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尾上校長の六浦小学校訪問レポート(後編)「とにかく子どもが幸せに生きていけるように」

後編は、インタビューさせていただいた内容をご紹介させていただきます。

前編と併せて読んでいただくと、尾上校長のお考え、信念、そしてその現れとしての普段の学校での様子が伝わるかなぁと思います。

まだ、前編「尾上校長の半日に密着してみたら…」を読んでいない方は、「こちら」から。


特別支援学級、国際教室もすべて含めたみんなまるごとインクルーシブ

◯(事務局)今日は半日密着させていただき、本当にありがとうございました!
学校全体が、「尾上校長のカラー」、それから、とても「ほっとする」学校だなぁと感じました。

⚫(尾上校長)今日たまたま国際教室を見ていただけない日でしたが、特別支援学級だけでなく、国際教室も含めて、また、そうしたものも飛び越えて、みんなまるごとインクルーシブな学校を目指したいと思っています。

六浦小学校の国際教室には全学年から外国につながる子どもたち11名が集まってきます。日本語指導が必要な子どもたちに教科の基礎学力や生活適応の力をつけるために担当教諭が主に国語や算数の教科指導を1~2日に1コマ程度行っています。

六浦小学校の国際教室の強みは、この担当教諭の子どもたちにかける愛情の深さです。その気配り、目配りは国際教室の子どもたちを中心に全校児童に広がっていきます。11人の国際教室を利用している子どもたちにしてみると、自分たちを親身になって見てくれる国際教室での担任の先生が全校の子どもたちから慕われていることが誇りであり、それぞれの子どもたちの自尊感情を高めていくことにもつながっています。

六浦小学校の国際教室で繰り広げられる先生と子どもたちの日々の出来事や人間模様、そしてその積み重ねが一人ひとりの子どもの確かな成長につながっている様子を見ていると、インクルーシブ教育ってこういうことなんだという自分の確信となっていきます。

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※国際教室での授業風景 6年生算数/六浦小学校 学校ホームページ むつうらっ子ニュースより

すべては子どものため、目の前の子どもに寄り添い、支えきろうとすることこそが学校教育

⚫一般教室、個別支援学級、国際教室、そして理科室・音楽室・図工室・家庭科室・学校図書館といった特別教室、保健室・保健相談室、特別支援教室といった子どもたちに寄り添い支援する場所、技術員室や給食室(ときには職員室・事務室・校長室)など専門職員が執務や業務にあたる場所、これらの担任や担当が、「子どものため」を行動基準として指導・支援・教育環境整備を通して目の前の子どもに寄り添い、支えきろうとすることが、学校教育の営みそのものだと思っています。「インクルーシブ教育」とわざわざ謳わなくとも、インクルーシブが当たり前の教育を職員皆さんと積み重ねているつもりなんです。

◯尾上校長を見ていると、まさに、誰ひとり取り残さない…子ども一人ひとり、さらには教職員一人ひとりをリスペクトし、それぞれとそれぞれ個別の関係性を築いてるように感じます。

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学校の姿でしか子どもたちは救えない

⚫私は、学校の姿でしか子どもたちは救えないと思っています。
学校がどうあるか、学校がどう子どもたちと向き合えるか、これで救える子どもが確実にいると思っています。

その日、その瞬間に大変な思いをしている子どもや保護者を、職員がチームになって支えきろうとつながり合い行動を起こす、そんな学校の姿を目指したいといつも考えながら、校内や学区内をうろうろしています。

◯だから、すべての子どもと毎日コミュニケーションを取るし、子どもにとって居心地が良いと思える場所、楽しいと思える場所を創る、ということにつながるんですね。

尾上校長とは出会って3年が経ちますが、こうして学校にお伺いする前は、尾上校長が作る「校庭」や「自然体験空間」に特に目が行ってしまっていました。
しかし、実際に学校で半日密着させていただいたら、そういう目に見える取組みとはまた違う、子どもが受け入れられているという感覚、居心地の良さ、子どもが幸せと思える状態を創り出すことに向けた日々の具体的な行動の積み重ねをとても感じました。

