見出し画像

2021年のビジネスと人権に関する展望

皆さま、明けましておめでとうございます🎍今年もどうぞよろしくお願い致します。

早速ですが、ビジネスと人権の観点から2021年に重要だと思われる事柄について考えてみたいと思います。

1 行動計画(NAP)の実施

昨年10月16日、ついに「ビジネスと人権に関する行動計画(2020-2015)」(通称NAP)が発表されました。NAPの内容に関して、ドラフト過程に関わってきた作業部会メンバーによる合同コメントにもあるとおり、この間のステークホルダーの声が十分に反映されたものとは残念ながら言えません。それでも、国の政策文書に初めて、企業による人権デューディリジェンスの実施の期待について明記されたことは、今後、政府、自治体、そして企業の方針策定、実施にあたって、大きな後押しになることを期待します。

政府は、その規模、業種等にかかわらず、日本企業が、国際的に認められた人権及び「ILO宣言」に述べられている基本的権利に関する原則を尊重し、「指導原則」その他の関連する国際的なスタンダードを踏まえ、人権デュー・ディリジェ ンスのプロセスを導入すること、また、サプライチェーンにおけるものを含むステークホルダーとの対話を行うことを期待する。さらに、日本企業が効果的な苦情処理の仕組みを通じて、問題解決を図ることを期待する。(第3章 政府から企業への期待表明:第2)

NAPでは、それぞれの施策の担当官庁が明記されていることに加え、「関係府省庁とステークホルダーとの間の信頼関係に基づく継続的な対話(行動計画の実施状況の確認の機会を含む)を行うための仕組み」の設置も定められています(第4章 行動計画の実施・見直しに関する枠組み:第7)。NAPは「living document」と言われるように、まさに生きた文書であり、世の中の変化に合わせてどんどんその内容もアップデートする必要があるものです。

ですから、今回のNAPはあくまで最初のステップに過ぎず、これをきっかけとして、これまでビジネスと人権という視点では物事を見ていなかった人たちも巻き込み、バリューチェーン・サプライチェーン上の人権侵害の予防、軽減、停止、救済に向けた実効的な手段を実行していくことが必要です。

2 気候変動

これまで化石賞を連続受賞するなど、気候変動に対する取り組みの遅れがさんざん指摘されてきた日本政府ですが、菅首相は10月の所信表明演説において、2050年までに実質的なカーボンニュートラルを目指すことを宣言しました。国際社会からは歓迎されたこの宣言ですが、実現に向けた課題は数多くあります。再生可能エネルギーのコストは先進国の中でもとりわけ高いなど、抜本的な政策転換が求められます。

そして、ビジネスと人権の視点からも、政府によるこの政策が「Just Transition」、すなわち、公正な移行となっているかが問題となります。

気候変動は、①気候変動による人権侵害と②気候変動対策による人権侵害のどちらにも留意する必要があります。近年、日本国内でも連続した水害は甚大な被害を及ぼしており、まだ仮設住宅での生活を余儀なくされている人も大勢います。世界各国でも、気候変動が原因と考えられる異常気象によって、住むところ、食べるもの、生計手段を失った人々が多く、このような影響は、経済的・社会的に脆弱な層により一層大きく生じます。昨年末には、欧州人権権裁判所が、ポルトガルの若者による気候変動に対する訴訟を受理したり、カナダの連邦裁判所が、若者による気候変動政策に対する政府の責任を追求した裁判において、訴え自体は退けたものの、判決で気候変動による人権に対する影響が大きいことに言及するなど、気候変動による人権侵害に対する国、企業の責任はますます議論されるようになるでしょう

それに加えて、②の視点、つまり、気候変動に対して良かれと思って実施する施策が人権侵害を引き起こしていないかどうかも注意する必要があります。英国メディアのガーディアン紙は、「児童労働、有毒なガス漏れ:より環境に良い未来のために私たちが払うことができる代償(原題:Child labour, toxic leaks: the price we could pay for a greener future)」と題する記事で、天然資源を利用してよりクリーンな生活を実現する過程で、それ自体が広範囲に及ぶ環境破壊や人権侵害を引き起こす可能性があると、科学者たちが警告していることを伝えています。リチウムやコバルトなどは、電気自動車用の軽量な充電池や、風力発電所や太陽光発電所からの電力を蓄えるために必要とされていますが、需要が急激に増えることで深刻な生態系問題を引き起こす可能性があるのみならず、致命的な肺疾患を引き起こす可能性のあるコバルトを含んだ粉塵を吸い込む労働者の人権リスクや児童労働のリスクを増加させる危険があります。

気候変動は国を超えて影響するものであり、どこか一国だけで対応できるものではありません。だからこそ、気候変動対策も、サプライチェーン全体に過度な負担がかかることがないよう、またどのステークホルダーも公平に利益を得ることができるように設計することが何よりも重要です。

3 デジタル・トランスフォーメーション

新型コロナウイルスの感染は拡大を続け、その収束にはまだしばらく時間がかかりそうです。このような状況の中で、もともと行政手続きを含め、日常生活でのIT化が他の先進国に比べて遅れていた日本社会でもDXの促進が叫ばれています。

確かに、デジタル化によって余分な手間が減り、アクセスしやすくなり、より多くの人に必要なサービスが早期に行き渡るというメリットはあるでしょう。しかし同時に、デジタル化によって、かえって社会から断絶されてしまう人がいないか、デジタルデバイドを深めていないかを考える必要があります。例えば、高齢者、日本語を母語としない人、障害者など、すべての人にアクセシブルである「インクルーシブ」なDXでなければなりません

それだけでなく、AIなど、ビッグデータを利用する場合には、もともとのデータの中にある人種やジェンダーに関するバイアスを助長する危険があることも以前から指摘されており、テクノロジーの活用によって差別に加担していないか、注意深く判断することが求められます。

既に2013年、欧州委員会は「ICT Sector Guide on Implementing the UN Guiding Principles on Business and Human Rights(国連ビジネスと人権に関する指導原則のICTセクターでの実施ガイド)」を発表しています。日本でもNECが「AIと人権に関するポリシー」を2019年4月に発表しましたが、製品・サービスをデザインする早期の段階から、人権の視点を入れ込むことが重要です。

まとめ

昨年は、新型コロナウイルスの拡大によって私たちの日常生活が一変しました。その中で、なんでもない時は当たり前と思っていたことが実はそうではないことに気がついたという方も多いのではないでしょうか。

私たちが取り組む「ビジネスと人権」でも、事業活動に関連する様々な「人権」に日頃からしっかりと取り組むことが、こういった予想外の事態に対応するために何よりも大切であることが広く認識されてきたと思います。

まだしばらくこの影響は続くことが予想されます。この間に得た教訓を活かし、企業が社会的責任を果たして、人びと、社会、環境に対してポジティブなインパクトをもたらすためにどのような仕組みが必要でしょうか。

今年も、皆さんと一緒に身近な問題から、海の向こうで暮らす人々のことまで、いろいろなトピックを通じてビジネスと人権を考えていく機会を楽しみにしています。

本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

Social Connection for Human Rights


Social Connection for Human Rights(SCHR)
〜Bridge All for Responsible Business〜
-note: https://note.com/schr
-Email: socialconnection.4hrs@gmail.com
-Website: https://socialconnection4h.wixsite.com/bridge
-Facebook:@SocialConnectionforHumanRights
-Twitter: @sc4hr
-Anchor: https://anchor.fm/schr
-Spotify: https://open.spotify.com/show/7d0vVfYuJp5oBaJyBJo09Av





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?