月詠歌抄

腐敗体制打倒の後も主の悪は清算されず 現実の暫時

断裂は何処吹く風風車塔夕に染まり酪乳色に回る

機械暗算総死者数刻銘の今日恐怖克服さるも日常は 忘却宿痾

表現者夢の畔に遊び 綺麗事なき戦死者総計

町の果て銃弾塗れの壁に鬱金香揺れて運ばれ行く血肉袋

世紀燃料の発動機虐殺を巡る哨戒機の音

異教淘汰銃撃に殉教徒歓喜と共に骸となりぬ

死後必然に掴む藁さへ有らずして紙幣に購ふ虚構安息

銃後 殲滅決戦を語れども防空壕に蒸し焼きのなきがら

國の壁燃えて久しき戦中の此の現実感の無きはなにゆゑ

電気の発生磁気の起源に星雲の渦 孤独史とは邂逅迄の途轍

幌馬車に望む月かな天体の昏き夜にもただ皓皓と

地球儀の部屋につるされ法悦の寓意をろかしくも矮星の侏儒

星空の藍をたぐへて 憂鬱のこの窓辺よりたれつれさり来むか

狭き陸を争ふ人類の発展はひとときのため むべなるかな

韜晦に野心隠してわかもののうるはしくも逞しき葦は

智慧の典籍にさくらばな散るその翳に知恵の文章をちりばめるかのごと

われら去りてのちもまばゆきやまのはの月かなおそらく歳月へても

自転車の車輪に檸檬の花揉まれをり。水位計いまだ低き現を

確信はうつろなり比喩の森にて指す百合の奥に湛へる蜜の意味とは

穹窿は睡夢を映し眼窓はなかぞらを望む 審判図に託たれし条理の幾何か

現実に因果は沿はず科学発展世紀に身罷れる百種百花は

恒常の花はあらずも造花工に模倣されつる樹脂の薔薇かな

俗名に紛れて匂ふ戒名に卒塔婆ありけり。日曝しの墓

理性摸造都市は治世を語れども舗装路の裏土塗れ

地下水道流れゆく葦あり排水路より逃れつづく河へと

鉄格子越しの主従関係たちかはるもいづれもが奴婢 獄舎とふ主

部屋の壁剝がれて覗く鉄材の骨あらたしき建築史も旧りゆきぬ

築かれて万里の壁に純血の民族系図人種は深き断絶を建て

衣類の歴史花を燈して明るめり 繋がれる爲に諸手はありき

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