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※2018年本プラットフォーム合宿にて


学校は圧倒的なリアルに触れる場、体験することでしか子どもは育たない

⚫確かに、私自身が自然が大好きで、だからこそ、飯島小学校でも校庭に里山を創りました。自分の原点はそこだと思っています。

文鳥とかウサギとかハムスターとか、餌をやらないと死んでしまう動物が近くにいて、花に水をやったり、山に登ってみたり…そういう圧倒的なリアルに触れること、大昔から続いてきた当たり前のことを通して学ぶ場が学校だと思っています。

友だちや先生との栽培活動や虫捕り、町たんけんや遠足・校外学習などの体験活動を、子どもが時間を忘れるほど夢中になって取り組めるものにしていくことは、子どもからすると原体験として自らの心の中に刻み込まれる基盤(人格形成の基礎)を形作っていくようです。「生きる力」となっていくと言っても良いと思います。

校長としてそんな子どもたちの姿を見ていくことがこの上ない喜びになっています。

体験することでしか子どもたちは育ちません。

◯前任校の飯島小学校の里山は、子どもたちにとって、学校が格好の遊びや体験の場なんだろうなというような校庭でした。

⚫トンボ捕りや花の育て方を、ただ情報として教えても意味がありません。
種をまいて、水をやって、芽が出て、蕾がふくらんで、やっと花が咲く。それを自分の手でやってみて、初めて、花が咲く本当の喜びを感じることができると思います。
だからこそ、前任校でも校庭に畑を作ったり池を作ったり、子どもたちが体験できる場所を増やしてきました。

(参考)前任校の横浜市立飯島小学校での「校庭里山プロジェクト」とは
校庭を里山に作り変え、地域のひとにも手伝っていただきながら、自然体験を通じた学習を教育活動に位置付けた、というもの。
こうした尾上校長の実践を受けて教職員は、里山を活用した授業づくりに取り組むなど、尾上校長だけでなく、学校、地域全体で、子どもが「学校に来るのが楽しい」と思える環境を創り出しました。
この実践は、時事通信社の第34回教育奨励賞優秀賞、文部科学大臣奨励賞を受賞しているとのことです。詳しくはこちらから。

ちなみに、2018年7月15日19:30 - 20:00、NHK総合「ダーウィンが来た!生きもの新伝説 都会で発見!絶滅危惧種ウナギ」でも、飯島小学校の子どもたちが、柏尾川でウナギ獲りをして、生き物とふれあいながら地元の自然について学んでいる様子が放送されました!


子どもが行きたいと思う場所、居心地の良さを感じられる場所を如何に創れるか

⚫自然観察などの体験は、理科や生活科など色々な教科の知識につながっていきます。それをどう表現するかで、算数や国語の力も必要になります。

しかし、そういう「教科」にしばられなくても、花が咲いてモンシロチョウが飛び交う花壇、メダカが群れ泳ぎオタマジャクシがいる観察池、夏に向けて稲がぐんぐん生長してシオカラトンボが飛び回る学校田んぼなどなど、子どもたちが行きたい、遊びたいと本能的に思える場所があるのが「学校」なんだと思います。

「子どもが行きたいと思う場所」=「子どもが居心地の良さを感じられる場所」、そういう場所を如何に創れるか、それが一番だと思っています。

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※4年生 理科 季節と生き物 秋 授業風景

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※2年生 生活科 夏野菜を育てよう 授業風景

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※特別支援学級 生活単元学習 大根畑に種まき

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※笑顔のあいさつと花いっぱいの校庭で子どもの登校を迎える

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※5年生 総合 自分たちで苦労して造った水田への田植え/以上5点 六浦小学校 学校ホームページ むつうらっ子ニュースより

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※前任校の飯島小学校創立50周年記念に創られた「校庭里山の楽しい学校」。この表紙は、その当時の飯島小学校の生徒ひとりひとりをイメージして、尾上校長が描いたとのこと。


