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Ballin’ the Jack

「ボーリン・ザ・ジャック Ballin’ the Jack」は1913年にクリス・スミス (Chris Smith)が書いて、J.H.バリス(J. H. Burris)が作詞したジャズ・スタンダード。

“Balling the jack”とは「全速力」という意味があるらしい。あるいは“Balling the jack”で「ジャックをダンスボールに連れて行く」「ダンスボールではしゃぐジャック」という意味になるかもしれない。この場合は、”ball”は「ダンスボール」を指していて、それを動詞として使っている。また”jack”は呼びかけ表現や不特定の他者を指すきに使う表現(Cf. “Hit the Jive Jack”のジャック)。

また歌詞のなかに「イーグル・ロック Eagle Rock」という表現が出てくる。こういった動物の動きを真似たダンスを「アニマル・ダンス Animal dances」というらしい (Jasen 2003)。こういったダンスは1920年代にとても流行して、その多くはアフリカ系アメリカ人がハウス・パーティーなどで披露していたことが最初とされている。おそらくこうしたアニマル・ダンスでもっとも有名なのはフォックス・トロットだろう。

おもしろいのはダンスが先にできて、そのあとダンスに適した曲がティンパンアレーで多く作られたこと。そんなわけで、数々のダンス指南曲が作られた。たとえば「バルティモア」や「ブラック・ボトム」がそうだろう。

録音

Jelly Roll Morton's New Orleans Jazzmen (NY, September 28, 1939)
Jelly Roll Morton (Vocal, Piano); Albert Nicholas (Clarinet); Happy Caldwell (Tenor Saxophone); Fred Robinson (Trombone); Sidney De Paris (Trumpet); Lawrence Lucie (Guitar); Wellman Braud (Bass); Zutty Singleton (Drums)
モートンが歌っている。シカゴ・スタイル。おそらくモートン自身のアレンジでソロは各メンバーにゆだねられている。

Sidney Bechet and His Hot Six (New York, November 5 1951)
Sidney De Paris (Trumpet); Jimmy Archey (Trombone); Sidney Bechet (Soprano Saxophone); Don Kirkpatrick (Piano); George "Pops" Foster (Bass); Manzie Johnson (Drums)
ベシェの50年代の録音。アレンジはニューオーリンズ・ジャズの方法論に寄っているけれど、ソロが同時進行になるわけではない。ポップス・フォスターのベースがバチバチしていて非常にかっこいい。べシェはトレードマークのビブラートも効かせている。ド・パリスとの掛け合いもかっこいい。

小林創 (茨城 April 28 2008)
Hajime Kobayashi (Piano)
すごいスイング!最初はシンプルで徐々に盛り上がっていく。むちゃくちゃ聴きごたえがある。小林さんはライブ中にピアノのチューニングをするんだけどそこもかっこいい。

Tuba Skinny (New Orleans April, 2018)
Jason Lawrence (6-string banjo); Greg Sherman (guitar and vocals); Max Bien-Kahn (resonator guitar); Todd Burdick (sousaphone); Robin Rapuzzi (washboard); Barnabus Jones (trombone); Shaye Cohn (cornet); Craig Flory (baritone saxophone); Ewan Bleach (clarinet)
天才シェイン・コーンのコルネットがかっこいいチューバ・スキニーの録音。というかメンバー全員かっこいい。ロビン・ラプッツィのウォッシュボードがタイトでかっこいい。おそらく現在展開しているダンスミュージックを通らなければ出てこなさそうなパターンも登場する。

The Viper Club (Meudon 20–22 June 2023)
Tcha Limberger (Violin/Vocal); Jérôme Etcheberry (Trumpet); Dave Kelbie (Guitar); Sébastien Girardot (Bass)
チャー・リンバーガーの新しいプロジェクトのヴァイパーズ・クラブ。最初はフォーキーで牧歌的な雰囲気で、テンポが速くなってスイングになる。ここで聴けるベースがとてもかっこいい。非常に30年代のスタッフ・スミスな録音。

参考文献

Jasen, A, David. (2003). Tin Pan Alley: An Encyclopaedia of the Golden Age of American Song. London: Routledge.


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