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「整えすぎない」というお話

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いつも週1コラムを読んでいいただきありがとうございます。S.C.P. Japanの井上です。今日は”インクルーシブ”という壮大なテーマにおいて、私が大切だと感じている「整えすぎない」ということについて、お話をしたいと思います。是非最後まで読んでいただけると嬉しいです。

突然ですが、皆さんがもし、障がいのある子ども達とスポーツ活動をすることになった指導者や先生、或いはスタッフの立場なら何を考えますか?

・どんな障がいの子がいるのだろう?
・どんな特性があってどんなことならできるだろう?
・逆にどんなことは難しいだろう?
・ボールは蹴ったり投げたりできるのかな?集団でのゲームは成り立つのか?

聴覚障がいの子であれば、ホワイトボードを用意して書いて伝えよう。
知的障がいの子がいるのであればゆっくりわかるように、時には指文字も使って説明しないと。
視覚障がいの子用の音のなるボールと見えやすい備品を揃えよう。
肢体不自由の子であれば、ゲーム強度を少し落としたり、特別ルールを付け加えようか。
重度の障害だったらどうしよう?あれ、そもそも会場はバリアフリーだったっけ?
障がいの特性をもっと勉強して理解して、事前に最善の場を整えないと!

このように上記のようなことを考えれば考えるほど、その子達一人ひとりではなく、”障がい”というものばかりに目がいってしまいがちです。障がいを理解することと、子ども達一人一人を理解しようとすることは全く別でなければならないのに、整えることに必死で後者が後回しになってしまうことがあります。整え漏れなんかがあった時には、さあ大変という感じで、子ども達そっちのけでまた整え作業に入ってしまえば、もはや本末転倒です。

前置きはさておき、

今回は、私が「整えすぎない」に繋がる、大切な気づきを与えてもらった時のお話をしたいと思います。
医療的ケア児の子ども達と運動遊びをさせていただいた時のお話です。

ある日、急遽お世話になっている方から「明日井上さんの運動遊びプログラムやってみませんか?」とお話をいただきました。「やってみたいです!」とすぐに答えたものの、医療的ケア児についての知識があまりなかった私は不安もかなり大きく、「どのような病気というか、、どんなケアが必要な子ども達なのでしょうか、、?」と質問をしました。

相手の方は「それは別に気にしないで考えてもらって大丈夫です。井上さんがやりたいと思うことをやってください。」と楽しそうに答えました。

・・・・

不安99%と1%のワクワクでメニューを考え、夜はあまり寝付けないまま、あっという間に次の日がやってきます。

朝、続々と子ども達がやってきます。スタッフも送迎やら、受け入れで忙しそうな中、私はというと猛スピードで情報収集。使える物は?スペースは?参加する子どもの様子は?あせりと不安が高まります。
勝手に一人ドキドキしている私に、スタッフの方が声をかけてくれました。
「今日はどんなことされますか?」
「あの、、○○ゲームをやりたいと思うのですが、、、。」というと少しびっくりされました。
私も朝から周りの様子を見ていて、私の考えてきたメニューが求められているものと違っているのでは?感を自分で感じていました。「そうですよね。これは難しいですよね・・・。」と私が気まずい空気に耐えられずに思わず口にすると、「難しくは、、ないです。」となんとも言えない表情でスタッフの方は答えられました。

話は変わって、まずそもそも「医療的ケア児とは」ということすらも知らない私に、なぜこのような時間をくださったのか。

私達大人は知らず知らずのうちに子どもの周りで起きる様々なことを整えています。
これは難しいからなくしてあげよう、これならできるからやらせてあげよう、これを用意しておこう、ここには危ないから行かせないでおこう、これは複雑だから先に教えてあげよう、というように。

でもそうやって何となく無意識でいろいろと整えていたところに、整え方を全く知らない人が来て、突然想像もしなかったことをやりましょうと言ったら?

スタッフの方はそういった機会を求めていると、おっしゃいました。

「私たちスタッフはそういうものが必要なんです。よく知っている子ども達だからいつの間にか制限をかけてしまっていることがある。突拍子のないことが思いつかなくなっている。できる、できない、を勝手に決めつけるのではなく、やってみてできる方法をみんなで考える。だから今日はあなたに来てもらって全然子ども達を知らないあなたが考えたことを、みんなでどうやってみるかを考えることが私達には大事なんです。」

この言葉に私は雷に打たれたような衝撃を受けました。
自分はいつも子ども達の可能性に無意識のうちに蓋をして、整えようとしすぎていたのでは?と自問自答をしました。

インクルーシブな場って、経験の場って、事前に整えてあげることではなく、みんなで作っていくものなのです。
どちらか一方が与えて、どちらか一方が受け取るのではなく、両者が与え受け取り合いながら一緒に育てていく。整え過ぎてなんだか窮屈になったら、たまに崩してみたり。子ども達がぐんぐん成長していく中で、大人も一緒に成長させてもらう。
そんなゆるくて優しい空間こそがインクルーシブへの第一歩なのではないかと思いました。

結局その時の運動遊びはどうなったかというと、、
とにかくいろいろな意味で忘れられない30分となりました。

このとても大事な30分と大切な気づきを与えてくれた子ども達とスタッフの方々に心から感謝をしています。

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