子どもたちが豊かな体験を温かな人の輪の中で積み重ねていけるように

◯自然体験は、あえて極端な言い方をすれば、体験活動のための体験に終始する感じを受けてしまうものもあります。
しかし、尾上校長の学校でされているのは、まさに体験「学習」。
自分で体験したことが、表層的な知識や学力を超えて、学びに向かう力や生きる力につながっている、そしてその根底に、「学校は楽しい場所である」という気持ちがあるように見えます。

⚫自分にできることは、自然学習や体験学習も含めて、子どもが豊かな体験ができるようにすること、そして、その体験を生む大人の輪を少しでも拡げることです。
それが子どもの学びだけではなく、笑顔やワクワク、なにより幸せと思う気持ちにつながっていると良いなと思っています。

「子どもたちが豊かな体験を温かな人の輪の中で積み重ねていくことのできる」、そんな学校や町にしていきたいと願っています。

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※5年生 総合 地域の川 侍従川の生物観察

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※3年生 総合 育てたカイコの繭から生糸を紡ぐ

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※1年生 生活科 町内会館で町のおみこしについて教えてもらう/以上3点 六浦小学校 学校ホームページ むつうらっ子ニュースより


先生たちも同じ方向を向いている学校

◯驚いたのは、前任校の飯島小学校での哲学と実践が現任校の六浦小学校においても体現されていることです。
とはいえ、尾上校長がトップダウンで「こういうことをやれ」という指示を出してやっているというより、むしろ教職員一人ひとりの自然な教育実践が主で、気が付いたら尾上カラーに染まっているような気がするのですが…リーダーシップ、マネジメントの秘訣は何なのでしょうか。

⚫️私のリーダ―シップでけん引して体験ベースの活動が始まった訳ではなく、今の六浦小学校の教職員は体験ベースの教育を大切に積み重ねていこうとされていました。この点は私が、(令和2年度に)赴任した時に感じられました。

令和2年の4月・5月は休校となってしまい授業が進められませんでした。ならば、学校再開となった時に子どもたちを花いっぱいの校庭で迎えようと、教職員で花壇を耕し、野菜畑を広げるなどの準備を進めていました。6月に学校が再開となった際に初めて行った授業は、

【特別支援学級】⇒タマネギ・ジャガイモの収穫
【1年生】⇒アサガオの種まき
【2年生】⇒夏野菜の植え付け
【3年生】⇒カイコを卵から育てよう
【4年生】⇒コスモスの種まき
【5年生】⇒自宅で芽出しをした稲苗の田植え
【6年生】⇒ヒマワリの種まき(※大館市立釈迦内小学校との交流の詳細は後述。)

といったものでした。

⚫️そのような取組みを教職員が進めていく中で、校長として私自身が頑張ったのは、横浜市のリサイクルセンターに格安の有機たい肥を購入に行ったこと(※自家用車で最大積載量までたい肥を積み込み、3往復しました。)や職員皆さんと畑を耕したり、種や苗の入手の道筋をつけたりしたことです。また園芸の専門家や農家の方、福祉活動や自然保護活動に熱心に取り組まれている方、町内や行政で学校支援にあたっていただいている方々などの地域人材をそれぞれの学年の取組みのサポータ―、ゲストティ―チャーとして紹介し、つなげたことも日々のマネジメントとして行いました。

⚫️校長の私も、専門家や地域人材をつなぐだけでなく、各学年の体験的な活動には、授業を行わせていただく形で入り込ませてもらっています。例を上げると…

【特別支援学級】⇒毎朝1時間目「自立」の時間に1分間スピーチで「その日学校で見つけた植物や生き物」の話をする
【国際教室】⇒ブルガリア大作戦 紙芝居づくりを通してブルガリアとの交流
【1年生】⇒土づくりからのアサガオ(夏)、パンジー(冬)栽培
【2年生】⇒土づくりからの夏野菜(種からのトマト栽培)、冬野菜・果物(いちご栽培)栽培
【3年生】⇒カイコのえささがし、昆虫いっぱいの花壇づくり
【4年生】⇒コスモス・菜の花・ビオラの花いっぱいロードづくり
【5年生】⇒学区内の侍従川での魚とり、水田づくりから横浜の米づくり
【6年生】⇒自然観察園、正門花壇、飼育小屋の造成・整備を通してのキャリア教育、大館市立釈迦内小学校とのヒマワリ栽培交流(※大館市立釈迦内小学校との交流の詳細は後述。)

