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私の高校には普通科の他に、国際科が設置されていた。英語が堪能なだけでなく、プレゼン能力、コミュニケーション能力といった、今日求められているカタカナの能力を備えた凄い方々の集まりである。
そんな学校なので年中行事として、有志による英語のスピーチコンテストがあった。原稿審査、校内予選、校内本選という茨の道を勝ち抜いた生徒は外部のスピーチ大会の出場権を得られる。つまり国際科向けの行事である。
高校2年生の夏、英語の発音がへったくそな普通科の私は、ヘラヘラしながらこのコンテストへ申し込んだ。動機は英語が好きだったこと8割、指導してくれるALTの大ファンだったこと2割である。
ジェンダーや環境など、外部の大会を見据えグローバルな題材が選ばれる中で、私は「手書きのお手紙を送るってgoodだ」というテーマに決めた。まじで戦う気あんの?と思っちゃうテーマである。しかし私の文章こじつけ力と、ALTによる鬼の添削によって、見事原稿は審査を通ったのであった。
原稿の次はいよいよスピーチである。放課後集められた予選出場者を見ると、顔だけ存じ上げている国際科の方々しかいなくて震えた。そのまま英語の先生の前で1人ずつ指導を受ける。待っている生徒は練習をする。
私は人見知りの異邦人だったが、周りの彼女たちはコミュニケーション能力に長けた優しい人たちだった。何人かが親しげに、テーマなんなん?とか話しかけてくれた。となりの席に座っていた女の子は、私の発音のチェックをしてくれた。
「この “relationship”って単語だと、rとlの両方が入ってるから気をつけて、あとshていうのも...」
そう言いながら世界一美しいrelationshipを発音してくれた。
そんなこんなで準備しながら迎えた校内予選で、私はあっさり敗退した。当たり前である。予選も本選も、内容が聞き取れないほどレベルが高かった。先生方は「普通科でもコンテスト出てますよ」と言うために自分を残したのだと思っている。
大学に入り出会いは増え、英語は受験に使う言語から、コミュニケーションのための言語へと変わった。しかし、今も英語を話すのは苦手である。読むのも書くのもあのときが1番楽しくやれていた。
コンテストで「ゥリィレイションスゥィップ」とどや顔で声を張っていた異邦人の私は、きっと学ぶ楽しさのど真ん中にいたのだと思う。失敗を恐れないこと、貪欲に学ぶことの大切さと難しさを、当時の書き込みだらけの原稿を見つけて思い出した。
ちなみに思ったより怖かったALTのストイックさに圧倒された私はファン継続を諦め、relationshipを教えてくれた彼女はアメリカにいるらしい。
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