子どもたちの「未来の幸せ」を考えられる環境を作りたい|運営メンバー 塚本有多香さん
こんにちは。School Voice Project 運営メンバーの塚本有多香です。
2020年度まで公立学校で教員をし、現在、オルタナティブスクールのスタッフをしながら、このプロジェクトの運営に関わっています。
これまで学校で感じた同調性への違和感から、一人ひとりの声を見える化するプロジェクトに魅力と可能性を感じて関わることになりました。
選択肢は自分の中にあると感じられた大学時代
私は小、中学生のころ、みんなと同じことをしなければいけない学校の環境に、最初は適応できずにいました。次第にそのような環境にも順応していきましたが「周りのみんなと同じようにできない自分が悪い」と思って周囲に合わせていたため、自信のなさにつながり苦しい時期もありました。
それが少し楽になったのは、高校に入ってからでした。自由な校風で、みんなに合わせることよりも個性のあることが歓迎される雰囲気でした。学校や先生が自分たちの存在をそのまま受け入れてくれたため、目に見えない同調圧力のようなものに苦しむことはありませんでした。
大学では写真部に入って、個性的な人たちと過ごしていました。自分の勉強したいことを選択しながら、自分のペースを掴めるようになり、選択肢は自分の中にあると感じられるようになりました。
大学を休学し、オーストラリアのメルボルンに公立小学校のインターンをしたこともとても印象に残っています。さまざまな移民の生徒がいる地域の学校だったのもあり、多様性を体感しました。
特に印象的だったのは、ある先生が「あなたの肌の色は何色で、瞳の色は何色ね」と、見た目の違いをフラットに子ども達と会話していたことです。子ども達はその違いを偏見なく事実として受け止めて過ごしているように感じました。
「これは誰のための教育なのか」という葛藤
同調圧力から解放された大学生活を終え、公立学校の教員になると、自分が小、中学生のころと似たような環境に再び身を置くことになりました。
「先生はあらかじめ決められた枠組みの中で、その決まり事を守るようなしっかりした大人でなければならない」といった意識が働き、子どもたちの活動についても、管理職や周りの先生に指摘をされないように「落ち着いているように見せなくてはならない」と思いながら授業をしていました。そんなことをしているうちに「これは誰のための教育なのか」と思うことが増えていきました。
自分自身の過去の経験から同調性を意識してしまう環境に戻ったことで、大学生の頃に自分の中に見つけた選択肢や意思は消えてゆき、子どもたちに対しても窮屈な環境を作っていたと思います。
私が担任を持ったある女の子は、勉強が少し苦手でした。評価軸に合わせてテストの点数が取れるよう勉強を必死にサポートしていましたが、クラスで音読劇を行った際、表現力の高さに圧倒されました。
あの時、「もっと褒めてあげればよかった」「すぐに保護者さんに伝えればよかった」「別の劇も用意すればよかった」と、今振り返ればそんなことを思いますが、当時の私は、その子のできないことをできるようにすることばかりに一生懸命になっていました。せまい評価の物差しを使って子どもの長所を見落としてしまうことは、他にもあったのではと思っています。
最後に担任を持ったクラスでは、「遊び」を子ども達と一緒に創っていくことを軸として、枠にとらわれない学級経営にチャレンジし、とても楽しく手ごたえも感じました。
しかし、「やらなければならない」とされる教育内容に疑問を感じる事が多くあり、それを持ちながら厳しい働き方を続ける事に限界を感じました。同時に、多様な教育の在り方を追求したいという思いが強くなり、退職を選びました。
自分の気持ちも相手の気持ちも尊重できる子どもたち
現在は、箕面こどもの森学園(認定NPO法人コクレオの森)というオルタナティブスクールに勤務しています。そこでは「先生」という立場の人はおらず、大人はみんな「スタッフ」として働いています。呼び方も自由で、私は「ゆたかさん」と呼ばれていますが、子どももみんな自分が呼ばれたい名前で呼ばれています。
立場や呼び方だけでなく、学校全体の取り組みが、子どもの個性や主体性を大切にしているため、どんなことでも自分たちで決めています。
例えば、運動会をするにしても、やるかどうかから子どもたちが決めます。やることが決まったら実行委員ができて、実行委員がプロジェクトを進める形で、種目が決まり、その種目の中で子どもたちが自分でどれに出たいかなどを決めていくようなプロセスです。
このように子どもたちは普段から自己決定を積み重ねています。そのため、自分が何をやりたくて何をやりたくないかを表現することができますし、自分の気持ちが尊重されるため、自然と相手の意見も尊重できるようになり、みんなのびのびと生活しています。
子どもの長所を伸ばすとともに、子どもたちが主体的に、幸せに生きていく力を育む環境のように感じています。
「未来の幸せ」のための教育を考えられる環境を整えたい
現状からあらためて振り返ってみると、教員は最高に面白い魅力的な仕事だと思いますし、学校教育にも大きな可能性を感じています。
今は、辞めたからこそ見えてくる公立学校の仕組みの素晴らしさに気づくこともできました。
どんな子どもに対しても一定の水準の学力を身につけられるようなカリキュラムがあることや、そのために最低限必要なリソースが提供されること、本当に熱心で真面目な先生方がたくさんいることは民間では当たり前のことではありません。
みんなのための公立学校で、みんなが幸せになるにはどうしたらいいかを今後も考えていきたいです。
先生も子どもも、「〜しなければならない」といった囚われから解放されて楽になれることを願っています。解放されたその先には、子どもたちの「今学期の通知表」のことではなく、「未来の幸せ」のための教育を考えられる環境が整っていくといいなと思っています。
SVPを通して学校の声を世の中に届けていきたい
声を上げ、届ける仕組みがあることで変えられるんだということを、School Voice Projectを通して先生方が実感し、学校現場が良くなっていけばいいなと思っています。
先生の声は子どもの声でもあると思うので、それを学校の外の人に聴いてもらうこと、考えてもらうことはとても大事な事だと思います。
私は教員はやめてしまったけれど、School Voice Projectを通して学校教育に関わることができて本当にありがたいなと思ってます。学校の声を世の中に届けていけるようお手伝いができれば嬉しいです。
プロフィール 塚本有多香(つかもとゆたか)
認定NPO法人コクレオの森・箕面こどもの森学園スタッフ / School Voice Project 運営メンバー/3児の母
公立学校教員時代にコクレオの森の主催する「manabeeプログラム」に参加し、自己肯定感・自己決定・対話・ESDの大切さを学び、目から鱗が落ちました。学校の中にあるたくさんの「当たり前」を変えていく事で、教員も子どもも、そして未来の社会も、もっとハッピーになれると思い、今年度からmanabeeにもスタッフとして関わっています。
子ども達の感性やものを捉える視点、創り出すものが大好きです。子育てはもちろん、子どもと関わる仕事はとてもクリエイティブだと感じています。公教育に関わる大人が、忙殺されるのではなく、その魅力を存分に味わえるような環境が整う日が来ることを夢見ています。
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(取材・文:高野雅子 編集:建石尚子)
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