といった感じです。校長が授業を通して子どもと関わることで、その学年の取組みが自分事となり、担任・担当の教員と一緒に教材研究や事前準備をする時間がとても貴重に感じられます。

⚫️それらの学校の特色ある教育活動の様子を毎日、学校ホームページに「むつうらっ子ニュース」として更新し、発信していったことも、結果としては先生方の取組みの後押しとなったように思います。この「むつうらっ子ニュース」での発信は保護者にも好評で、ここまで一日も欠かさずに2年間続けています。

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(参考)毎日の授業での子どもの様子を伝える学校ホームページ「むつうらっ子ニュース」は、こちらに更新されています!

⚫️また、担任・担当の教員は毎週の1時間1時間の授業で「何をどのように教えるのか」を週案に記して校長に提出することになっています。この週案の欄外に「指導・支援の連絡事項」として自由記述のスペースがありますが、ここに、提出する全員の教員が、その週の指導・支援のテーマのようなことを書いてくれます。この記述を皆さんが大切にされているので、私もその学級・教室の授業中の子どもたちの様子を思い浮かべながら、返信を書くようにしています。そのやりとりの例もいくつか紹介させていただきます。

【特別支援学級 11月2週目】
(担任から)「無事」とは言えませんがいろいろなことがある中、なんとか運動会が終わり、担任としてほっとしています。〇〇さんは、途中保護者と一緒に来校し見学するという形での参加でしたが、全員が参加できたことをとてもうれしく思います。学校全体の教職員のみなさんが(特別支援学級)の子どものことをあたたかく見守ってくださったおかげで、運動会期間を終えることができました。有難うございました。
(校長から)運動会に向けてそして当日と(特別支援学級)の一人ひとりが、自分の目当てに向き合い、みんなと一緒に演技、競技に参加しようとその子の努力を続けていたことが「全員参加」と「運動会での一人ひとりの姿」につながりました。瞬間、瞬間を見極めての担任の先生方の支援のおかげです。本当に有難うございました。
【国際教室 4月最終週】
(担任から)国際担当として、1年生の補助や3年生の授業に入り込み、担任の先生と力を合わせて学級経営をしていくことも国際教室の子どものためになるのだなと感じています。学校全体で子どもたちを見ていきたいです。特別支援の視点が大切だと思います。よろしくお願いします。
(校長から)国際教室は勿論のこと、〇〇先生(※国際教室担当)の通学路から登校迎え入れ、教室への入り込み、休み時間、給食サポートなどの場面での子どもへのかかわりの全てが特別支援の配慮に満ちています。いつも子どもたちの学校生活を明るくしていただいて有難うございます。
【6年生 12月第1週目】
(担任から)修学旅行ではたくさんの(校長からの)話をありがとうございました。子どものふりかえりの中で、「校長先生の話がよく分かった」と言う子がいました。私も初めて知ったことばかりでした。水曜日に〇〇さん(※園芸の専門家・ゲストティチャー)と正門前花壇に植木の苗を植えます。先日の金曜日には職員玄関横のパンジーの苗を植えました。(※校長が育てていた苗なので)事後報告ですがいただきました。
(校長から)6年生と一緒に出かけた修学旅行、とても楽しかったです。子どもたちの表情が生き生きとしているのがうれしかったです。ここから卒業まで6年生の子どもみんなの学校生活を、それぞれのクラスと一緒につくっていきたいです。またよろしくお願いします。パンジーの苗、6年生に使ってもらえてうれしかったです。
【2年生 冬休み明け 1月2週目】
(担任から)2年生の子どもたちは、様々な体験、学習を通し、心も体も大きく成長したように思います。道徳のほめことばのプレゼントや生活科の友だちのすてきカード交換では、互いを認め大切にする心が育ったように思います。1月27日に助産師さんによる命の授業を行います。自分のことも友だちのことも大切にする心をさらに育てていきたいです。1月もよろしくお願いします。
(校長から)日々の学校生活や学年での学習で2年生の子ども一人ひとりが力をつけ、素直に活動する楽しさを味わっている成長が本当に有り難いです。ここからの年度末の活動でも、このような子どもの姿をまとめていってください。助産師さんの命の授業も2年生の子どもたちにとってはかけがえのない体験になっていきますね。とても楽しみです。ここまで有難うございました。

