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未来社会を生き抜く力の育成のために、子供たち主体の授業を実現

子供たちが主体となる授業づくりのために、チーム学習と個別最適化学習を重んじる愛知県岡崎市立広幡小学校。

広幡小学校では、授業の変化を担うツールとしてスクールタクトを活用しています。
チーム学習を取り入れた授業風景、先生方のインタビューは以下の動画でもご覧いただけます。


授業の中で多様な工夫をこらして実践を重ねる先生を代表し、教頭の佐渡英彰先生、5年生担任の加藤良彦先生、6年生担任の石川瑞紀先生にお話をうかがいました。実際の授業の様子とインタビューを通じ、それぞれの実践の土台には、時代の流れによって変わっていく教員の役割と、それでも変わらない普遍的な教育観など、未来を見据えた教育への想いがあることが見えてきました。


教育の不易と流行を踏まえて時代に求められる力を養う


岡崎市立広幡小学校は創立150年を超える城下町エリアに位置する学校です。目指す子供像として、「自ら学び、進んで学習する子」「思いやりの心をもち、助け合える子」「明るく、元気で、たくましい子」を掲げます。なかでも、「主体性が一つのキーワードとなっている」と語るのが、同校教頭の佐渡英彰先生です。

「これまでの授業スタイルでは、どうしても教員が子供に知識を教授する一対全体の構造が生まれていました。そのため、子供が主体性を発揮できる場面が少なかったのです。今後は、ICTも活用しながら、子供たちに自らの考えを構築して、人に伝える体験を積んでほしいと考えています」

広幡小学校は、本年の研究主題を「自らの意思で 発見・判断・実行できる スーパーソサエティキッズの育成」とし、スクールタクトをはじめ、さまざまなICT活用を進めています。

広幡小学校の研究主題のイメージ図

「今後、さまざまな社会問題の解決と経済発展の実現を目的とした「Society5.0」と称される社会を生き抜く人材を育てていくには、ICTをうまく活用しながら自らの学びを構築していく体験が欠かせません。

岡崎市が目指す個別最適化学習の実現に向けて、自分の考えをまとめて進捗を管理し、チームやクラス全体に自身の考えをシェアして学び合い、そして最後には振り返ることができる仕組みづくりが非常に重要であると考えています」

こうした学習を実現するためには教員はファシリテーターである必要があると、佐渡先生は語ります。

「教室全体を見ながら指揮官のようにファシリテートでき、新たな学習スタイルの授業を構築できるような教員になっていくことが求められています。授業を変えていくには、教員間の学び合いが一層重要になります。当校では、授業研究で教員が相互の授業を見学した後に、スクールタクトの画面を見ながら『こういう共通の課題があるよね。どう改善していこうか?』『この部分は自分の授業にも取り入れられると思った』といったことを対話する学び合いを重視しています」

学校の役割が大きく変わるのではなく、ICTなどのツールをどう活かしていくかが重要であると佐渡先生は続けます。

「教育には『不易と流行』があると思います。子供たちに豊かな学びを実現することは、学校の不易の使命です。教員はその実現に向けて、子供たちが取り組む課題を吟味していきます。その課題を提示する際に、学習の効率を上げたり、わかりやすく視覚化したりするようなツールをどう活用していくか。この不易と流行の掛け合わせこそが、これからの学校教育の肝になってくると思っています」

岡崎市立広幡小学校 教頭 佐渡英彰先生

子供たちの表現する意欲を高め、社会で生きる力を養う


5年生を担当する加藤良彦先生は、「多様な考え方を見聞きした上で、自分の考えを持たなければいけない時代になってくる」と語ります。そして、こうした時代で生き抜くためには、知識を覚えるようなインプット型の教育ではなく、インプットしたものをアウトプットして、互いの意見に刺激を受け合うような授業が求められているといいます。

