学校に変化を生み出すのは誰なのか
明けましておめでとうございます。cokowill代表の寒川です。
昨年はたくさんの方々との出会いをいただきありがとうございました。
今年もまた、皆さんとともに過ごしていけることを楽しみにしております。
よろしくお願いいたします!
さて、2020年最初の投稿となるnoteは昨年の10月6日に開催したイベントの内容です。亀の歩みではありますが、このイベントの肝であったプログラムは2020年のcokowillが大事にしていくテーマでもありますので、書きたいと思います。
10月6日に新しい学びをどう取り組み、広げるのか?〜チームとしての学校の在り方〜というテーマで、チームとしての学校、チームづくりについて考える場をつくらせていただきました。参加してくださったみなさんも、参加したかったけれどできなかったというみなさんにも届くと嬉しいです。
<プログラム1>
・現役の先生による新しい学びの取り組みと学校というチームについて
ドルトン東京学園教員 伊東佳奈美さん
公立小学校教員 二川佳祐さん
・チームへの自分の視点を認識する(NVCのワーク)
<プログラム2>←今回はここについて書きます!
・チームとしての学校になるために必要なことは?
かえつ有明中・高等学校 副教頭 佐野和之さん
東京大学大学院 教育学研究科
学校教育高度化専攻教職開発コース金井達亮さん
オーセンティックワークス株式会社
代表取締役 中土井僚さん(「U理論」共著者)
<プログラム3>
・真の変化を創り出すための「システム思考ワークショップ」
ファシリテーター:福谷 彰鴻さん
プログラム2は学校に変化を創り出した実践者としてかえつ有明の佐野さんと金井さん(現在は東京大学の大学院で研究を行われています)にお話をいただきました。さらに、ここでは企業の組織開発や人材開発に取り組まれ、U理論シリーズの著者である中土井さんにも加わっていただき、佐野さん・金井さんがされてきた取り組みや、その取り組みの結果生まれた成果や出来事を理論から解説していただきました。(みなさんのプロフィールは当日のイベントページに記載しているものをご確認ください➡︎https://mirainootona20191006.peatix.com/)
とても正直にご自身のことをお話くださった佐野さん、金井さん。今回のnoteでは要約ではなく、実際の会話の一部を記していきたいと思います。
頭を殴られるぐらいの衝撃を受けたことでの変化
佐野さん:教員になったときは自分がよくできる人間だと恥ずかしながら思っていたところがあって、進学校として偏差値の高い学校へ何人行かせられるかという視点で仕事をしていました。ある日、後輩である金井を含めた数人に飲みにさそわれて、楽しいお酒かと思いきや、「教育に真摯に向き合っていない!お前はなにしてるんだ!」くらいの話をされんです。そこで、自分がどんな風に見られていたのかを知って、強い衝撃を受けました。
そこからは、ちゃんと教育に向き合おうと思って、学び直しに色々な場所へ出かけました。学びの場に行くようになると初めてなのでわからないことばかりで恥ずかしいという感情も持ったけれど、様々な場に通うことで教育に関する知見が広がりました。
わからないことがわかってきた時に起こした失敗
佐野さん:様々な場所に学びに行った結果、学校の中で新しいことを取り組もう!と思い、10年前くらいからアクティブラーニングをスタート。詰め込みの授業で元気を失っていた学生が、アクティブラーニングの授業によって元気になっていくのを見て、「いいことをしている!」という実感もあり天狗になっていました。一方で、学校にいる先輩の先生方は学校がつくられてから今に到るまでを支えてきた方々で、成功体験も含め、その先生方なりの大事にしたいことをもっていました。そのため、お互いのやり方や考え方の違いが分断を生みました。
そして、ある時から、直接言われたわけではないけれど、自分へ向けられた厳しい言葉が届くようになったり、生徒たちも新しいことをやる先生と、今までのやり方を大事にする先生に挟まれて困ってしまうという状況に。
結果、学校の雰囲気がどんどん悪くなっていったのです。
<一人ひとりが一生懸命だからこそ分断がうまれる>
中土井さん:佐野さんの変革の勢いに抵抗してしまう先生がいる感じもわかる。先生は生徒とむきあっているからこそ、自分の無力感と常に向き合わなければいけない職業なのではないかな。自分の中で精一杯やっているのに、さらにその先にチャレンジしようとする佐野さんは脅威だっただろうと思う。それぞれの先生が何かしら無力感や痛みをずっと抱えていて、自分がこれだけやっても無力で生徒の役に本当に立っているとは思えないと目を背けていたいとおもっているときに、太陽のように活躍をしていると目をそむけたくなるものです。
<状況をなんとかしたくて、一歩踏み出してみたけれど・・・>
