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コロナと共にスポーツはどう変わりゆくのか?~学術論文より~

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約1か月前、noteに「アフターコロナとスポーツ」というタイトルのコラムを配信しました。コラムでは以下のように締めくくりました。

「オリンピックのモットーの1つに「より強く」という言葉があるが、スポーツの美徳を「強さ」ではなく「優しさ」にする。そんなふうに、スポーツの在り方を変えながら、スポーツを用いて、一人でも多くの人達を笑顔にできるよう、S.C.P.Japanは活動していきたいです。」

さて、今日は私たちの「想い」ではなく、学術的にCOVID-19 がスポーツに何を投げかけたのか、European Journal for Sport and Societyに2020年5月に掲載された、Sport in the face of the COVID-19 pandemic: towards an agenda for research in the sociology of sportの内容を、分かりやすさを心掛けてご紹介したいと思います。(短くコンパクトにまとめましたので、全文で確認されたい方は、論文にアクセスお願いします。)

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スポーツは産業なのか?福祉なのか?

 スポーツは果たして本当の「産業」と言えるのか?ということを再度考え直す必要があるかもしれません。COVID-19の影響によりプロリーグが直ちに中断し、給与や賞与に影響が出ました。地域クラブや施設もメンバーシップや利用料金に運営の多くを頼っている中で収入源がなくなりました。また、そもそも夏季スポーツや冬季スポーツは季節労働ですし、オリパラや国際競技大会の組織委員会で働いているイベントワーカーもいます。このような不安定な要素をどのようにコントロールできるのか。課題は残ったままです。

そして、スポーツは「福祉」なのか?という疑問もあります。日頃から行政施設を利用しているチームやクラブと、企業やチームが所有している施設を利用しているクラブやチームとは、財務的な負荷に大きな差がありました。
スポーツがその国や地域でどのように位置づけられているのかにもよりますが、何をスポーツとするのか?スポーツは行政がサポートする公的で福祉的な領域のものなのか、私的な領域のものなのか。スポーツはなくてはならないものなのか?こういった議論が予想されています。

従来のスポーツシステムに変化は起きるのか?

COVID-19の影響を受けて、「スポーツのグローバル化は終了した。」と述べている研究者もいます。これまでの国際競技大会を中心に置いたスポーツシステムの限界が来ているとの見方も必要でしょう。

またローカルレベルでは、社会参画、多様な人々を結び付ける場としてのスポーツクラブの役割は今後も果たすことができるのでしょうか。COVID-19 により、感染源になり得る可能性があるために人々が集うことができなくなった地域スポーツクラブは、今後、地域にどのようなメリットをもたらすことができるのでしょうか。これは、スポーツの種類(屋内スポーツか屋外スポーツ)によっても状況は異なります。感染リスクの高い人々はよりスポーツに参画することが難しくなり、スポーツの中の不平等を更に拡大する可能性があるでしょう。

COVID-19によって不平等は再確認されたのか?

貧困などの問題により、社会から孤立している人々、密集で暮らすことを余儀なくされている人々はCOVID-19の高い感染リスクがありました。また、医療従事者やエッセンシャルワーカーはソーシャルディスタンスが保てず、常に高い感染リスク下にいることを余儀なくされました。また、ホームレス、難民といった日頃から取り残された人々のリスク管理は後回しになり、裕福な人々よりも、大きく負の影響を受けました。また、COVID-19は中国を初めとする東アジアの人々に対する人種差別も助長しました。

このような社会的不平等の再認識はスポーツ界でも見られました。主にヨーロッパ男子サッカー選手のみに要求された給与カットは(イギリスの厚生労働大臣が直接要求することも)、スポーツ界におけるジェンダーの不平等や、スポーツのヨーロッパの中心性の再認識となりました。さらに、選手には給与カットが要求された一方で、プレーヤー以外の業務に従事する人々は仕事を失いました。政府にサポートを求めるチームもありましたが、批判を受け取り下げています。行政がスポーツ産業を支援すべきなのか、考える必要があるでしょう。スポーツの優先順位や位置づけも国や地域ごとに異なりますので個別に考えていく必要があるでしょう。

これらの構造的な不平等は存在し続けるのか。社会的に受け入れられる不平等とはどの程度なのか。資本主義に依拠したスポーツシステムは持続可能なのか。国際競技大会は大勢の観客、スポンサーシップ、アスリートの安全な移動を維持できるのか。なども考えていく必要があります。

アスリート、指導者、他のスポーツ関係者への影響と、将来の指導スタイルの変化は?

アスリートと指導者の関係性にも変化が生まれました。指導者はアスリートとの距離を保ちながら、オンラインなどを利用して、アスリートのパフォーマンス、ケガの確認、トレーニングのフィードバックを行わなければならない状況になりました。また、チームスポーツでは指導者がチームビルディングを実施することが困難な状況となり、指導哲学や指導方法にも変化が求められています。

また、カリフォルニアでは、身体接触を減らすために、体育教育の時間を減らすべきとの指摘もありました。スポーツの実践はカメラ越しに一人で完結できるものや、家族と一緒にできるものに変わり、個人で実施できるアウトドアアクティビティも拡大することが予想されています。身体活動量は維持しつつも、スポーツによる他者との交流は制限がかかるでしょう。また、e-sportなどのスポーツのデジタル化への変化も注目するポイントです。

大規模競技大会の相次ぐキャンセルはアスリートのキャリアデベロップメントにも大きな影響を与え、引退を決断する選手も増えるかもしれません。一方でドーピングや罰則によって競技会に参加することを禁止されている選手、ケガをしている選手にとってはこの中断期間はプラスに働くでしょう。アスリートはアスリートとしてのアイデンティティを失いメンタルに影響を及ぼすことも示唆されています。

ウイルスは新たにスポーツから排除される人々を生み出すのか?

COVID-19はスポーツから新たに排除される人々が生まれる可能性があります。高齢者、妊産婦、疾病を抱えている人々は、感染のリスクが高いことから、スポーツへの参加から遠ざかるようになりました。高齢者、妊産婦、疾病を抱えている人々がますます社会の接点から遠ざかり、孤独になる可能性も考えられます。

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