「授業の中でインプットしたものをどうアウトプットしていくかは非常に重要だと考えています。たとえ、考えとして未熟な部分があったとしても、アウトプットすることで周囲にサポートしてもらいながら完成度を高めていくことができるはずです。どんな考えでも、どんな解き方でも、他者の意見を知り他者に助けてもらいながら、“自分なりの”表現ができるようになることが重要だと思います」

加藤先生はこうした授業を実現するためには、教員の役割を変えていく必要があると考えています。

「教員主導の授業の場合には、どうしても『伝える』『説明する』ということに重きが置かれます。一方で、アウトプットの場面を増やすなど子供たち主体の授業へシフトする中では、子供自身が気づきを得られるようにお膳立てをしていくことが教員の役割になっていくでしょう」

加藤先生は、「最終的に子供たちがみんなで解決できるような授業としていきたい」と展望を語ります。それを実現させていくためには、より綿密に子供たちの状況を把握する必要があるといいます。

「授業中、『みんなで頑張った』という雰囲気を醸成していくにはどういう順番で指名していくかといったことが重要になります。これまでは、授業中の子供たちの学習の進捗状況は教員が生徒の席の間を見て回り、個別に指導しながら確認していくしかありませんでした。しかし、スクールタクトを使えば、『ここで困っているな』ということを即座に把握し、サポートすることができます。もちろん、『この考え方はいいね!』とこまめに褒めることもできます」

ー丁寧に子供たちの状況を把握することで、どのような効果を生むのでしょうか。

「共同閲覧モードを使えば、教員からも、子供たちの間でも、認められる機会を増やすことができます。そして、誰かに認められる経験は子供たちの自信につながっていくはずです。授業の中で、一人ひとりの子供たちが主役になる機会を作り出すことができるのではないでしょうか」

授業での経験を社会で生き抜く力の育成につなげていきたいと加藤先生は考えています。

「子供たちの『自分の考えを、より多くの人に知ってもらいたい』という思いを強めていきたいと考えています。加えて、自分にとって必要な情報をキャッチして、それをもとに自分で判断し、意思決定できるようにたくましく成長していってほしいと願っているんです。未来社会をたくましく生き抜く子供たちの育成を目指し、これからも実践を重ねていきたいと思っています」

加藤良彦先生

加藤良彦先生 5年生算数(平均の学習)の授業

(スクールタクトを用いた活動を太字で記載)

【導入 5分】
■教員
フルーツからジュースを作り三等分しようとしているイラストを掲示して、「どんなシーンか?」を子供たちへ尋ねる
■児童
「3つに分けようとしている」「3つに分けようとしているけれど、うまくいかなくてバラバラの量になっている」といった声が挙がる
■教員
「自分の分のジュースが少なかったら嫌だよね。どうしたら3つに分けられると思う?」と投げかける

【展開① 10分】
■教員・児童
・「タブレットを見てみよう」と伝え、スクールタクトで配布されたイラストにどうやって分ければ均等になるかを子供たちが描き込んでいく
「平等に分けるということかな?」という子供の発言を拾い、「平等とはどういうことだと思う?」とクラス全体に投げかける
子供を指名し、教室前に置かれた大画面に表示するように伝える。指名された子供はイラストを投影し描き込みをしながら解説する
■教員
「このラインに揃えることが『平等』ということだね」とここまでの学びをまとめる

【展開② 5分】
■教員
「では、容器の形が違う場合にはどうしたら平等に分けられる?」と投げかける。210ml、200ml、250mlの形の異なる容器のイラストを掲示
「難しい!」「無理!」と子供から声があがるなか、「算数ではこれを『ならす』といいます。聞いたことあるかな?」と投げかけて、「『ソフトボール部がグラウンドをならす』とか聞いたことない?」と児童にイメージを想起させる
■教員・児童
「ならしていくにはどうしたらいいかな?」の投げかけに対して、「ミリリットルを使って計算する!」という子供の回答を得て、チーム学習を進行する