佐野さん:先生同士が分断して、生徒たちが困ってしまうような状況は自分が創りたい世界ではないと感じていました。
自分自身も教室は生徒が話してくれるので安全だけれど、職員室にいることがだんだんと怖くなってしまいました。
ある時、このままでは良くないと思って、全職員が集まる場で腹をくくって前に出て行って、こんな状態は嫌だという話をしました。でもそれをつくったのは僕です。本当にごめんなさい。といって泣きながら話をしました。最初、新しい学びとしてのアクティブラーニングを始めたときには、自分が活き活きと取り組めていれば、他の先生も刺激を受けてやるようになる、先生自身も元気になるという勝手な思い込みで突っ走っていたんです。それぞれに家庭の事情があったり、辛い状況を抱えていたり、やりたくてもできない人もいるというところに意識がなく「先生だったらやろうよ!生徒のために!」と思っていました。自分が正しいことをやっているはずなのに、なぜうまく行かないのだろうと、自分の気持ちがぐちゃぐちゃになったときに初めて、自分の中に他の先生の背景や事情を無視している自分がいたんじゃないかなと気づいて、ごめんなさいという言葉になりました。
3週間前くらいから、先生方の前で言おうと思ってはいたけれど、決意をしたその1分後には言ったらきっと馬鹿だと思われる、でも今のままは良くないから、やらなきゃ・・・と気持ちが行ったり来たりしていました。
だから、全員の先生の前で話をした後に、すぐには顔を見ることは怖くてできなかったです。でもその後に「よくやった。やろうぜ!」とたくさんの先生が言ってくれて、学校の中のエネルギーがかわりました。しかし残念ながら、3か月くらいは続いたけれど、その後長くはつづかなかったのです。
新しいとりくみを継続していくために必要なこと
佐野さん:今思えば、みんなの心が動いた後に、具体的にどうやっていくのか?どう継続していくのかという部分のデザインがわかっていなかった。集団はどうやって変容が起こるのかということを学ぶ必要があると気づきました。
僕が勇気をだして開示して、みんなに響き渡ったものがあって、みんなでやっていこうという雰囲気になって個々人では動いてくれていたし、教員同士の雰囲気も良くなってはいたけれど、そこで全体で生み出していく「何か」が具体的に見えてこなかった。だから新しいことを試して見たけれど、嫌なことがおきたりして消極的になる先生が出始めていくうちに、なんとなく全体がそれまでと同じ日常にもどってしまったんです。
<具体的な「何か」を紡ぎ出すのは何なのか?>
中土井さん:ここで大事だったのは、学習する組織というピーターセンゲさんが提唱している3つの柱。
1つ目は志の育成、2つ目は対話(内省的な会話の展開)、3つ目はシステム思考(複雑性の理解)。そして、学習する組織のコンセプトをどうやって実現するのかという一つがU理論です。構造に組み込まれていると変化は創り出しにくい。では、構造がどうやってかわっていくか?というと、人の内面が変化していくことであり、人の内面の変化が必要であるとしているのがU理論。例えば消費税が増えて家計が苦しくなるというのは構造に組み込まれているから。お金が苦しくなると夫婦間のお金にまつわることがややこしくなるみたいなのも、このような構造の中でおきやすくなっている。
ですから、佐野さんたちの取り組みはみんなに火をつけたというのはできたが、対話によって内面の変化が起こり、構造をかえていくということができなかったことが継続しなかった要因なのです。
⬆︎左が意識、右が行動変容のカーブ。
<対話って?>
佐野さん:でも、当時、対話というのがよくわかっていなかったんです。対話という言葉は知っていても、先生という立場にたってしまうと方向付けをもって生徒と会話をしている。相談に来る生徒にたいして、答えが浮かんだ状態で話を聞いて「こうやればいいんじゃない?いつまでやる?」といって、それをなんとなく対話ぽく思ってて。2週間して「どう?」と聞いてやっていないと「自分で決めたんだよね?」とやわらかい感じで責めていました。
だから、対話を知るために、対話の場を作っている人に出会い、見にいきました。最初はチェックインして、ぼそぼそしゃべっては黙って・・・ということをやっているのをみて何をしているんだろうと思いました。輪に入ってみる?と言われて入ったものの最初は慣れない感じで。でも、触れていくうちに心地よくなってきた。相手に聴いてもらっている、受け取ってもらっているということを感じるように。誰にも言えなかったこととかも受け取ってもらえて、安心感が生まれるように。こういうのが大事なんだというのを体感的に学びました。
<たくさんの失敗と学びがあっての今>
