避難所の音対策、説得して訴える声――「災害と音」

2024.1/05 TBSラジオ『荻上チキ・Session』OA

Screenless Media Lab.は、音声をコミュニケーションメディアとして捉え直すことを目的としています。今回は、2024年1月1日に生じた能登半島地震を受け、災害と音に関わる研究等を紹介します。

◾避難所における「音」対策

サウンドスケープ(音風景)や騒音研究を専門とする福島大学の永幡幸司氏は、『避難生活における音の問題』と題した解説記事を、2017年に日本音響学会誌に発表しています。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jasj/73/4/73_249/_pdf/-char/ja

それによれば、新潟県中越地震の際の避難所では、子供の騒いだり泣く声、他の避難者の声、足音やいびき、テレビの音などが気になったと報告されています。特に子供の声は、親が他者に対する気疲れを感じたり、逆にそうした親が気にしていることを思い、我慢した、といった声も聞こえました。

他にも、聴覚過敏の人にとっては、避難所、特に体育館の音は、様々な音が混ざり合っており、特に苦手な音環境であるとされます。

これらに対する対応として、もともとは防寒対策として、床に工業用断熱マットや体育の実技の際に用いるマットを敷き詰めたところ、思った以上に体育館特有の残響音がカットできたといいます。また避難所内での仕切りに吸音性能を有するポリエステルの不織布を用いてパーテーションを区切ることも有効だったとのことです。(その他、解説記事では避難所ではテレビなどの設置場所を「居間」と名付け、そこに人を集めることで、全体的なテレビの音を抑えることができたといいます)。

当ラボでも、騒音対策としての吸音材についていくつか紹介してきましたが、今後は避難所など、主に災害対策としての「吸音材」という視点も必要でしょう。

◾「情報を伝える」から「説得して訴える呼びかけ」へ

次に、災害発生時、NHKのアナウンサーが非常に強い口調で「東日本大震災を思い出してください!」「命を守るため、一刻も早く逃げてください!」とアナウンスしていました。SNSでは一部、これを批判する意見もありましたが、口調を変えることは非常に重要です。

例えばNHKは東日本大震災をきっかけに、災害時のアナウンスの訓練を続けており、災害マニュアルの作成に力を入れるとともに、「とにかく逃げてもらう」ことを大切にしており、それをNHK取材ノートとして2021年に記事にしています。

取材ノートによれば、東日本大震災時のアナウンスは落ち着いた声や、表現も過剰なものを抑えており、現場でも「命を守ることば」が出てこなかったこと、つまり言葉に重みを乗せられなかったことに後悔があったとのことです。

こうした経験を踏まえ、現在では災害マニュアルが更新され、アナウンサーの呼びかけはさまざまな災害に対応した100以上のパターンが掲載され、大規模な災害などのたびに、内容も見直しがされているとのことです。

そこで今回の地震についてみれば、元日に発生しており、お酒を飲んで気持ちが緩んでいる人も多いと予想されます。人には「正常性バイアス」という、状況が変化しても「まあ変わらないだろう」と思ってしまう「癖=バイアス」があります。

そうした状況において、「これは異常事態だ」ということを認識してもらうためには「非日常」な声でアナウンスする必要があります。先程のNHKの取材ノートでは、「情報を「伝える」だけから、「説得して訴える」呼びかけへ」とありますが、今回はまさにそれを実践したことになるでしょう。

加えていえば、以前も紹介した通り、有事を知らせる音は、人の気を引き、かつわざと不快になる音を意図して作成しています。例えばJアラートのサイレン音は、人間に聞き取りやすい範囲の800Hz~1200Hz程度の音にしています。

◾報道ヘリの音

次に、メディアがヘリを飛ばしていることで救助に差し障りがあるとSNSで指摘する声がありましたが、これも正確ではありません。

こちらも2021年のNHKの記事で解説されています。それによれば、(少なくとも現在の)報道ヘリは上空で無線のやりとりを行っており、救助のヘリに無線で場所を伝えたり、ヘリからの映像をみている放送局の人が、救助要請している場所を調べて関係機関に通報したりしているとのことです。

また、救助ヘリは1000~1500フィート(300~450メートル)を飛びますが、報道ヘリはそれより高い2500フィート(750メートル)を飛ぶことで棲み分けをしたり、なるべく地上に響く音を少なくしているとのこと。とにかく、ヘリ単体だけでなく、様々な機関と「連携すること」。これがなにより重要でしょう。

他にも以前お伝えしたように、言葉の意味を認識することに困難を抱えた、高次脳機能障がいのある方には、情報を伝える際、棒読みするよりも、リズムを強調した読み方、特に女性の声で、歌の方が理解しやすい、といったことを示す研究もあります。

今回の地震でも、様々な人に情報を伝えるために文字では外国語やひらがなによる情報発信が行われました。今後は情報を伝える「音」にも様々な工夫が求められます。これまでご紹介してきた技術の他にも、合成音声を用いて、その人のニーズに会った音で、情報を伝える工夫があってもよいのではないでしょうか。災害時に使われるべき音については、さらなる研究と準備が必要です。

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