【展開③ 5分】
■児童
・チームでスクールタクトを使って平均を求める式について話し合う
■教員
児童の席の間を見て回り、個別に指導しながら子供たちの解答を確認
■教員・児童
・それぞれのチームでの解答が出たタイミングで、教員がスクールタクトの共同閲覧モードにするように伝える。「自分の考え方と同じだなと思うものを探してみよう」と投げかける

【展開④ 5分】
■教員・児童
・指名した子供が自身のスクールタクトの画面を大画面に表示して計算式を解説
。同時に、教員は黒板に発表した内容を記す
aチーム (210+200+250)÷3
bチーム 210+200+250=660 / 660÷3

【展開⑤ 5分】
■教員
・「平均はどんな時に使うかあげてみよう」と投げかける。スクールタクトの画面は答えの枠にブラインドがなされており、自分の答えを記入できたら、オープンにして答えを確認できるようにしている
■児童
「身長」「体重」「テスト」「体力テスト」など平均を使う場面を記入していく
■教員・児童
指名して発表。ワードクラウド(※1)でどんな解答が多かったかをビジュアル的に確認
※1 文章やテキストから単語の出現頻度にあわせて文字の大きさを変えて視覚化できるスクールタクトの機能

【まとめ 5分】
■教員
「今日の振り返りを記入してください」と伝えて、スクールタクトの振り返りシートへ「何がわかったのか」「どのようにわかったのか」を記入するよう伝える
児童の席の間を見て回り、個別に指導しながらスクールタクトで、児童の記入状況を確認。最後に、「こんなことがわかったと書いてくれていました」と教員が児童のコメントを読み上げて、まとめとする



誰一人取り残さず、互いに学び合う授業を目指して


6年生を担当する石川瑞紀先生はチーム学習を重視し、誰一人取り残さない授業を目指しています。家庭科の「家族が快適に過ごすための掃除の計画を立てよう」の授業実践においても、子供たちが学び合う活動を実践しました。取り組みの背景を石川先生はこう説明します。

「家庭科は子供たちの実生活にそのままつながる教科です。掃除する優先順位について対話する活動は、子供たち一人ひとりの“らしさ”が出ます。実際に『家族が一番集うところだからリビングを掃除したい』『よく使うところだからトイレを掃除したい』など、個々に異なる考え方が出されていました。自分の中にはなかった他者の考えに出会うという、面白い体験は学校だからこそできること。それをねらいとして取り組みを行いました」

授業では机をつけて班の形にして話し合うこともあれば、スクールタクトの共同閲覧モードを使ってクラスメイトの意見を確認する活動も取り入れています。

「子供たちは、自分で考えたことに加えて、他の子がどういうふうに考えているのかを共同閲覧モードでパッと確認することができます。もしスクールタクトがなければ一人ひとり順番に発表する時間を設けなければいけません。ICTの活用は、効率的・効果的な学び合いを実現できることに大きな価値があると感じています」

石川先生は、教室の前に欠席の子供と接続しているタブレットを据えて、自宅からリアルタイムで授業に参加できるような仕組みを作っています。例えば、登校が難しい子供も授業に参加することで、学校と途切れることなく、つながり続けてほしいと考えているのです。

「長期欠席の子供にも、クラスのみんなと一緒に授業を受けてほしいという思いがあるので、できる限りオンラインで接続し、スクールタクトを使ってコミュニケーションを取れるようにしています。たとえ、コメントがなかったとしても友達の様子を見ることはできているはずです。どんなことを学校で行っているのか、その空気感を感じられることはとても重要なことですよね」

教室にいない子供も取り残さない。全ての子供たちの伸びをすくい上げ、個々の学びをクラス全体に還元していけるような授業展開を実現していきたいと、石川先生は思いを語りました。

石川瑞紀先生

石川瑞紀先生 6年生家庭科(掃除の学習)の授業

(スクールタクトを用いた活動を太字で記載)

