災害時に音をどのように伝えるかーー「音の伝え方」を考える

放送の様子はこちら(下記サイトでは音声配信も行っています)。
「災害時に音をどのように伝えるか~「音の伝え方」を考える」(Screenless Media Lab.ウィークリー・リポート)
2020.7/24 TBSラジオ『Session-22』OA

Screenless Media Lab.は、音声をコミュニケーションメディアとして捉え直すことを目的としています。今回は、災害時や日常のコミュニケーションにおける、語り手の音の伝え方について紹介したいと思います。

◾災害放送の効果的な伝え方とは

2020年7月に九州地方で生じた大雨は、各地に大きな被害を及ぼしました。毎年、日本のみならず世界中で起きる災害対策に、音はどのように取り組むことができるのでしょうか。例えば災害状況を知らせる災害放送は重要なものですが、大音量であれば人々に届くとは限りません。音が聴き取りづらい人には、その特性に合わせた放送のあり方が必要です。

そこで、次のような研究があります。「言語音の認識が難しい高次脳機能障がい者が理解しやすい災害放送とは? 」という論文は、題名の通り注意障害や記憶障害といった言葉の意味を認識することに困難を抱えた、高次脳機能障がいのある方に向けた、災害放送のあり方を研究したものです。

研究では、情報を抑揚なく棒読みするよりも、リズムを強調した読み方、特に女性の声が聴き取りやすく、また朗読形式よりも歌の方が理解しやすいという結果が得られています。こうした研究を踏まえれば、災害時においては情報を一定の幅で朗読する形式だけでなく、リズムを意識したものなど、様々な配慮が必要になるでしょう。さらに、住民が少なくニーズを把握できるような地域の場合、そうした対応をより細やかに行うことも可能であるように思われます。

◾話し手の音声をクリアに変換する

日常生活においても、高齢化などによる聴力の衰え、最近では「ヒアリングフレイル」と言ったりしますが、これによって家族の会話に入れなかったり、またつい大声になってしまってトラブルを抱えてしまうなど、音の聴き取りに困難を抱えている方は多くいます。

そのための支援も様々に考えられていますが、ユニバーサル・サウンドデサインという会社が開発した、卓上型会話支援機器「コミューン(comuoon)」もその一つで、話し手の声を聴き取りやすいものに変換して聴き手に伝えるというものです。同社によれば、音の聴こえにくさの原因は、音量ではなく「こもった音」といった音の種類にある場合がほとんどとのこと。つまり、単に音を大きくすれば解決できるものではないのです。そこで「コミューン」は、特に聴き取りにくい高周波音域の音をクリアに変換しているのです。

こうした機器は、聴き手ではなく話し手の方からアプローチするものなので、聴こえづらさや過去のトラブル体験によって、声を出すことに躊躇がある聴き手の、心理的な障壁を取り除くことに貢献できるでしょう。コミュニケーションにおいては、聴き手だけでなく、話し手からのアプローチも、今後はより重要になるように思われます。

このように、聴き手の側の問題とみなされることが多かった音の問題を、近年は伝える側、話し手の側からアプローチするようになっています。災害時においても日常生活においても、音に関して社会が取り組むべき問題に、今後も取り組んでいくことが求められます。

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