スクールロイヤー、令和元年度のいじめ認知件数を眺める。

文字通り桁違いに少なすぎるいじめ認知と、報告の際のフィルタリングがよくわからないなって話

問題行動等調査なるもの

ここんところは毎年、イジメノニンチケンスウガーと10、11月頃にニュースが出るのだけど、これは国がいじめに限らず、暴力行為や長期欠席の状況調査を全国の学校を対象に実施していて(めちゃくちゃめんどくさい)、その集計結果がこのあたりに発表されるからだ。

そして、この調査のことを問題行動等調査といい、ネットで検索すれば過去分も含めて文部科学省あたりで閲覧ができる。

令和元年度のいじめの認知件数を読んでみる

さて、ここで一つ質問がある。

自身が小、中学校の頃,友達と遊んでいる時や授業中、言われたりやられて嫌だったこと、というのは一年間で何回くらいあっただろうか?

それは嫌なあだ名で呼ばれたとか、誤解されてしまって嫌な気分になったとか、どんなに些細なことでもいい。

この質問に対しては多分、一年間に数回、あるいは数十回という人が多いだろうし、はたまた毎日嫌なことばかりで数百回はあった、という人もいるかもしれない。そしておそらく9年間そんなことは一度もなかったと言う人はほとんどいないだろう。(万が一いたとしたら、小中9年間で何回くらいか考えて、それを1/9倍してくれてもいい。)

では、今出してもらった〝その数〟について、国の調査上結果はなんと言っているか。

大体〝0.047〟だというのだ。

言い方を変えれば、1000人いたら、大体953人は友達と過ごして少しも嫌なことを感じず、1年間を過ごせているというのだ。

そんなことは現実にあるのだろうか。

私の感覚ではこの数値は絶対おかしいと思うし、学校現場で聞いても、せめて1000人いたら1年間で5000回は超えるだろう、とコメントをいただいたりしている。

少しでも嫌だなと感じたら法律上のいじめ

いじめという概念を取っ払って考えないといけないと研修でも良くいうのだけど、法律上のいじめというのは定義がめちゃくちゃ広い。

定義にはいろいろな説明があるけれども、私は〝少しでも〟嫌だと思ったらいじめ、と言っている。過去の記事でも書いてきたように、一般的な感覚とこの定義に大きな開きかあることは、法律が定められた当初からわかっていたことだし、その点議論をするつもりは私はない。ただ、今の法制度上のいじめは、概ねこのように定義されているのは紛れもない事実だし、問題行動等調査では、基本的にこの数を報告するようにと指示を出されているのは確かだ。

〝0.047〟という数値は何を示すのか

では、この〝0.047〟という数字が持つ意味はなんだろう。〝1000人子どもがいたら、1年間で47人くらいは◯◯されている〟としたとき、この◯◯に何がはいるのだろう。

もし◯◯に入るのが,社会通念上のいじめだとしたら悲劇的すぎるし、先程の通り、法律上のいじめにしては少なすぎる。

1000人規模の学校があったら、平均して47人も(いわゆる)いじめに遭っている、なんていったら日本の教育現場はかなり絶望的だ。また、いじめの感度が上がった(正確には、法律上のいじめの正確なイメージが広まってきた)という分析がされていることから、◯◯に入るのが、社会通念上のいじめということはやはりないだろう。

ただ、◯◯が法律上のいじめというには、やはり圧倒的に数が少なすぎる。

個人的には、結局各学校によって◯◯に入る内容がてんでバラバラで、調査らしい調査結果がとれていないのでは?と思う。

いじめ認知に関する理解度は、全国で天と地ほどバラバラで、上の方を見たとしても、正確に理解し、かつ、正確な調査報告をあげている学校は全国どこをみてもおそらく存在しないんじゃなかろうか、というのが率直なところだ。

ともすれば,こんな調査結果何に役にたつんだ?とも思えてならない。

調査報告に反映されないいじめ認知

とまぁ、こんな偉そうなことを言ってると、せきねの自治体はどうなんだ、と言われそうだけど、正直言って、自分の働いている自治体の報告の認知件数も残念ながら少ない。

この状況は、いじめ対応の担当としてやはり悔しいものはあるのだけど、現場が認知の感度が低く、法律上のいじめ事案に対処していないのかというと、けしてそんなわけではないとも言いたい。明らかに現場の感度は上がっているし、対応は改善されている。

では、感度が上昇したのに報告件数がなぜ上がらないのかと言われれば、現場の中で法律上のいじめ認知の実態と、報告件数にズレがあるとしか言いようがない。そして、このズレの原因については、正確な分析はしていないけど、感覚的に1番しっくり来るのは、ぶっちゃけ、国への調査報告がめちゃくちゃめんどくさいからではないかと思う。

こんな細々報告を求められるのは、さぞかし重大なものなのだろう、まさかこれくらいの瑣末な事案は報告するものではないだろう、と言った感じがあるんだと思う。

仕事だからサボるなよ!といわれそうだけど、1年間で5000件は余裕に超えるのではというものについて、1から全てまとめて集計し、分類し、報告する負担たるや、ぞっとするものがある。また、国がそんなものを知ってどうするんだ?という単純な思いもあるのだろう。

とはいえ、こんな実態からかけ離れた調査で色々評価されても、余計妙な誤解が広がるだけだとも思っていて、そこに対する危機感は個人的に拭えずにいる。

この大いなる負担を現場が覚悟し、自分と足並みを揃えてくれたらだけど、報告件数をひとまず100倍くらいにして、文部科学省にもよくよくこの調査の在り方について考え直して欲しいなというのが、個人的なちょっとした野望だったりはする。文部科学省よ!調査をもう少し楽にしておくれぃ!

たんなる集計に何の意味があるかとか思ってしまうけど

そんなわけで問題行動等調査に対する愚痴に着地してしまったけれど、実態としてもし、法律上のいじめを正確に理解した上で、一件もありません!と言う学校があるとすれば、それは、生徒が1人しかいない学校か、生徒全員が誰とも関わりを持たない学校のどちらかだろう。〝0.047〟が実態なら、そんな教育現場を私はけして肯定的には捉えられない。

だから、この非常に居心地の悪い〝0.047〟という数値から、少なくとも自分の自治体は大きく脱して行きたいと思う。また、それが全国のいじめ対応に何か一石を投じられるならチャレンジする価値は十分あるだろうとも思っている。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?