スクールロイヤー、結論型クレーマーへの対応をぶった斬る

クレーマー対応について、学校ならではの難しさと、それでもブレちゃいけないところ。そしてぶった斬るための3つのポイント

クレーム対応しまくって感じていること

実際の現場対応の中で自分なりにまとめたクレーマー対応について、書きたいことからつらつらと書いていく。

ちなみにクレーム対応については、少し大きな本屋に行けば、色々な本が出回っている。ここでは私なりの+αで気にしているポイントを書いているので、学校の先生はクレーマー対応について簡単な本でも一度読んで、対応の感覚をしっかり掴んでおいてほしい。

結論型クレーマーとはなんぞや

まずはクレーマーの定義をしておく。とりあえず今回は「自分の要望や結論を絶対に変えない」タイプのクレーマー(結論型クレーマー)の対応について触れておく。その人の望む内容じゃなければ、何時間説得しても不当だと言い続けるタイプのクレーマーだ。ちなみに他のクレーマーの話とか、総論的な話はまた気が向いたら。

学校は保護者の要望に応えられない一方で、保護者も学校側の方針や姿勢を全く受け入れないとき、学校はどう対応すべきか。

クレーム対応について、企業と学校の最大の違い

学校がクレーマー対応するときの最大の難しさは、ある件で保護者とどんなに喧嘩したり決裂しても、基本的に3-6年間付き合いを続けないといけないということだ。例えば飲食店なら、「こんな店二度とくるか!」と言われればそれっきりかもしれないが、学校はそうはいかない。どんなに保護者と折り合いが悪くても、在学する子どものために情報交換や(別の話題での)意見交換などは続くことになる。

まず、この特徴を意識しないと、相談を受ける弁護士も「そんな要望断ればいいんですよ」とさらっとアドバイスして終わらせてしまいがちなので気をつけないといけない。

結論型クレーマーは(無意識でも)ゴネ得を狙っている

学校のそんな特殊性から、また、純粋な人間性から、先生はみんな「なるべく仲良く保護者とやっていきたい」と願っている。ただ、先生たちも誤解しちゃいけないのは、どんな保護者とも必ず仲良くしないと、仕事ができないわけではないということだ。そして、仲良くしなくても職務を果たす方法というのも、先生は身につけておいておかないといけない。

基本的に結論型クレーマーは、経験的に、あるいは無意識に、納得しない!不当だ!とワーワー同じことを言ってれば、相手が折れて、要求を呑んでくれることが多いことを知っている。いわゆるゴネとかを狙っているのだ。

ゴネられると弱い先生たち

保護者となるべく仲良くしたい思いがある中で、「自分の要求を聞けば私は仲良くする」とゴネられてしまうと、先生はついつい、多少不当でも「自分が少し頑張れば、我慢すれば…」と思いがちだ。

しかし、一度小さな要求を飲んでしまうと、更なる要求が出され、気がつけば支配的な関係だったり、その保護者にとって都合の良い謎の優遇ルールが出来たりする。私が着任したてのころ、状況確認の中でそういう謎優遇のケースは何件かあった(全部バッサリ切りに行ったが)。一度断るチャンスを逃すと、次に断るのはさらに難しくなる。そして最初に断る勇気が持てなければなおさら次の要求は断りづらい。

無理を通せば道理が引っ込むというが、学校側の道理を一度引っ込めば、キリのない無理な要求や職務と関係ない色々なことを押し付けられ、気がつけば過剰な負担を負うことになる。

最近は先生の長時間労働が問題となっているが、国や教育委員会、管理職と言った管理側が無駄な業務を削ったり効率化を図るのとは別に、無駄な業務を増やさない工夫や努力は、現場の先生にも求められる。保護者対応に追われて、、という現場の悲鳴を聞くけれども、それが果たして答えるべき要望かどうかの整理や区分を、先生たちができているのか、疑問を抱く時もある。少なくとも、「保護者は神様」ではないのだ。

結論型クレーマーの対応のしかた

学校側がAという方針を取り、保護者側がBという要望を出す。そしてAとBは同時に行うことはできず、学校はAがBより適切と考え、保護者は絶対にBをしないと納得しないという。

このような膠着状態が確定したのなら、学校が取るべき方針はただ一つ、「BよりAだと学校の見解をしっかり伝え、きちんと交渉を決裂して終わらせる」だけだ。

こうして書くと、「おいおい、さっき保護者とは3〜6年付き合いが続くって書いていたじゃないか。そんなことして大丈夫なのか」と思うかもしれない。

ここで気をつけて欲しいのは、交渉の決裂の仕方というのもいくつかやり方があるということだ。

私が学校に保護者の要望を断る場合、次のポイントを守って対応するように指示している。

①学校は、AかBかについて先生達で話し合い、個人の意見ではなく、学校全体でどちらが正しいか結論を出す。できたら教育委員会にもこの姿勢でいくことに問題がないか事前に確認はしておく。
②何故要望と異なる結論をとるのか、その理由は保護者にしっかり漏れなく伝える
③学校は、保護者の理解や納得が得られなくても、学校が出した結論通りに、できることはしっかりやり続ける。

ブレない下地作り

①は、交渉決裂に向けてブレない対応をする下地として必要なものだ。結論型クレーマーの対応を、学級担任や校長が個人の判断でしていると、結論型クレーマーは決定者への説得にかかり、結論を変えさせようとする。

これに対して、「先生全員で議論して決めた。もうこの結論は校長であっても個人では変えられないし、学校としてもこの結論はもう変えない」と答えられる形にしておくことで、そのような働きかけを事前に防ぐことができる。そのための①であり、これをサボると校長などが集中攻撃に会うので要注意だ。

