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人事トラブル相談所④「コロナで店舗休業。休日前倒して、労働日後ろにズラせないの? ~変形労働時間制のリアルな使い方㊙~」

 コロナが世間を賑わしてから、早1年が過ぎようとしていますが、まだまだワクチン接種も進んでおりませんね。
開催可否はともかく、東京オリンピックに「ワクチン接種」という競技種目があれば、世界最下位になれる気がしてやみません汗

さて、そんな話はさておき・・・

コロナ禍における休業対応

 この緊急事態宣言が長く続く状況では、いわゆる現場系の仕事(アパレル、飲食、ホテル、百貨店など)では色々と想定しない事も多々起きており、その中でも国や自治体から休業要請など外的要因を受ける場合、社員のシフト管理にも大きな影響を及ぼしていると思います。

コロナに限らず、イレギュラーな事態が起きた時に、いわゆる休業補償(労基法26条)を使用するまではいかずとも、当初組んでいたシフトを一定期間組み替えて「店舗休業期間に当初よりも多く休日を設定(前倒しで休日取得)し、その分休業明けの稼働に備えて労働日を増やす(後倒しで稼働日増)ことはできないか?」など、よく相談を受けることがあります。

例えばある3ヶ月間の休日合計「24日(各月8日)」となっている際、上記のような対応をして「12日+6日+6日」にするとしましょう。
一見、休日合計は変更ないため問題なさそうですが、2ヶ月目と3ヶ月目は休日出勤や時間外労働が発生するような形となりコスト面から弊害が出てきてしまいます。(1ヶ月目は給与満額支給する前提のため労働者に不利益はないものとします)

もちろん、従業員との合意の下、「結果的に休日数は変わらないため、給与も満額支給するのでうまく働いておいてください」と言って理解があれば、実務的な運用には支障をきたさずに進めることが出来るので短期間であれば、多くの企業でも暗黙の了解となっているケースだと個人的には思います。

とはいえ、このような先が見えない状況では、「もっと先の期間まで見据え長期間にわたって労働日と休日の調整をしたい」とか「あとで勤怠を見た時に偏りがありすぎて、調査があったときに未払残業代を指摘されるんじゃないか」など不安の声もあるでしょう。

変形労働時間制

 そのようなオーダーにもうまく対応できる制度として、「変形労働時間制」という制度があります。

この制度を1行でまとめると・・・・

「通常の勤怠管理よりも枠を広げてあげるから、その中で労働時間や休日の帳尻を合わせておいてくれればいいよ」

一般的には「1ヶ月変形」や「1年変形」などが多く使われており、ある程度事前の繁閑予測がつく場合に運用しています。
例えば、百貨店などは2月・8月の閑散期として労働日数を減らす分、12月・1月などの繁忙期に増やす。といった1年間での運用です。

ただし、コロナが続いている状況では少し設計しづらいという点があるのでこの「1年」というものを各企業に応じて対象期間を勝手にイジッて運用をすればよいのです。(違法行為を薦めているわけではないです・・・)

ミニ変形労働時間制

 1年でもなく、1ヶ月でもないため、ここでは適当なネーミングで「ミニ変形労働時間制」と名付けてしまいましょう。
(所詮1年変形の派生なのですが、ゴチャらないように区分してます)

1ヶ月変形 << 「ミニ変形労働時間制」 << 1年変形

1年単位の変形労働時間制は「1ヶ月を超え1年以内」という条件であれば3ヶ月であろうが、5ヶ月であろうがOKです。
(もちろん1年変形同様に一定の手続や制限はかかってきます。が、面倒なのでここでは省略します)

「1年単位」という名前から、どうも世間では1年で設計するものだ。と思い込んでいる方が多いようですが、そんなことはなく上に記載したように企業側で勝手に期間を設定すればいいだけの制度です。

そのうえで、先ほど記載をした3ヶ月間の休日合計を「24日(各月8日)」から「12日+6日+6日」に変更するなどの運用ができることとなります。

この制度を上手に活用することにより、先を見据えての休日調整が可能となり、また勤怠や未払残業代に怯えることもなく運用できることとなります。
「もう休業が始まっちゃったから間に合わないのでは?」という場合も変形労働時間制は、36協定ほど事前届出に厳しくないようで、届出などは多少遅れ気味でも適切に運用していれば、そこまで労基署もガミガミいってきません。

これは労基署調査の時にも担当官へ確認をしているのと、労働日・休日を記載したカレンダーなどを提出する関係でそれらを必ずしも事前に出せる状況にない事を想定しているようです。

運用の留意点

「ミニ変形労働時間制」を運用するにあたり注意すべきことがあります。

それは、36協定の設定時間について、対象期間が3ヶ月を超える場合の「ミニ変形労働時間制」を敷いた場合、変形対象期間だけでなく、開始期間から1年間の間、全ての1ヶ月上限が「42時間」、1年上限が「320時間」になります(労基法36条4項)
※通常は、1ヶ月「45時間」、1年「360時間」です。

そのため、対象期間を終えたあとも1年経過するまでは、時間外労働については少し注意が必要ですが、このあたりは特別条項を併用しながら勤怠管理を厳格にすることで解消されるものと考えます。

なお、上記の「ミニ変形労働時間制」は、通常の時間管理の運用から変形労働時間制に切り替える場合のお話のため「元々1年変形労働時間制をとっていた場合はムリでしょ?」とツッコミが入る可能性があります。

その点について、確かに「1年変形をすでに運用している中で特定されている労働日の変更につながるため、休日数を変更することは原則認めない」と、お堅い資料(昭和の基発)に記載があるのは事実なのですが・・・

世の中、表があれば裏があるのと同じで、原則があれば必ず例外というものがあります。何かと面倒くさい行政通達までよくみてみると「労働日の特定期には予期しない事情が生じやむを得ず休日の振替を行わなければならないことも考えられるが、そのような休日の振替までも認めない趣旨ではなく・・」と書いてあります。(やるじゃん通達、やっちゃえ通達)

そのため、自己に都合よく解釈するまでもなく、全世界の危機になっているコロナは、当然予期しない事情そのもののため、この辺りは、既に年変形を運用している企業でも否定される要素もないと推察します。

なお、休日を振り替えたあとに、連続労働日数が7日以上にならないよう注意することは言うまでもありません。

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