経済原論概説 最終回

記事案内

前回

現代社会 

 社会主義の形態が変容するように、資本主義もまた様々な変化が起こっている。冷戦終了後のアメリカは軍事技術の平和利用に乗り出し、IT産業をリーディング産業として電子メールやコンピュータなどの分野で業績を伸ばした。IT革命とも呼ばれるほどの技術革新が起こり、これらの技術を商取引やネットオークションなどに転用した。2001年のテロ事件を受け、経済成長のために低金利政策を行った。殊に住宅ローンの低金利化によって住宅需要が上昇し、個人投資家が増加した。同時に金融商品の登場やITブームにより、世界的好況に見舞われた。しかしながら2006年に住宅価格の上昇が鈍化しさらには低下するとサブプライムローン問題が噴出し投資銀行が壊滅しリーマンショックが起こると、今まで経済を活性化させていた証券化ビジネスによってヨーロッパまで被害が波及し、ユーロ通貨危機が発生した。100年に一度の世界恐慌と呼ばれ、ギリシャは財政破たんにまで追い込まれた。
 2008年までの日本は、小泉純一郎政権の下構造改革が行われ、行き過ぎた平等を抑え祖緑したものが報われる社会を目指し、格差をある程度是認した政策が行われていた。グ退位的には、グローバル化や政府の規模縮小、IT技術の導入である。しかし2008年の世界的不況により、格差問題や非正規雇用の増大、低賃金化が発生することとなった。
 資本主義的な政策は、著しい経済の発展の代償として不況や恐慌から逃れられないほか、格差や失業を必然とするようである。また格差や失業の改善を図ろうとすれば、経済が安定せず、国際競争社会では競争力が低下することになる。一方で社会主義的政策は、国全体がナッシュ均衡(給与が一緒なら働かずにさぼったほうが得、逆にまじめに働いていても周りがさぼっていたら損→皆がさぼりだす状態)に陥り、技術的な発展や生産量の増加が見込めなくなってしまう。また中国においては、資本主義国と同様な社会問題も発生している。そのほかの21世紀型と呼ばれる社会主義国でも、社会主義への移行は長期的な物であると考えられており、その移行期間では格差や貧困は生じることが予測できる。

 資本主義経済では、市場原理に基づいて経済が成長し、経済が成長をすればやがて不況になり、不況を脱却するためにまた経済を成長させようと政策を施す。しかし、経済の成長が国民の幸福に必ずしも結びつくとは限らない。長時間労働やサービス残業、更には過労死などの労働問題が発生している中で、経済の成長を臨めば格差は広がっていく。一方で安易な労働時間の規制や賃上げは日本企業の投資を海外へと向かわせ(産業の空洞化)、結果国内経済に打撃を与えることになる。経済とは不可逆なものであり、さまざまな利害関係を考慮に入れて多角的に考えなければならない。

 さらに、自社で向上を持たず生産をすべて外部に委託している企業(ファブレス企業)も、原論的観点か価値を生み出さず工場が生み出した価値を吸収しているに過ぎない。無論、ファブレス企業も経営学的には合理的な企業形態であるとされる場面も多いが、一国規模で経済を見たとき、その様な企業が増加することは果たしてその国の利益になるのだろうか。また、仮想通貨のマイニングとは本当に価値を創造しているのであろうか。その様な逡巡をしていくと、我々は経済原論に再び行き着くことになるだろう。すなわち、価値とは何か、労働とは何を意味するのか、ということだ。この部分が曖昧な状態で議論をするのか、時間はかかるが自分なりの解釈を持って議論をするのとでは、議論の質はあまりにも違ったものとなるだろう。

結び

 これにてひとまずは「経済原論概説」完結である。経済原論とは、資本主義の問題を乗り越えようというマルクスの思想から出発している。近代経済学の思考法のみでは見出すことが困難な観点を経済原論は与えてくれる。読者の方がこの記事を通して経済原論に興味を持って頂けたのであれば幸いである。

 経済原論は様々な学派に分かれたが、そのひとつである置塩経済学についての解説を「経済原論概説」の番外編として設けさせて頂こうと考えている。初学者向けに書いてはいるが、専門性が格段に上がっているため一回で理解することは困難であろう。これまでの記事を参考に繰り返し読んで欲しい。


 最後に、書籍の紹介をさせて頂こうと思う。

①マルクスの『資本論』原典

②『経済原論』の原典

③日本経済について網羅的且つ学術的にまとめられている

④上記の世界経済版

 最後までお付き合いいただきおありがとうございました!

サポートを頂けると幸甚であります。頂いたサポートは主に記事のクオリティ向上のための書籍購入等に使用する予定です。お力添えをお願いいたします。