以上のようなやりとりを毎週、教員全員と行っています。これを続けていくことで、週案を仲立ちとして一人ひとりの先生とお話をしているような感覚になってきます。指導観や評価観を共有することにとても役立っているように思っています。

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※毎週、教員から提出される週案/写真提供尾上校長


校長たちは「全校児童の担任」という意識で子ども一人ひとりを真ん中に置いた「情報共有」

◯もう一つ、午前中の朝ミーティング(前編参照)にあったように、「誰一人取り残さない」をスローガンだけにしないための効果的・効率的な実践が学校に根付いているのも印象的でした。このあたりの仕掛けはどのような戦略で進めてこられたのでしょうか。

⚫️学校には、学級・学年の子どもを担任する業務にあたる教員と専科や少人数指導などの担当の教科指導を業務とする教員、そして事務職員、栄養士、技術員、調理員、図書館司書、理科支援員…などの専門職員と様々な職責の方が学校運営にあたっています。

この中で横浜市では全校配置となっている児童支援専任(※中学校の生徒指導専任)と養護教諭、教務主任、そして校長・副校長は全校児童の担任という意識をもって日々の一人ひとりの子どもの様子に注視して一日をスタートするようにしています。特に各学級の要配慮児童については、担任の教員と連携して日々の一人ひとりの状態を、その保護者や家庭の状況にまで思いを巡らせて情報共有するようにしています。

朝の早い段階に昨日あった出来事や対応をふり返り、子ども一人ひとりの状態を確認し合うことで、その日の子どもへの支援方法や家庭・保護者への連絡・連携の必要性が見えてきます。時には関係機関や市教委への連絡・支援依頼に踏み切ることもあります。

この子ども一人ひとりを真ん中に置いての「情報共有」と「チーム対応」の積み重ねが、学校で日常に起こる事故やトラブルの重篤化を防ぎ、子どもにとっては居心地の良い安心できる学校生活を保障することにつながっていると思っています。

「情報共有」=生命線ととらえています。


「教育」こそが子どもが健全に育つ社会を持続していくための唯一の営み

⚫私は、田中正造を尊敬しています。
「真の文明は山を荒さず、川を荒さず、村を破らず、人を殺さざるべし。」
まさしくこれこそ真理だと思っています。

大げさではなく、今の子どもたちが置かれている状況は地球規模で考えても、国レベルでも、一地域においても、ある意味危機的状況となっているように思えて仕方がありません。地球温暖化、子どもの貧困、少子化、高齢化…これらの危機を国連の定めるSDGsの目標実現を自分事としてとらえて教育の場で実践していかない限り、目の前の子どもたちにとっての持続可能な地域や国や地球ではなくなってしまう、そんな焦りが自分を動かす大きな原動力となっています。

「教育」こそが子どもが健全に育つ社会を持続していくための唯一の営みのような気さえしています。

田中正造翁は歴史上の偉人ですが、その精神を見習って、「子どもが幸せに育つ持続可能な学校や地域をつくっていきたい」と願って、校長を続けていこうとしています。

そんなことを漠然と考え始めた3年ほど前に出会った、秋田県大館市の高橋教育長の「ふるさとキャリア教育」を核とする教育長としての実践には心底勇気づけられました。それ以来、高橋教育長は私の精神的な支柱となっています。

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※2018年本プラットフォーム合宿にて高橋教育長とともに

◯先日、秋田県大館市にて行われた、第4回全国小学校キャリア教育研究協議会大館大会に、尾上校長も行かれたとお聞きしました。
その時、尾上校長が、「高橋スピリットに触れることは自分のアイデンティティを確認すること」とおっしゃっていたことがとても印象的です。

