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学校現場がひたすら絶望していく流れを止めたい|プロジェクト発起人 武田緑

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こんにちは。School Voice Project 発起人の武田緑です。

私は現在、全国に民主的な学びを広めるために、教育ファシリテーターとして活動しています。

生まれ育ったのは大阪市内です。校区は、公営住宅が立ち並ぶエリアで、同級生にはひとり親の子も少なくなく、経済的なしんどさを抱える家庭も多かったと思います。また、被差別部落を校区に含み、在日コリアンの方も多く暮らす地域でもあり、私自身も被差別部落の出身です。

そんな地域であったことから人権教育が盛んに行われていて、それは今でも私の人生に色濃く影響を与えています。

国籍や家系や家庭環境などによって、差別を受けることがあるということ、本来その人らしさをかたちづくるものであるはずのルーツやアイデンティティがネガティブに受け取られ、不当な扱いを受けることがあるということ。

子ども時代の私にとってそれは遠いどこかで起こっていることではなく、私自身や家族や友達に降りかかりうることであり、まさに自分ごとでした。

差別や貧困や社会問題に強い関心を抱いていた私は、18歳で国際NGOの企画する「地球一周の船旅」に参加。世界の国々をまわり、「理不尽に感じることは、日本だけでなく世界中に多くある」と実感しました。

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自分にできることを一生懸命考え、いきついたのが「教育」の世界でした。
「教育の力は大きい。教育に関わることでこの社会にあるおかしいことを変えたい」という思いで、大学卒業後はまず小学校で働くことを決めました。ですが、そこで大きな挫折を経験することになります。

臨時講師としての採用だったので学校で働いたのはたった3ヶ月間でしたが、その時のつらかった経験と悔やしい思いは、今が現場で踏ん張っている教職員の方へのリスペクトの源泉になっています。

今回は、大学卒業後から現在までに私がどのような経験をし、なぜプロジェクトを立ち上げたのかをお伝えしたいと思います。

違和感を感じながらも言葉にできなかった、臨時講師としての3ヶ月間

木登り禁止。植物を摘むのも禁止。
遠足では、列が乱れないように注意し続ける先生。
給食の15分間は、無言で食べる「もくもくタイム」。

大学卒業後に就職した公立小学校の担当学年では、私自身も腑に落ちない「決まり」が多くあり、戸惑いながら教員生活をスタートしました。

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入職して2ヶ月が経とうとする頃、ある先生が児童を怒っている場面に遭遇します。怒られているストレスからなのか、恐怖心からなのか、その児童は嘔吐していました。

「吐いたからって、追撃の手を緩めちゃダメなのよ。それで許されると思うんだから」

放課後に聞いたその先生の発言に、私は言葉を失いました。そのときの衝撃は、今でも忘れられません。

その先生の言葉以上にショックだったのは、私自身が「それはおかしい」と言えなかったことです。

違和感があるのに、伝えられない。
自分を守るために、空気を読んで子どもを叱ったり、管理したり。

自分の考えとは違う行動を繰り返すことで、「自分」がわからなくなり、「自分」を失っていく。そんな経験をしました。

3ヶ月後、臨時講師としての任期が終わり、私は働いていた小学校を去りました。

「この社会にあるおかしいことを変えたい」

そんな気持ちで学校で働くことを決意したのに、違和感を伝えることもできずに学校現場を離れた私。今でも、その悔いが残っています。

学校現場の悲鳴のような声を聴いて、ネット署名をすると決意

小学校を離れてからはまちづくりのNPOに所属し、子どもの居場所づくりや教育プログラムの立案・開発などに携わりました。その傍ら、学生時代に立ち上げた教育の多様性体感プロジェクト「CORE+(コアプラス)」では、多様な教育のあり方を学べるイベント「エデュコレ」や、全国の学び場を視察するツアー「フィールドスタディ(現EDUTRIP)」を企画。

2014年からは3年間お世話になったNPO団体を離れ、法人化した「コアプラス」の活動が仕事の中心となり、これまでの活動に加えて行政からの受託事業として学校へのスクールサポートスタッフの派遣や地域における子どもの居場所づくりのアドバイザー業務等を行いました。