また、何よりその中でしっかり議論をして、知恵を出し合い、学校が取るべき一番適切な選択肢を導くことが、学校が一丸となって対応する上でとても大切なプロセスといえる。

時々、声の大きな先生につられて、議論がしにくいまま、形だけの話し合いがされて終わってしまうことがある。しかしそうすると保護者にぎりぎり詰められた時に、「私はこの学校方針に反対なんですよね…」とポロッと本音が出てしまう先生が現れ、つけこまれかねない。これはその先生が問題というより不十分な議論で終わらせたのが問題だ。管理職には是非、形式的でなく、しっかりと自由で活発な議論をさせて、みんなに納得してもらえるように工夫しながら方針を固めてほしい。

正しい決裂の仕方

②は、交渉決裂のプロセスとして必要なことだ。ここがまず、単にバッサリ切ればいいという回答と違うところでもある。②で気をつけて欲しいのは、しっかり伝える、というのが「相手を納得させる」のではなく、「伝えたい内容を理解させる」ということだ。「言いたいことはわかったが、納得はしない」と言ってくれれば話し合いは決裂ということで終わることになる。あとは何を言われても(一言一句)同じ説明を繰り返せば、「学校には何を言っても無駄ですね」と言われて終わる。場合よっては呪詛の言葉や罵倒の言葉もついてくるが、「それでも私たちはこの対応が正しいと思っています」と胸を張って答えてほしい。そこで自信なさそうにすれば漬け込まれるし、胸を張れば対応は終わる。

ちなみに私は②の際、しっかり理由を紙に書いて保護者に渡した方がいいと助言をしている。こう言うと、「そんなことをしたら誰かに見せるのではないか、裁判などで使われるのではないか」と不安になるかもしれないが、「誰に対してもAを選んだことは正しいと胸を張って言えるだけの理由をしっかり準備してください。それができなければ、それだけの説明ができる選択肢はなんなのか、もう一度考えてください。」と伝えている。ここの理由をどれだけしっかり作れ、きちんと形に残すかが、その後の保護者との関係性にも影響を与えるので、是非丁寧に検討しほしい。

決裂後は粛々とやるべきことをやる

このように意見が決裂し、方針について議論が終わったからといって「やれやれ終わった」と気を抜いてはいけない。保護者は納得していないし、その後の学校の動きは必ずみられてると思った方がいい。

BよりAが適切だと判断したなら、学校はBをしなくて良いことになるが、何もしなくて良くなったわけではけしてない。Aが適切だと思ったのならAをしっかりやり切らないといけない。

ここで、「保護者はAでやることについて納得はしてませんよ?」と言われることがあるが、保護者の協力が必要ない範囲で学校は責任を持ってやるべきだ。学校は良くも悪くも保護者の指示に従わないといけない立場にない。子どもたちのために自ら適切だと思う教育指導を、誰に言われることがなくても日々実践しなければいけない。

決裂後どうなるのか

まず、①、②をしっかりやると、学校はAだと決めてブレないなと分かった時点から、学校へのクレームの頻度はガクンと減る。それだけで学校はかなり対応が楽になる。

そのあと、教育委員会にクレームを入れたり、弁護士に相談をすることもあるが、実はそのままこのAかBか論争はうやむやに終わることも多い。そして、ほとぼりが覚めたころに全く別の話題で保護者から連絡が来たり、学校から連絡をするタイミングがある。そのときに「クレームを出していた話題」を保護者側から出なくなれば、対応は完了となる。あとはそのときに学校は、その話題には触れず、全く何事もなかったかのように、笑顔で対応を続ければばよい。

結論型クレーマーが「学校にはこのことを話しても無駄だ」という考えから、さらに踏み込んで「やっぱりAが正しかった」と思ってもらうために、③が大事だ。学校は自ら選択したAの方針がいい成果が出せるよう、しゃかりきに頑張ることになる。そして、それによって子どもがいい方向に進んでいけば、結論型クレーマーも「学校の言ってたことは正しかったな」と少しずつわかってくれる。これは議論ではなく行動で見せるから伝わるものだ。

そして、そこまでいけば、謝罪の言葉はなくても、あるとき「お世話になっています」と言ってもらえる時が来る。こうして結論型クレーマーも、最後は学校の良き理解者の1人となってくれるのだ。

大前提は、Aの方がBより適切だと言うこと

この対応の大前提は、保護者の提案に反論する学校の方針が、専門的にみて、より適切であったり、合理的である必要がある。繰り返しになるが①、②でそれだけの立論ができるかが鍵となる。

私の場合、②は紙で答えると書いたが、この立論をしっかりして確実に伝えると、結論型クレーマーには響かなくても、結論型クレーマーから相談を受けた周囲の人が学校側の味方になってくれる。保護者に口頭で伝えると、保護者が相談を受けた人には、保護者の説明することしか伝わらない。紙のメリットは、保護者に伝えた学校の見解が、間違いなく相談者にも伝わることだ。

私が関わったケースは紙で答えさせてるが、実際あったケースで、「こんなに学校にやってもらってて、これ以上何を望むんですか?」と保護者から相談を受けて、学校からの回答書を読んだ弁護士が言ってくれたケースもある(と言われた、という話をクレームを出していた保護者側から後日談で聞きました)。

目の前や保護者は納得してくれないけれど、きっと子どものためにもこれが正しいはずだ。そう思えるものが学校にあるのならば、クレーマーに屈せず、真正面からぶつかってほしい。それがプロとして求められている矜持だとも私は思います。


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