佐野さん:このような感じで過ごしている中で、今の学校とのご縁がありました。新しい対話を中心としたクラスをつくりたいという学校の要望があって、準備の段階から入っていきました。(現在は副教頭をされている佐野さんですが、当時は役職などが特につくこともなく一人の教員として学校に入っています)プロジェクトメンバーが10人いましたが、大きな方針が決まっているからといっていきなり仲良くなれるわけではありませんでした。
そこで、過去の経験と学びから、自分だけで頑張るのではなく、一緒にやる仲間との関係をつくることが大事だと考え、OKが出るかわからなかったけれど合宿をさせてほしいと提案をしたら「いいよ」といってもらえて10人で合宿をしました。そして、その合宿のプロセスがUプロセスになるようなデザインにしました。ペアで自分たちを知るところから初めて、10人全体での対話へ。ちょっとずつ話しながら互いに思っていることあるよね?気になるところをちょっとずつでいいから出してみない?ということで対話を進めていきました。
金井さん:合宿での僕自身のエピソードを話します。対話的に進める授業を中心としていたら、ある先生からクレームがくるようになって。いつも眉間にしわを寄せて話しかけにくるのが毎回嫌で1ヵ月くらい続いて嫌だった。自分自身が、嫌だな、という顔をして相手の話を聞いていたと思います。でも、嫌だなと思う人を排除して新しい世界をつくりたいということではなくて、その人と面白い授業をつくりたい、仲良くしたいという気持ちがあった。それを合宿の時に、「嫌だった」ということ、「でも本当は一緒に楽しくやりたいとおもう気持ちがあってそうなっていた」ということを伝えました。するとその先生は、「先に学校に移動してきていて、思いを持って新しい取り組みを色々と試してみようとしていたがうまくいかず、自分が排除された気持ちになっていた」ということを話してくれたんです。だから、話すときに警戒した感じで話しかけていたというのを明かしてくれて。「じゃあ、そういう二人で新しくやれることって何ですかね?」といって、一緒に授業をつくり、一緒にやるようになりました。
佐野さん:こんな感じで、1日目は対話を進めることでお互いにわかり合える部分が出てきて、それぞれに事情があるということもわかった。2日目は自分たちの”今”をいったん横において30年後に学校に遊びにきた時に、学校がどういうのだったらいい?という話をみんなでしました。30年後から時間軸を今に近づけてきて「明日こういうことやりたいよね!」となったときに、「なんで今それができていないのだろうね?何がとめてるの?」という話をみんなでしました。最初は学校のシステムが・・などの話もあったが、最後はいやいや、自分たちが勇気がないだけだ・・となりました。
合宿を開けて次の日、学校では先生同士がお互いにさぐりあわなくなっていったので、何を話をしても大丈夫だということになり、自分たちが創りたい未来へ今この瞬間から創り出していこうと、進んでいけるようになりました。
対話型の学校、対話型のクラスづくりに必要なのは「HOW」ではない
佐野さん:対話型の取り組みをしているというと「HOW」を聞かれます。学校では対話の手法としてNVCを学び、日々のコミュニケーションとして使っています。でも、これはNVCという手法を使えば良いということではなく、先生という一個人という人が悩んでいることにどれだけむきあってきたかが鍵だったと思っています。先生同士が向き合って、それぞれの先生が根本に持つ、生徒の役に立ちたいという願い、ニーズをひとつひとつ大事にして、対話をしながら一緒にどうやったらできるかを考えてやって行く。その結果、対話型の学校がで少しずつできていって、仕掛けていくものではないという感じがします。
対学生に向けても、クラス運営のやり方の感覚を変えなければならないというような話が多いと感じますが、クラス運営の仕方をどうすればうまくいくかという話ではなく、対話型の文化が学校全体にどうひろがっていくのかということと向き合った結果でしかない。
無自覚にコントロールしたり、自分が良いと思っているほうにひっぱろうとしたりしてしまうことに対して、「本当にそれが正しいかはわからないぞ」という視点に立って、周囲からフィードバックしてもらいながら、無自覚な自分の視点に気づいて対話を続けていくこと。学校の中にこういうものがひろがっていくというのは、先生同士の関係性の深化、対話的になれるかどうかが全体に影響していると感じています。
⬆︎佐野さんの話を聞きながらまとめる中土井さん
このような感じで、話が進む中、最後に中土井さんが大事な部分に触れてくださいました。
これはヒーローの物語ではない
