不快である必要のある音ーー「Jアラートの音の仕組み」の紹介

2022.11/18TBSラジオ『荻上チキ・Session』OA

Screenless Media Lab.は、音声をコミュニケーションメディアとして捉え直すことを目的としています。今回は、Jアラート等の、いわゆる「不快な音」の仕組みについて紹介します。

◾Jアラートの発令によって鳴った「国民保護サイレン」

2022年10月4日午前、北朝鮮から弾道ミサイルが発射され、政府が全国瞬時警報システム(Jアラート)による警報が発令され、一部の地域でサイレンが鳴りました。

Jアラートやミサイルを巡っては様々な議論がありますが、ここではJアラートの「音」に注目したいと思います。IT系情報サイト「ITMedia」は、Jアラートの仕組みについて詳しく解説しています。以下、同記事を中心にJアラートの仕組みについて解説します。

正式には「国民保護サイレン音」と呼ばれるこのサイレンについて、内閣官房は「武力攻撃が迫り、又は現に武力攻撃が発生したと認められる」場合に、サイレンを使用して注意喚起が図られるとあります。つまり、サイレンは緊急事態に発せられるものであり、その意味では「不快で怖い音」であることは当然だと言えるでしょう。

実際、内閣官房が避難訓練を行った際に、参加者34人に行ったアンケート調査では、室内スピーカーから「音がよく聞こえた」と回答したのは30人(88%)。緊張感を全く感じなかった人は0人(0%)でした。

では、国民保護サイレン音について、簡単に説明します。まず、このサイレンは2音が合わさった不協和音になっており、またピアノのようにはっきりとした音階に分かれておらず、音程が徐々に推移するようになっており、不安定に聞こえます。
(音声は以下から聴くことができます。mp3への直リンクなので、すぐに音が鳴ります。ご注意ください。)

https://www.kokuminhogo.go.jp/data/siren.mp3

またこの音、音量が小さくても、人間には聞き取りやすい範囲である約800Hz~1200Hz程度の音になっています。さらに言えば、より聞き取りやすい音はあるものの、それらは高齢者には聞き取りづらいものであり、そういった理由から外されていると考えられます。このように国民保護サイレンは、不安を掻き立てると同時に、多くの人に届くように設計されていることがわかります。

◾緊急時の様々な「不快音」

また記事では他の音についても解説しています。例えば携帯電話から聞こえる緊急地震速報の音(キュッ、キュッと鳴る音)は、「ノコギリ波」という派手な音が出る波形の音で、テンポも緊張した時の人間の心拍音に近い速さになっています。

さらに、NHK等テレビで流れることも多い「緊急地震速報チャイム」は、1954年の映画『ゴジラ』の楽曲を手掛けた伊福部昭(あきら)氏の甥で、音響工学等が専門の工学者、東京大学名誉教授の伊福部達(とおる)氏が手掛けたものです。

音としては、「ソドミシ♭レ#」という和音と半音上の「ソ#ド#ファシミ」という和音を、短時間に駆けあがるように鳴らしたもので、聞き取りやすい音でありながら、不安を掻き立てる音となっています。ちなみに、この音は2020年度のグッドデザイン賞を受賞しています。(以下の動画の20秒過ぎに音が流れます)

このように、不快な音こそ、人に届くように注意深く設計されており、それによって私たちは適切に不安を感じることができるのです。

◾音を届ける工夫

適切に音を届けるという意味では、当ラボが以前紹介したように、「誰」を対象とするかでも、音の種類は変わります。例えば、高次脳機能障がいのある方に対しては、情報を抑揚なく棒読みするよりも、リズムを強調した読み方、特に女性の声が聴き取りやすく、また朗読形式よりも歌の方が理解しやすいという研究があります。

このように、音はその用途や対象を考慮して構成される必要があります。いずれにせよ、人に聞かせる音には、様々な工夫がなされているのです。

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