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レバノンで今おきていること(2)国民が団結するとき

「レバノン人としてひとつになれたのが嬉しい。こんな日をずっと夢見ていた」

一連のデモに参加する人、参加してない人も含めて、今街中で一番よく聞く声です。

このデモがもたらしたもの。それは何と言っても政治勢力や地域、宗派の違いを超えて団結できたということです。内戦と争いをくりかえしてきたレバノンで、独立以来はじめてともいわれます。

上の写真は首都ベイルートです。右側の青い屋根の建物がモスク、左側のオレンジの屋根はキリスト教の教会です。

レバノンは1941年にフランスから独立しましたが、1970年代〜90年代にかけてにキリスト教とイスラム教が争った内戦を経験しました。内戦は足かけ17年にもわたりました(また、その合間にはイスラエルによる侵攻・シリア軍の駐留などずっと安定しない時代が続きました)。

戦争をひとまずおわらせるため、各宗派のバランスに配慮して、政治権力の配分がなされました。たとえば、大統領はキリスト教(マロン派)、首相はイスラム教・スンニ派、国会議長はイスラム教・シーア派、とふり分けられています。結果的に今も18の宗派があり、宗教が政治と深く結びついています。

政治権力と宗教が結びついた結果、コミュニティの統合・融和はそれほど進まず、分断が残されたままになりました。レバノンの村々はキリスト教・イスラム教・ドルーズがそれぞれ隣接していることが多いので一概に言えないのですが、大都市で言うと北部トリポリ付近はスンニ派が、南部スール付近はシーア派、中部のいくつかの町はキリスト教(マロン派)の基盤となっています。

これまで、レバノンでは歴史上いくつかの大規模なデモが起きましたが、例えば2005年の「杉の革命」(レバノンに駐留していたシリア軍が撤退することになった)は各政党が市民に呼びかける形で起こりました。今回、民衆は宗教・宗派ごとに組織された政治組織に動員されるのではなく、宗派主義で政治を支配してきた政治エリートに、団結して対抗しています。

一番大きな注目を集めているのが、強硬シーア派(ヒズボラ・アマル)の支持基盤の南部での動きです。以下のツイートは南部の町、ナバティエでのデモですが、ヒズボラやアマルといった政党の旗はひとつもなく、すべてレバノンの国旗です。


南部には、街のいたるところにヒズボラやアマルの旗がかかっており、街の入り口には大きなゲート(門)があります。この緑の旗はアマルのものですが、アマル支持者によって旗・ゲートが倒されたりもしています。

これがどれほどすごいことか・・。基本的に、これらの地域は政府のコントロールがおよばず、強硬なシーア派政党の実質的な支配下にあると考えられています。例えば、レバノンでは「国の」社会福祉サービスが行きとどいていないので、貧困層に対する福祉的なサービスや医療サービスを受けるにはこれら政党の支援が必要になります。現金のバラマキや教育費の補助などを政党が行います。仕事を見つけるにも、ビジネスをうまくいかせるにも、これらの政党のサポートがないとうまくすすみません。抵抗することは社会的にも、物理的にも死を意味します。マフィアみたいなものです。

今回、ナバティヤやスールなど南部の街は、デモの1日目から声をあげ、抵抗しています。2日ほど前からシーア派強硬政党(ヒズボラやアマル)の支持者が平和的なデモ隊に対して暴行を行い、けが人も出ていますが、今のところデモがおさまる気配はありません。

それだけではなく、北部にある第二の都市、スンニ派の首相の支持基盤であるトリポリやベイルートでは、ナバティヤでの犠牲者への黙祷と連帯が強調されています。南部の人々がどれだけのリスクをとってデモを行っているのかみんな理解しており、多くの人が宗派による分裂に対してNOといっているのです。

分断に対してNOと言っているのは、市民だけではありません、宗教指導者がデモに参加し、率先して団結を呼びかける姿もよく目にします。下の動画はイスラム教・シーア派、イスラム教・スンニ派、キリスト教、ドルーズの宗教主導者の姿です。

これまでのところ、デモは宗派、政治による分裂を否定し、世俗的な動きを求めるものに終始しています。これまでのレバノンの辿ってきた歴史を考えると、団結の素地があることを、レバノン人自身が発見できたこと自体が、本当に意味があることだと思います。

ただ、現実的には大きな課題を乗り越える必要もあります。政治権力と宗派がこれほど社会に浸透している現状から、どのように世俗的な統治システムにシフトしていくのか。レバノンは中東地域の覇権争いの舞台でもあり、他国による干渉をどうかわしていくのか。すでに非常に危険な財政状況にある中で、現政権が倒れたら政治的リスクによりさらに不安定化する危険性があります。

現在のデモは指導者がいない状況で進んでいますが、いくつかの小さなグループが現実的な政策案や次の段階に進むための方法を検討しはじめています。これらについてもまた触れたいと思います。

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