中土井さん:今日の話を聞いて、佐野さんだから出来たと思うかもしれないし、佐野さんみたいな人が自分の学校にもいてくれたらいいよね、と思ったかもしれないけれど、彼がどれだけ苦悩してきているか、前進しようとするときの痛みをみずに、今の素晴らしい結果だけを見ないでほしいと思います。佐野さんもそんな風に見て欲しいとは思っていないはず。決して平坦な道ではなかったし、彼が絶望してもうダメだと思っている場面は何度もある。特別な人なのではなくて、佐野さんは自分に嘘がつけなかったから、地道に自分とも周りの人とも向き合い続け、仲間をつくりながら、学びながら前に進み続けた、ということです。一般的な企業と異なって、自治体・教育・医療は想いがベースとなっていることが多いので、どうやってやるのかというやり方の話をするとまとまらないこともあります。でも、学校の場合は、生徒に対する思いと、自分の痛みをきいてもらっていないという先生の孤軍奮闘感に寄り添おうと思ったら、何をしたらいいのか?ということは自ずと見えてきて、繋がっていくのではないでしょうか。
この後は、質疑応答となり、様々な質問が出ました。
その中でも、一人ひとりの先生がその変化をつくる起点になることができるということに繋がるお話で、その場にいた全員の先生に響き渡っていたように見えた内容を最後に載せておきます。
質問:「私立ではなく、公立という、異動などの構造の違いがある場所ではどう向き合っていけば良いのか?」
中土井さん:その質問にある背景に痛みを感じるところがあります。本当によりよくしたいと思っても分断されたり入れ替わっていくという痛み。ある意味、積み木崩しや砂漠に水を撒くという感覚があるのだろうと思うのですが、その思いを話せる先生を一番近くにつくるということです。そういう思いを少しずつなげていくしかない。残念ながら構造の影響は大きい。なのでシステム思考で見ることが大事ですが、人の入れ替わりというシステムの影響は大きいのもまた事実です。私立という構造が変革の下支えを大いにしていると思います。だから、公立として異動があったりする状況の中で、これさえあればうまくいくというのはなくて、揺り戻しや積み木崩しのほうが大きい中で、そこにある願いをとにかく話をするという風にしかできないのではないか?と直感的に思うことです。
でも、そのことに関して諦めることが普通なのかもしれないが、諦めずに学びに来られていて、質問をされているということに可能性を感じています。その可能性の矛先に進んでいってほしいです。佐野さんも自分に”うそ”をつけなかっただけ。そこに進んでいくことが大事です。
この日のイベントとしては、このお話でプログラム2が閉じられました。プログラム3についてはこちらをご覧ください。
チームとしての学校づくりへむけて
最後に。私たちがなぜこのようなテーマでイベントを開催しているのかということに触れたいと思います。昨今、教育を取り巻く環境の変化が起きています。入試改革の変更があがりながら見送りになったり、働き方改革が求められたり、学習指導要領の改訂が行われたり。その中で先生方は日々たくさんのことを抱えながら、それでもなお、子どもたちに向き合ってくださっています。そんな先生方とお話をすると、思いや志を持つ先生ほど学校の中で孤軍奮闘しながら頑張られているという現実を知ることになるのです。
新たな教育や学校のあり方に向けて変化を遂げられている学校の取り組みが届く一方で、それはその人が権限を持つ立場だったからできたのではないか・・・という気持ちを持ってしまうのもまた事実です。現場の先生が一人で向き合うには大きすぎる存在なのが学校や教育です。一方で、変化の動きをつくりだせるのもまた、その中にいる先生自身でもあります。そんな先生方と一緒に私たちができることを考え、開催したのがこのイベントでした。
実はイベントの次の日に中土井さんから私たちに届いたモデル図がありました。
これは佐野さんが辿ったご自身の変化のモデル図なのですが、私たちが3月からスタートするチームを考える学校の中で大事にしたいことも表してくださっています。佐野さんの話にもあったように、志だけで訴えるのではなく、どうやって仲間を自分の学校に創り、実際の行動や取り組みを通して実現していけば良いのか?それに一緒に向き合っていくのが、3月から始まる「チームを考える学校」です。
このチームを考える学校には、お話に出てきた学習する組織、U理論、NVCなどのメソッドなども反映しています。体験しながら学び、ご自身のいる学校や職場、教室、生徒と向き合い過ごす半年間をご一緒したいと思っています。詳しくお話を聞きたい方はオンライン説明会を実施しています。プログラムに参加されたい方はこちらからお申し込みください。
チームを考える学校HP
http://www.cokowill.com/teachersprogram
チームを考える学校オンライン説明会
https://forms.gle/EG7Dh9fswq8HwVC29
チームを考える学校お申し込み
https://forms.gle/WHpWpqED5Fzc47Ca6
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