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中学理科「思考力・判断力を育む工夫」

1 思考力・判断力を育むための基盤


 中学理科授業において、思考力・判断力を育む授業づくりのためには、「理科の見方・考え方」が身についていることと、「基礎的・基本的な知識・技能を習得していること」が必要となる。思考・判断する場面では、「基礎的・基本的な知識」を使って分析・解釈を行なうことで科学的な根拠に基づいた説明が成立するものだからである。

 特に、未知の事象と出会った場合においては、これまで学んだ既習事項から予想をしたり、類推して自分なりの仮説をたてたりする活動が主体的な学びにつながる。そこで、これまで身に付けた「見方・考え方」を働かせることが必要となる。
 いわば、「理科の見方・考え方」と「基礎的・基本的な知識・技能」は「思考力・判断力」を育むツールともいえる。
 基礎的・基本的な知識・技能とは、現象を説明するために必要な最低限の用語を理解していることや実験装置を適切に使用して実験を行ない、得られたデータをグラフなどに表すことである。観察・実験のレポートで言うと「実験方法」「実験器具の操作」「安全注意事項」と「実験結果」「得られた規則性・法則」に記載されることが多い。授業づくりの初期段階から訓練をする必要がある。


 理科の見方・考え方は、エネルギー(物理)、粒子(化学)、生命(生物)、地球(地学)それぞれの領域によって異なる。さらに、各領域の学習する年齢によって学習のめあて(目標)が異なる。           

 例えば、エネルギー(物理)領域では、小学校3年で「風とゴムの力の働き」について力の働きについて初めて学ぶ。ここでは、ゴムで動くおもちゃがどのようにすると速く動くかということから、力の働きの概要を知る。これを元に中学1年の「力の働き」において、力の三要素から力を矢印で示すことで見えない力を可視化できることを学ぶ。さらに、力のベクトル的性質から水圧や浮力を理解する。このように中学1年では、力に関する定量的な関係を見出すことと、日常生活全般に関連する力学的現象について理解気付いていくことを目標としている。中学3年では、中学1年の学びを元に「物体の運動」を学習する。ここでは、力の働きに起因する物体の様々な運動について規則性を見出すことを目標する。さらに、「仕事とエネルギー」においては、力とエネルギー(仕事)の関連性を見出すことを目標としている。ここでは、仕事からエネルギー量(単位J)の関係性への気付き、さらに、仕事率(単位W)へつながる。これらは、2学年「電流とそのはたらき」とも関連する。


 授業をつくる上で大切にしたいのは、これらは独立した学習ではなく、相互につながりをもった学びである事を子どもたちに気付かせ、意識させることである。具体的には、過去の学びを現在の学びにつなげるよう促すことである。学んだことが別の場面で活用できることの気付きにつながり、同時に学ぶことの有用性を感じ、次の学びへの意欲を高める。


2 具体的な授業づくり


 思考力・判断力を育む授業づくりについて具体的に述べる。
 1つ目は観察・実験における考察である。結果から考えられることを「科学的な表現を使って自分の言葉で述べる」ことを促す。学習初期段階では記述例を示す。慣れてきたところで仲間どうしの確認を行ない、教師の介入無しでも正しい論述ができるよう促す。これらを繰り返すことで、実験結果の適切さを相互に確認し合う活動が生じ、実験結果が適切でないことを判断する視点を育むことにつながる。結果が他班と異なる場合も、単なる実験の失敗と捉えずに、「なぜそうなったか」という思考する機会を生み出す。
 2つ目は、「思考せざるを得ない課題」を設定することである。これは、単元(または章)の終盤に設定する。例えば、中学1年のフックの法則を導き出す実験のあとに、未知の質量(重さ)の物体を与えて「ばねばかりを使わずに重さを求めにはどうすればよいか」という課題を示す。実験では独立変数の「重さ(力の大きさ)」と従属変数の「ばねの伸び」のグラフを得ている。ここから思考を逆転させて、「未知の物体のばねの伸び」から「重さ」を知ることができる。中学1年理科であれば、単元終盤に「浮沈子」というおもちゃを作って物体に働く浮力と体積の関係を見出す学習課題などが考えられる。


 これらは、「基礎的・基本的な知識・技能」と「理科の見方・考え方」に基づく必然性のある課題であり、子どもが主体的に「解決したい」思いを強く持つ課題だと考える。このような学びが思考力・判断力の育みにつながると考える。

(2018 北海道通信寄稿 三浦雅美)

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