メンバー間の方向性の違いからコアプラスを解散し、フリーランスとしてさらに活動の範囲を広げることを決めた2018年。その夏、当時の大阪市長が「全国学力テストの結果を、教員の評価やボーナス・学校予算の増減に反映させる」という方針を突如打ち出しました。全国の政令指定都市で全国学テの結果が最下位という状況を脱却したい、というのが理由でした。

ですが、児童生徒の学力が伸び悩む背景には貧困など社会的な問題があり、単純に教員の資質・能力や努力の量と結びつけられるものではありません。大阪の学力テストの結果の低迷の背景には、明らかに貧困の問題があり、本来はむしろ相対的に「しんどい地域」にこそ、手厚いサポートが必要です。

大阪市長が打ち出したこの方針は、低学力であることの原因を「教員の頑張りの足りなさ」とし、賞罰を与えることで人間をコントロールするものでした。学校現場で働く教員への敬意は感じられず、職業的な誇りを傷つけるものでもあったと思います。

私のところには、これまでつながってきた学校の先生たちからこの方針に対する怒りや悲しみの声がたくさん届いてきました。その声は、大阪市の教員だけではなく、全国の教員から発せられているものでした。

しかし、個人のSNSなどで発信されたその「声」は、社会には届いていないと感じました。SNSを通じて発信している方も、「書くことで、何かが変わる」とは思っていなかったと思います。

そんな状態を見て、私は「この方針に反対するネット署名をする」と決意しました。

学校現場の人だけで声をあげても、「そりゃあ先生たちは給料に影響が出たら嫌でしょう」と「労働問題」として処理され、世の中の人たちに聞いてもらいにくいことも想像できました。

ですが、このことは「最終的に子どもに不利益が起きる」という「教育問題」でした。「子どものためにこそ、この方針はを止めなければいけない」。それが伝わる必要がある。そのためには、学校現場で働いていない私が動くことにきっと意味があると思いました。

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ネットを通じて始めた署名は瞬く間にシェアされ、最終的に1万6千人の方からの署名が集まりました。その後、集めた署名は教育委員会と市長に提出。多くの市民や教職員、団体の方からの努力により、方針は実質見送りとなりました。

学校で働く方の思いや声が、社会に届く「出口」をつくりたい

私は、この方針が適用されることを止めたかった。けれどそれ以上に、学校現場が絶望していく流れを止めたかったのです。

「自分の声が社会に届いたんだ」
「自分と同じ考えを持っている人がいるんだ」
「自分が声を発することで、何かを変わるかもしれない」

学校現場で働く方がそう感じられたら、それ自体が勇気づけや力づけになるのではないかと思いました。

実際に、ネット署名をする中で「もうちょっとがんばれる気持ちになった」「ホッとした」という反応が多くありました。

「今まで抵抗があって署名なんてしたことがなかった」という先生が、「今回だけは居ても立っても居られなくて署名しました。勇気を出して職場の人にもお願いしてみたら、同じ思いでいることが分かって嬉しかった」と教えてくれました。

当時、大阪市教育委員会で働いていた知り合いの先生から、「あの署名、ほんまにありがとう」と言われたときは、複雑な心中を想像し、やるせない気持ちにもなりました。

このネット署名を実施したときの手応えが、今回のSchool Voice Projectにつながっています。

学校の内側にある思いや力こそが、学校を変える

「学校は変わらないといけない!」という学校外からのメッセージや圧力は、年々高まっています。もちろん中には妥当な意見もあります。私自身も、これまでに色んな思いや意見を発信してきました。

ですが、それらの外からのメッセージが、学校現場で働くの人の心を冷やしているところもあるのではないかと、ここのところ思うのです。

各現場や一人ひとりの教職員の中には、さまざまな葛藤や、よりよくしていくための模索があります。そんな見えない「思い」には目を向けられず、社会からは「学校はダメだ」「ひどい」と断罪されてしまう。

「変わりたい」「変えたい」と思っている人は、学校の中にこそたくさんいると思うのです。学校の内側にある思いや力を引き出し、あたためることでこそ、学校はよくなっていくのではないでしょうか。

小学校で働いていたときの私と同じように、「こんなことが気になるのは自分だけなのだろうか」と孤独を感じること、同僚と心を開いて本音で話せないこと、「どうせ変えられない」「言っても聴かれない」と諦めて手放していることが、学校現場で働く方の中にもあるのではないでしょうか?

