2022年サントラ伝道師アワード - その1

米国でのリリース日を基準に、昨年は過去最多となる550作品ほど聞いた。例年に倣い、歌を除くサントラ(厳密にいうところの“スコア”)を純粋に“映画音楽”(含むTV、ストリーミング、ゲーム作品)として評価した。なお、本編とはフィットしていて当然(していなければ監督や制作側の問題)という認識のため、本編との兼ね合いは考慮しない(物理的にも500本以上の映画を鑑賞する余裕がない上、サントラにまで考えを巡らすには複数回鑑賞する必要が出てしまう)。

レビューする上でどうしても音楽の個人的な好みに評価が左右されてしまうことをまず断っておきたい。具体的にはジャズが苦手であり、ジャズ色の強いサントラが上位に来ることはない状況となっている(なお、本編で使われていることに特段の問題はなく、『ソウルフル・ワールド』などは好きな映画の1つでもある)。また、クラシック音楽に寄ったサントラもあまり好みではない。単純にクラシック音楽を使えば十分ではないかという思いを拭えないためである。そのほか、アンビエント(最近の映画音楽業界風に言えば「サウンド・デザイン」)調のサントラも全体的な変わり映えが乏しいため、低評価となる傾向にある。

以下では、2022年サントラ・ベスト10をそれぞれ見ていきたい(日本未公開作品は原題表記)
 1位:トップガン・マーヴェリック(作曲家:ハンス・ジマー、映画)

2022年を代表する作品であり、サントラもランキングで1位を飾ることになった。Anthemなどスペクタクルなスコアが注目されがちだが、本作ではエモーショナルなスコアも際立っている。

 2位:鎌倉殿の13人(作曲家・エヴァン・コール、TV)

2年連続で大河ドラマがランクイン。ここ数年は非日本人作曲家が担当しており、作風も"今風"に刷新された感がある。2023年から日本人作曲家が再び担当することになったが、ランクインすることができるだろうか。

 3位:Hoa(作曲家:Johannes Johansson、ゲーム)

2018年に亡くなったヨハン・ヨハンソンの作品かと若干勘違いしたが、別人の模様。つまらない前置きはさておき、映画以外で気になるサントラがあるとすればゲーム作品かドキュメンタリー作品である。海外ゲームは実に侮れない。

 4位:Redeeming Love(作曲家:ブライアン・タイラー&Breton Vivian、映画)

どこの賞にもノミネートさえされないことが信じられない、非常に秀逸な作品。ブライアン・タイラーと言えば、悪く言えばけばけばしくうるさい作曲家という印象が強いのかもしれないが、筆者に言わせればあまりにも過小評価された作曲家である。

 5位:Secret Headquarters(作曲家:ローン・バルフェ、映画)

ダンス・ミュージックのような音楽は好きではない。しかし、個人の好みさえ超越してしまうところに、バルフェの力量が現れていると言える。聞いているうちに病みつきになってしまう感があるところは、オーケストラでしっかりとメロディーラインを構成しているためである。

 6位:Our Great National Parks(作曲家:David Schweitzer、ストリーミング)

自然ドキュメンタリーに外れはないと言えるぐらい、毎年傑作スコアが出てくる。2022年は本作である。

 7位:The Boy, The Mole, The Fox & The Horse(作曲家:イソベル・ウォラー-ブリッジ、ストリーミング)

年末にかけてリリースされたので聞き込みが足りないかもしれない。とはいえ、十分に美しいサントラ出る。

 8位:ブラック・アダム(作曲家:ローン・バルフェ、映画)

バルフェは昨年、数多くの作品を手掛けた年だけに、本作は力技で乗り切った感もある。しかし、適当に流した感はなく、むしろ聞き疲れさえさえる力は作品にピッタリだっただろう。

 9位:Legend Of The Forest(作曲家:アラン・ウィリアムズ、映画)

ジャケットを見る限りは中国映画と思われるが、どういった作品かはよく分からず。最近の中国映画では欧米人が作曲するケースも散見される。

10位:The Musical Anthology Of His Dark Materials: Series 3(作曲家:ローン・バルフェ、TV)

最終シーズンではあったが、音楽的にはシーズン1を上回ることはなかった。それでも、十分に聞きごたえのある音楽である。

コロナ禍からも概ね回復したこともあり、劇場公開作品のランクインが大幅増加。Netflixを中心にストリーミング系も作品を順調に積み増したものの、ランクインは少数に留まった。ドラマシリーズでは、従来のベスト盤に加えて、エピソード盤(数エピソード合作を含む)のリリースされるなど、従来はオタク中のオタクに限定されていた音楽体験が一般にも広がってきて感が強い(逆に言えば、非公式な完全盤などは下火傾向)。ただし、作品数の増加が音楽体験の質向上に寄与したかと問われれば、悪化したとまでは言わない程度である。

ストリーミングという新たな音楽配信形態がサントラのリリースを引き続き後押し。ランキング作成の難しさが増した点は、前述のドラマシリーズ作品の取り扱いである。ベスト盤が評価としては最も簡単である一方、各エピソードもしくは数エピソード合作盤しかリリースしていない作品もあり、必ずしも公平な評価を下せたとは言い難い。

ランキング表は以下の通り。11~15位までの「ランキング外入選」とRUの「次点」の違いは、10位作品とどのくらい離れているか、である。ランキング外入選作品は小数第2位という僅差ではしかない(今後再評価を重ねれば入れ替わるかもしれない)。

その2では、ベスト・スコア賞(記憶に残るスコア部門)についてみていきたい。

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