経済原論概説 第1回 理論構成

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理論の背景

 学問的、及び歴史的な経済原論の始まり、すなわちマルクス経済学の始まりは、マルクス著『資本論』(1867)である。本書は資本主義を批判的にとらえ、解説したものであり、その批判は現代にも通ずるものがある。

 マルクス経済学は、物事の本質は「物」であると考える唯物論の下、資本主義を科学的な見地から見直している。(ヘーゲルの)弁証法により、経済の発展法則を解明し、社会構造に当てはめて考えた。生産力水準が低い狩猟採集社会から、農耕社会へと発展(歴史学的、特にマクロヒストリーの学説においては必ずしもそうではないということを付しておく)し、やがて農耕技術の発展によって必要な労働時間が短縮したり、コミュニティのなかで食料生産に従事する必要のない人口が増加する。更に手工業が発展し、産業革命を経て大規模工場による生産が開始され……といった具合だ。このような歴史に興味を持たれた方は、経済史を学習することを推奨する。マルクスは(残念ながら未完である)『資本論』において、資本主義社会の次にもたらされるべきより発展した社会の姿を描こうとした(それは必ずしも社会主義的な要素に満ち溢れているとは限らないだろう)。

 また、マルクスは社会の下部構造である経済(生産関係)の変化が、思想や文化などの上部構造に変化をもたらすと考えたのである。方法論としては、抽象的な物から具体的な物へと発展させていく上向法が採用された。例えば資本の価値を分析する場合、まずは商品交換の価値から分析し、それを踏まえて貨幣を分析し、資本に関する価値分析を行うのである。

近代経済学との相違

 近代経済学とマルクス経済学は、その基礎となる価値論から異なったものとなっている。近代経済学の価値論は、消費者の視点に立った主観的価値説を基にしている。消費者の効用(満足度)を指標として、効用を最大化させることを目的に理論を樹立した。これに対するマルクス経済学に批判は、効用という主観的な物を価値判断の基準にしてよいのだろうか、というものだ。マルクス経済学は、古典派経済学の労働価値説を発展させ、生産者側の立場から経済を分析している。近代経済学のように、効用の基数(a+b=c)的計測を行うことを不可能であるとし、序数(a<b<cだがa+bの値は問わない、1st,2nd,3rdの世界)的計測を行うにとどまっている。


 更に、マルクス経済学が利潤の源を労働であると考えている(労働価値説と呼ばれる)ことには特に注目したい。近代経済学では、労働はある意味売買され「投入」される生産要素に過ぎない。これは生産者的な視点から見れば当然の帰結であろう。それではなぜマルクスが労働が利潤を生み出すという考えに至ったのを、次回以降上記のマルクス的手法を用いて物々交換の段階から弁証法的に解説する。

次回

参考文献・関連書籍




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