【導入5分】
■教員
児童から提供された自宅の汚れの写真を掲示して、「ソファの下に汚れがあるね」「部屋のスミにホコリがたまっている」など掃除が必要なポイントを具体的に確認
・今日のめあてとして「家族が快適に過ごすための掃除の計画を立てよう」と板書
スクールタクトで家の汚れの写真を配布

【展開① 5分】
■児童
・近くの席の子供同士でどこが汚れているのかを話し合いながら、汚

れている箇所にマルをつけていく

【展開② 5分】
■教員
・「スクールタクトの画面を大画面に表示して発表してください」の投げかけとともに児童は挙手
■児童
指名された児童が教室の前に置かれた大きな画面に表示し、発見した汚れについて発表
■教員
「先生が理想とする間取り」をスクールタクトで配布。「掃除が必要そうな部分をチェックしてください」と伝える
■児童
個々にスクールタクトに向かって、「土ほこり=緑」「水あか=青」「ほこり、髪の毛=赤」の区分けの指示に従って、枠囲みや図形を使ってチェックを入れる
■教員・児童
・個人作業が終了したのを見計らって、机をつけてチーム体形にし、子供たち同士で話し合う

【展開③ 5分】
■教員
・「発表してくれる人?」と投げかける
■児童
指名された児童が大画面に表示して発表
■教員・児童
・発表で挙がっていなかった部分は、黒板に大きく掲示された間取りに書き込みを入れるよう伝える。各児童が前に出て取り組む

【展開④ 5分】
■教員・児童
・再度「家族が快適に過ごすための掃除の計画を立てよう」という授業のねらい(めあて)を確認して、間取りの中でどのエリアの掃除の優先度が高いか順番とその理由をスクールタクトに書き込むように伝え、児童が取り組む
■児童
・挙手して自身の意見を発表

【展開⑤ 10分】
■児童
・「1時間しかない時に、どの部屋をどの道具を使って掃除をするか」考えるワークに取り組む(道具の働きは前回の授業で既習)

【展開⑥ 5分】
■教員
「共同閲覧モードで他の子たちの考えも見てみよう」と投げかける
■児童
共同閲覧モードにして、班の中で学び合う。「私と違ってみんなが集まるリビングの汚れを拭き掃除するというところがよかった」など自分との差異に気づきながら対話していく

【まとめ 5分】
■児童
指名された子供が、大画面に表示してクラス全体に発表
■教員
・「順番を決めて掃除をすることが大事」という先生のコメントで締めくくる


より楽しく豊かな学校の時間を目指して


2020年1月にはじまった「岡崎版GIGAスクール構想」。スクールタクトのnoteでは「岡崎版GIGAスクール構想+スクールタクト」と題し、さまざまな個性や特性を持った子供たちが、学校で自分らしく学びを深め、自己表現できるようになっていくことを目指した岡崎市の教育委員会と5つの学校の取り組みをお届けしました。

誰一人取り残すことなくそれぞれの資質・能力を育むために、教員主導から学習者主体の授業への転換を目指す岡崎市教育委員会の改革とそれぞれの学校・先生による実践は、これからの教育を進める全国の先生や教育関係者の皆さまの道しるべになるものと感じています。

また、取材の中で見えた「チーム学習」を軸に主体的に学び合う子供たちの姿や、一人ひとりの子供たちの学びの過程を把握し伴走していく先生の姿は、学びの変革が求められる今、私たちがスクールタクトを通じて広げていきたい、子供たちと先生の両者にとっての「より楽しく豊かな学校の時間」につながるものに見えました。

そのことは記事での紹介に加え、取材をした5つの学校での学びの様子を収めた動画でこそ読者の皆さまに真に感じていただけるものと思っています。先生のファシリテーションのもと、つながり合いながら学びを深める子供たちの様子は、GIGAスクール構想による1人1台端末の成果というだけでなく、日本の学校のこれからの理想の姿なのではないでしょうか。



それではまた。
学びとマナビが、ひびき合う。
スクールタクトでした。

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