバーとももを1本づつ頼む。目の前で焼き始めるおじいちゃん。頑固そうな人を想定していたが、なんだかくりくりとした人懐こい雰囲気。くりくり、が似合う。
「最近引っ越してきたのか」
見たことない顔だなと思われたらしい。
間違いなく"地元のお店"だ。どきどきした。
聞かれるがままに、半年前に引っ越してきたこと、会社勤め6年目に入ることをつらつらと話した。
「やめたらダメだよ」
仕事の話をしているらしい。しかし、言ってない。事実関係を伝えただけで、会社を辞めたいとは一言も言っていない。
「人間にはバイオリズムがあって、それが3年の周期。周りに色々言われて流されそうになるかもしれないけど、絶対に続けたほうがいい」
辞めたいとは言ってないけど、”おじいちゃん”と形容することに抵抗を感じないような年齢の人の口から”バイオリズム”。ただのおじいちゃんではないのかもしれない・・・。
「やめたら給料が下がるから。
大手の会社に移るならいいだろうけど」
思っていたより現実的な話だった。
その後は、口の固い社員を見つけて彼氏が欲しいと相談しろ、とのアドバイスを頂き(ちなみにこれも言っていない)、自分が持つべき正しい感想が分からないまま焼き鳥を受け取り帰路についた。
噛み合ってるんだから噛み合っていないんだか分からない時間。でも、誰かが死ぬわけではない。誰も死なない。ぼんやりとそんなことを考えた。
家に帰ったら、新しく買った本を読もう。
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