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SDGsと先住民族の権利④〜先進国カナダ政府に対する飲料水をめぐる訴訟〜

[最新ニュース]#先住民族 #カナダ #訴訟 #SDGs #水へのアクセス

カナダには、約630の先住民族コミュニティが存在します。そのうち、数十年以上もの間、清潔な水へアクセスできない先住民族が存在します。そこで、先住民族のリーダーたちは連邦政府に対し、政府が水処理インフラ建設を怠り、清潔な水の提供を怠ったことが原因で低水準の生活を強いられたとして、21億カナダドルの損害賠償を求める集団訴訟を起こしました。

先住民族の水へのアクセスという問題に焦点を当て、本記事を解説します。

安全な飲料水へのアクセスは、全ての人が享受すべき基本的人権

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SDGsの目標6では、「すべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する」と掲げています。また、ターゲット6.1では「2030年までに、すべての人々の、安全で安価な飲料水の普遍的かつ衡平なアクセスを達成する」とされており、当然ながら先住民族のような脆弱な立場の人たちを尊重することが必須です。

特に、COVID-19の流行では先住民族がより高い感染リスクであるとされていますが、その理由として、清潔な水へアクセスできないコミュニティが多いことも判明しています。

2010年7月の国連総会は、安全な水と衛生設備へのアクセスの権利を人権として認める決議(A/RES/64/292)を行ったことで、飲料水や衛生に関する国民の状況を段階的に改善し、適切な法的枠組みを整備し、投資対策を行うことが各国政府に求められています。

SDG Indicatorの世界レベルの達成度で見ると、71%が達成されていることから、カナダの先住民は残り29%に含まれるということになります。

なぜ飲料水を提供するインフラが整わないのか?

この問題は今に始まったものではなく、20年以上前からカナダ政府は先住民族保護区のインフラ整備に関する対応を約束しながらも進んでいません(Human Rights Watch記事参照)。

カナダ・トルドー首相は、2015年の選挙キャンペーンの際、国内の100以上の先住民族コミュニティの水へのアクセスの改善を約束していました。政府は5年間の約束期日である2021年3月までに先住民族保護区に出ている「飲料水勧告」を廃止すると宣言していましたが、とうとう達成されませんでした。

飲料水勧告とは、水道水に有害物質が含まれるため、水を沸騰するか飲まないか、完全に利用しないことを警告するものです。現在有効な勧告の大半は沸騰してから飲むことを推奨する「沸騰水勧告」だそうです。

ちなみに、植民地時代に制定された法律により、先住民のコミュニティは独自の水処理システムの資金調達と管理を禁じられ、連邦政府が問題解決に向けて責任を負っています。

カナダ連邦政府としては、これまで、2016年〜2021年までの5年間で180万カナダドルの予算を計上し、先住民族コミュニティの水インフラ建設に取り組んでいるものの、まだ全てを完了していません。

勧告廃止の遅延理由に関する政府の主張は、COVID-19の影響により、安全な水を提供するためのインフラを建設する作業員が、先住民族保護区へ送ることが難しくなったとのことでした(CSC記事参照)

先住民族のリーダーたちの主張

Tataskweyak Cree Nation、Curve Lake First Nation、Neskantaga First Nationの3つのグループのリーダーが原告となり、McCarthy Tétrault LLPとOlthuis Kleer Townshend LLPを原告代理人事務所として、カナダ国内の先住民族保護区で長期にわたる飲料水勧告への対応を怠ったカナダ連邦政府の司法長官を相手に、全国規模の集団訴訟(national class-action lawsuit)を開始しました。カナダ連邦政府に対し、過失、受託者責任の違反、王室の名誉の侵害、カナダ権利自由憲章に基づく様々な権利の侵害を行ったと主張しています(McCarthy Tétrault LLPウェブサイト参照)

原告のうち、先住民族のリーダー二人のコメントは次のようなものです。

"清潔な水にアクセスできないこと、周囲に水があってもそれを利用できないことによる、精神的苦痛は計り知れません"
(Curve Lake First Nationリーダー・Emily Whetung氏)
出所:The Narwhal
"カナダ政府は、COVID-19のような問題が発生したときには、カナダ国民のためにさまざまな対策を講じることができるのにも関わらず、先住民族保護区や先住民族コミュニティの人々の暮らしを改善することにこれほどまでに時間をかけるべきではない"
(Swan River First Nationのリーダー・Rob Houle氏)
出所:Global Citizen

まとめ

SDGsで想定される「脆弱層」を捉える際、想像力が非常に重要です。これがライツホルダーを知る上で重要な取り組みになり、人権デューディリジェンスにおける人権リスクの特定と優先順位付けにも役立ちます。

先住民族や少数民族コミュニティは、途上国の人里離れた地域だけではなく、先進国の都市部にも数多く居住しています。「脆弱層」をカテゴライズするとイメージだけが先走る可能性があります。なるべく事実に行き着くように、色々な情報に触れて想像を膨らませてみてください。

「脆弱層」に先住民族が含まれる理由は、何故でしょうか。

それは、カナダや日本を含む多くの国において、同化政策が行われました。それによって、先住民族であることを未だに認められていないケースもあれば、一方で、先住民族として自治を認められたものの経済的・社会的に阻害されているケースもあります。

先住民族が脆弱な立場に置かれている理由は、国によって様々な歴史的背景がありますが、どんな理由であっても、基本的人権が保障されないことは許されることではありません。

今回の事例は、後者のケースで、他の地域とは異なり、インフラ設備が整っていない状態で何十年も暮らし、「安全な水へのアクセスがない」という基本的人権を脅かすレベルの問題があることを紹介しました。

今後も、先住民族の人権を理解するテーマを紹介していきます!

Social Connection for Human Rights/ 鈴木 真代

Social Connection for Human Rights(SCHR)
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■関連する資料:
第7回ス茶会「資源国のビジネスと人権とは〜カナダの事例〜」https://anchor.fm/schr/episodes/7SCHR-e11ljn5

■参考記事
Human Rights Watch, "Canada: Blind Eye to First Nation Water Crisis"(2019年10月2日リリース記事)

CBC, "COVID-19 may delay Liberal pledge to end long-term boil water advisories on First Nations"(2020年9月28日リリース記事)

Global Citizen, "61 Indigenous Communities in Canada Still Face Water Crisis"(2020年9月30日リリース記事)

The Guardian, "Dozens of Canada’s First Nations lack drinking water: ‘Unacceptable in a country so rich’"(2021年4月30日リリース記事)

The Narwhal, "Indigenous leaders launch $2.1 billion class-action lawsuits against Canada over lack of drinking water"(2021年5月4日リリース記事)


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