私は、子どもたちが「自分は大切な存在で、自分の意見は尊重される」「私が動けば物事を動かせる」という実感を積んで、巣立っていける学校をつくりたいと願ってきました。

「自分を大人だと思う」29.1%
「自分の国の将来がよくなる」9.6%
「自分で国や社会を 変えられると思う」18.3%

これは2019年に日本財団が9カ国の18歳を対象に行った「社会や国に対する意識調査」における、日本の回答割合です。いずれの項目も、日本は他の8カ国と比べて、顕著に低い数字になっています。

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残念ながら、私の願いからはほど遠いのが今の日本の現状です。

そして、日々子ども達と向き合う私たち大人は、「自分は大切な存在で、自分の意見は尊重される」「私が動けば物事を動かせる」という実感を持っているでしょうか?

学校で働く大人たちがその実感を高めていけたら、そこにこそ希望があると私は思っています。

「声は届く」を実感できる"体験"をつくるプラットフォーム

私たちは「声が届いた」という経験や「動いたら変わった」という成功体験を1つ1つ積んでいく必要があります。

職場を変えることも教育施策を変えることも、簡単だとは思いませんが、その成功率を上げるためのオンライン・プラットフォームを、今つくっています。1つずつ実際に変えていくことができたら、それは自信になります。

「言っても届かない」「私の声は聴かれない」という実感を、このプロジェクトを通して私たち自身の手で、塗り替えていきたいと思っています。

私たちは、私たちをエンパワーしていける。

一人では難しくとも、声を集めることは力になります。そしてそれが、子どもたちをエンパワーできる日本の学校教育をつくっていくことにつながるはずです。

教職員の方が一番実感していることだと思いますが、学校現場の疲弊と窮状は、もはや極まっています。現に、不必要に子どもが傷ついたり、教職員が心を病んだり、心強かった仲間が現場を去ることが起こっているのです。

後回しにすればするほど、手立てはもっと困難になるでしょう。だから、今このプロジェクトを立ち上げます。もう、無駄にできる時間はないと思うのです。

「学校はもっとよくなる」。

本当はそう思いたい皆さんと、一緒につくっていくプロジェクト。

それが、School Voice Project です。

2021年の秋に、まずはWEBアンケートサイトをサービスリリースします。現職の教職員の皆さん(※本プロジェクトは小中高の一条校の教職員の方を対象としています)にユーザー登録をしていただき、アンケートで声を出していただくことを通して、見えない思いや現場にあるさまざまな知恵や資源を「見える化」し、社会に届けていきます。

「私の人生は、私がつくる」「私たちの社会は、私たちがつくる」
希望と責任を持って、そう言える人が増えるような教育をしていきたいと思っています。

私は、学校現場で奮闘している教職員の方を、心から尊敬しています。共に学校をつくっていくために、学校の外にいる私だからこそできることを、これからも最大限やっていきます。

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武田緑(Takeda Midori)プロフィール

Demo代表 ・ 教育ファシリテーター
民主的な学び・教育=デモクラティックエデュケーションを日本中に広げることをミッションとして、教育関係者向けの研修の企画運営、現場の課題解決のための伴走サポート、教材やツールの開発・提案、キャンペーンづくりなどに取り組んでいる。シティズンシップ教育、人権教育、オルタナティブ教育、学校と学校外の協働、子どもの参画、ファシリテーション、ワークショップデザインなどが専門。
「教育」をテーマにした学校や教育委員会等からの依頼はもちろん、「まちづくり」や「人権」をテーマに行政や企業からの講師依頼も多い。
現在は、全国の教員や教育関係者のネットワークづくりや、活動のサポートに取り組みつつ、NPO法人授業づくりネットワーク・理事、 一般社団法人はらいふ・理事、などを兼任。

SNS:Twitternote

お知らせ

WEBアンケートサイト「フキダシ」は、現在ユーザー登録を受け付けています。教員の方だけではなく、事務職員や用務員、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカー、ICT支援員の方など、学校現場で働く様々な立場・職種の方が対象です。ぜひご登録ください。

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(文:武田緑 編集:建石 尚子)

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