⚫高橋教育長とは、2018年秋に行われたこのプラットフォームの合宿で初めて知り合いました。
自分が自分の学校でやりたいと思っていたことを、行政区単位でやっている人がいた、というのは本当に衝撃でした。

大館市は、地域や社会がともに豊かになることで得られる「幸せ」を育む教育を実現しています。
例えば、それを支える「ふるさとキャリア教育」として、ひまわりの栽培、種の収穫から商品開発、ひまわり油の販売、その利益を教育活動に活かすなど徹底した体験学習を実施しています。
そうして身に付けた意欲や態度を普段の学習や生活につなげたり、さらにはそれを自分の未来や地域の未来につなげていくことを目指しているといいます。
授業も何度か見に行ってますが、一人たりとも置き去りにしない、どんな子どもの状態も意見も受け入れ、ともに「学び合う」授業を行っています。

(参考)秋田県大館市高橋教育長も登壇した、2019年本プラットフォーム総会の概要や資料はこちらから。


⚫大館市で、高橋教育長のような人が、あれだけのことをやっている、自分もまだまだできることがいっぱいあると気持ちが奮い立ちます。
この大館市高橋教育長の考えに出会ったとき、同志がいた…!と本当に嬉しくなり、勝手に師匠と呼ばせていただくことにしました。
一年に一度は会ってお互いの志を確認し合いたい、そんな尊敬すべき存在です。

◯高橋教育長も、尾上校長のことを「同志」と表現してらっしゃいました。

⚫いまも、大館市のふるさとキャリア教育とは、大館市立釈迦内小学校ヒマワリプロジェクトに、六浦小学校の子どもとの子ども同士の交流を通して関わらせていただいています。

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※6年生 総合 大館市立釈迦内小学校より届いたヒマワリの種を育てて交流を始める/写真提供 尾上校長


この子どもがどうすれば幸せに生きていけるだろうか

⚫私もこれまで、教員になって40年、校庭に里山を創ったり、色々なことにトライしてきました。
でも、なにより1番大切にしたいこと、1番忘れてはいけないと思っていることは、どうにかして、どうすれば、目の前にいる「この」子どもが幸せに生きていけるだろうか、と考えることです。
それを、ずっと考えています。

◯一人ひとり、まさに「この」子どもの「幸せ」、そして、その幸せをいまこの時だけでなく、子どもたち自身が自分で自分の未来を生きていけるように、そんな尾上校長の思いが込められていますね。

⚫2021年の流行語に、「親ガチャ」という言葉がありました。本当に悲しいことにその言葉が当てはまってしまう子どもが存在することも事実です。いろいろな子どもがいますから、学校や校長も、「学校ガチャ」「校長ガチャ」にならないようにしないといけないと強く思っています。

そして、だからこそ日々、子どもが笑っていられるように、幸せに、とにかく幸せに生きていけるように、もう本当にそれだけ、それだけを考えて校長をしています。

私が校長として現場を創っていくことができるのも残りわずかの期間です。
子どもたちが「幸せ」を感じながら育つことのできる学校づくりに向けて、できることは、とにかく何でもやろうと思っています。

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                          (完)

(編集後記)
途中の事務局の質問にも表現されていますが…尾上校長とは本プラットフォームで知り合って3年、何度かお会いしていましたが、「里山」の先生、という印象が強く、失礼ながら、ちょっと浮世離れした、仙人みたいな校長先生というイメージを持っていました。
しかし、この日学校にお伺いして、尾上校長の動きを追って、そのイメージはガラリと変わりました。

「自分は埋没して実践に取り組む」とおっしゃっていましたが、子どもの「幸せ」を何より考え、そのために何が必要か、何ができるのかを考え、子どもが学校から受け入れられている感覚を持てること、里山を始め圧倒的なリアルのなかで体験から学ぶことを大切にしておられると知り、浅はかな先入観をとても反省しました。

尾上校長が考える子どもの幸せとそれを実現する学校という場、そしてそのお考えや信念が学校での尾上校長のひとつひとつの行動に表現されていたんだなぁと知ったとき、すべてがつながった気がしました。

とても貴重な機会をいただき、本当にありがとうございました。



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