映画音楽創作の極み
映画: DUNE
作曲家: ハンス・ジマー
総合評価: 2.5
レビューが前後してしまうが、作曲の面で『ドント・ルック・アップ』の対極に位置すると考えられるのが本作である。音楽だけで評価することが実に難しい作品でもある。『ドント・ルック・アップ』では恐らく(と言っても映画音楽の作曲では当たり前でもあるが)完成したシーンごとにスコアが制作されたのに対し、『DUNE』ではむしろ原作・脚本のコンセプト(すなわち完成した映像に依存しない)に基づいた各種テーマ/モチーフ作りからジマーは作曲をスタートしている。一部のサントラで存在しているが、ジマーのコンセプト・ワークがSketchbookと呼ばれるものであり、今回はサントラに先立ってリリースされた(ある意味ではジマーの創作活動を本質的に理解させようという意図もあったか?)。
シーンに合わせて再構成・本格収録されたものがOST版(正確には賞レース前に非公式にリリースされるFYC版が本編で文字通り使用されたバージョン)であり、ストーリーの都合や制作側の意向も反映されることになる。仕上がりが極端に異なるわけではないが、作曲家が完結したコンセプトとして提示しているsketchbookの方が音楽的な一貫性をより強く受けやすい印象がある(特に本作ではそう感じた)。後述するように、音楽としては『スター・ウォーズ』や『インターステラー』などのように万人向け・誰もが前向きに評価する作品とは言い難いが、音楽創作としてはアカデミー賞で高く評価されるに値し、“映画音楽”の更なる発展に資する作品であると筆者は認識している。
創作過程の秀逸さが音楽的評価と一致するのだろうか。シーンごとに制作されようととも、全体的な一貫性がしっかりとあればそれはそれで傑作サントラに十分になる。その意味では、サントラだけをまず聴いた段階の感想として、『DUNE』のサントラかつ作曲家がかのハンス・ジマーでなければわざわざ最後まで逐一聞かなかった、という散々な印象だった。はっきり言えば、期待外れの作品だった。もっとも、映像を確認した上で評価しなければならない作品であることを強く意識させたスコアだったことも確かである。その意味では、一般的に好まれるサントラではなく、コンサートなどで他の作品とともに演奏されることはないだろう。『DUNE』の音楽的世界観を純粋に楽しめることができるか、に尽きる作品とも言える。
ドゥニ・ヴィルヌーヴのリクエストはシンプルであり、「スピリチュアルな音楽であると同時に、可能な限り女性らしい音楽」である。そのため、ジマーらしいテーマ性溢れるサントラではではなく、抽象的あるいは捉え所のない音楽となっている。非常に実験的音楽(Experimental: エクスペリメンタル)なスタイルであり、近い作品を敢えて挙げるとすれば、『X-MEN: ダーク・フェニックス』となろう。ちなみに、音楽をより良く理解しようと家で大音響で流した際、家族から非常に不評だったこともまた印象的だった。
最後に、ヴィルヌーヴは本作を「(監督作品の中でも)とりわけ最も音楽的映画」であると評している。個人的には『メッセージ: Arrival』の方がよほど「音楽的」に思えるのだから、クリエイティブな人間の感性とはつくづく理解できないものである(だからこそ、どの作品をもスクリーンでこそ観たいと思わせるのだろう)。なお、続編の制作が決定したことで、ジマーも早くも動き出している模様である。前編の音楽がどういった形で進化を遂げるのか楽しみであると同時に、初回の試聴が今から恐ろしくもある。
以下、各曲評価(4点満点)
※ ジャンル分けは主観に基づく
1. Dream of Arrakis - ★★
2. Herald of the Change - ★★
3. Bene Gesserit - ★
4. Gom Jabbar - ★
5. The One - ★★
6. Leaving Caladan - ★★
7. Arrakeen - ★
8. Ripples in the Sand - ★★
9. Visions of Chani - ★★
10. Night on Arrakis - ★
11. Armada - ★
12. Burning Palms - ★
13. Stranded - ★★
14. Blood for Blood - ★
15. The Fall - ★
16. Holy War - ★★
17. Sanctuary - ★★
18. Premonition - ★
19. Ornithopter - ★
20. Sandstorm - ★
21. Stillsuits - ★
22. My Road Leads into the Desert - ★
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