スクールロイヤー、教育現場の事実確認の下手さに愕然とする。

事実確認の下手くそな学校現場にカルチャーショックを受けた話。

事実確認の手法というのが研究されていることを知らない先生たち

スクールロイヤーとしての仕事を始めた当初、本当に1番びっくりしたのは、「先生たちって事実確認手法しらないの??というかそういった研修事態、教職員になる過程で存在してないの??」ということだった。

そもそも事実確認に専門的な技法があること自体ご存知かしら?今回はその辺りのお話。

コミュニケーションの能力と聞き取りの能力は別物

いじめの調査とかで学校の先生に事実確認をお願いした後、「うまくいきました!」と報告を受け内容確認すると、事実確認としては不十分だったり、不適切だったりすることがままある。

当初、なんでこんな聞き取り結果に対して、上手くいったと評価するのだろう?と疑問だったのだけど、どうやら、コミュニケーションがスムーズにいったことを「うまくいった」と言っていることが多いようだ。

ただ、ハッキリ伝えたいのは、相手を不快にさせなかったり、楽しませたり、テンポよく会話が続くための能力と、話し手に、その記憶に基づいた話を正確に話させる能力というのは全く別物である。

そして、テンポが良ければ正確に事実確認ができているわけではない。むしろ、テンポよく会話のキャッチボールができるほど、事実確認の正確性は失われるリスクさえ感じる。

行間を読むアプローチと、記憶通りに話させるアプローチは水と油の関係

テンポよく会話するのにも、色々な手法があるのだろうけれど、一つは「行間を読んであげる」ことだろう。

特に子どもとのやりとりでは大切で、たどたどしい表現だったり、言葉にできない部分の意図を汲んであげて理解を示したり翻訳してあげる能力というのは、学校で子どもたちと信頼関係を築く上でもきっと有効で重要だろう。ベテランの先生ほど、このあたりを埋めるセンスや勘みたいなのは培われているのだと思う。これは子どもたちと日常生活の中でやりたりする上ではとても大切な能力だと思う。

ただ、行間を埋める、というのは、本人の記憶や意思を第三者が予測し上書きするということでもある。記憶を第三者が予測して上書きするのだから、(キツイ言い方かもしれないけど)これは記憶に基づいた話を正確に聞き取る手法としては、不適切としか言いようがない。そして、これは記憶を上書きしない聞き取り手法とは両立し得ない手法といえる。

最低限知ってて欲しい、記憶を汚染しづらい聞き取り方の一つ。

聞き取り手法について比較考察すると膨大なレポートになるので省略するけれど、ひとまず、学校現場でも実践しやすい、記憶を汚染しづらい発問方法を一つだけ紹介。

それは、

「AからBの間のこと全部教えて」

を繰り返して聞き取りたい場面にフォーカスを当てていく、という手法です。

具体的にはこんな感じ。以下は、放課後、公園で喧嘩をしたらしい○と△の様子を知っていそうな子に聞き取りを実施する場面を想定しています。

Q昨日、学校の授業が終わってから、家に帰るまでの間のことで覚えていることを全部教えてください
A 校門を出て、公園で友達と遊んで、家に帰った。

Q公園についてから、公園を出るまでのことで覚えていることを全部教えてください
A○や△と鬼ごっこをして、5時ごろに帰った。

Q鬼ごっこが終わってから、公園を出るまでのことで覚えていることを全部教えてください
Aそういえば、○と△が何か喧嘩してた気がする

Q○と△が喧嘩してたような様子のことについて、覚えていることを全部教えてください
A○と△がトイレのあたりにいたんだけど…(続く)

例を出すと「なんだそんなことでいいのか」と思うかもしれないけど、ぜひ普段の会話だったり、何か経緯を確認する時に自分がどういう発問をしているかは振り返って欲しい。多分こういった質問をしている人は極めて少ないはずだ。

記憶の汚染の恐ろしさを知っておいて

上記のような聞き取り手法というのは、子ども自身の記憶の不確かさの研究と合わせて、性被害の聞き取りなどで特に慎重に吟味、研究されている。(そのあたりは〝司法面接技法〟といったワードで検索すると出てきたりするので、興味が湧いたら調べてみて欲しい。もっと細かいルールややり方が沢山ある。)

子どもたちは大人以上に、聞いた話と見た話の区別がつけられず、言われたことを自分が経験したこととして認識してしまう危険性も高い。そういった繊細なものから慎重に情報を抽出するのだという意識は学校の先生にも(さらには親にも)しっかり持って欲しいと思う。

記憶を一度汚染すると、元に戻すのが難しい(そもそも話している内容が、汚染した結果かどうかの区別がつかない)。子ども同士のトラブルで聞き取りを間違えると、絶対にやられた、絶対にやっていないと子どもの言い分が180度違うのに、両者もさらさら嘘をついている気がない、という事態が最悪の場合発生する。そうするとお互いが不信感を抱く形で指導も謝罪もままならない状況となり、学校対応が非常に難しくなる。

実態的な指導は丁寧な事実確認があってこそ。上の発問だけで汚染のリスクや、記憶に反したことを話してしまうリスクが全てなくなるわけではないけれど、日常的なやり取りに比べたら汚染のリスクは下げられる。普段の会話と聞き取りではしっかり頭の中を切り替えて、〝適切な〟事実確認を実践して欲しいなと思います。

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