鷹枕可

短歌集団「かばん」に参加、疾病の為退会。 詩誌「金澤詩人」創刊号より第4号迄へと参加。…

鷹枕可

短歌集団「かばん」に参加、疾病の為退会。 詩誌「金澤詩人」創刊号より第4号迄へと参加。 爾後、ネット詩界隈を輾転とし、 自由詩投稿掲示板「文学極道」に西暦2015年より投稿。 摂食障害、精神分裂病を発症後、今に至る。

最近の記事

「主は冥府へと」

目を傷むるとき眩き噴水像の裸婦、かどはかされきつがひの雄鶏 蝶蝶の翅脈四枚ふれあひぬ交合憎しみきは薔薇と王 音樂の嬰ひびくなり教会旋法に渦巻きぬ混声の女男  キリエ 冥府降りぬいもうとゆ預からむ箱の鍵 エリシオン 水渠さざなみ寄するおとうとの肺炎病みき訪れり医は 死体折りかさなりき埋めをりきに加ゆる橄欖の苗も死なめ 平和ゆゑに看做しきは敵優生の母亡き薔薇園を憐れめ 外廊ゆ円庭へ抜くる聖靈のごと朝鶸色の風切羽 御靈串奉るとも靑き頬骨をつつみてしろし指の脂は

    • 鵺・「蒼いマリア」へ

        生ききはらむとせしはいつ布袋葵黒くちぢれり、希臘人の髪 蜜蝋滴らす文へ血文字扼し督子けがれしらずにも領を指しぬ 眞菰闇へだてて河骨しらじらし一度とて屍荷はざる馬 死霊、あるいは襯衣浸しき塩素酸へ泛ぶ十指の生づめ 仏炎苞のごと襟立てる青年裏見するは硬き靴、蹄鐡 白き薔薇苗の末ささくれて割く死の床にいきわかれのおとうと 法蓮華百草百花曼荼羅図に背むきて聖靈の鐡の髪 青銅の門くぐり遭はむ修道の諸諸の顏きはめて醜し 白豹の毛皮の駁こそを愛す ダンテ・ミルトン・ゲー

      • 夜の星

        いずれにせよ去るしかないのだ 門は暗闇につづく 花明りは 去った者どもの影へと一層昏くも蟠り 舞木葉へ揺らめいている かのひとを 見なかった 時が果たしてあろうか 道はつづき 至り そしてたどりつく者へと なぐさみの夜明をもたらすのだ 遺されたこどもたちよ おやすみ そしてすこやかに 時は過ぎ 冬は闇のようにおとずれた その時も 門は冬の星を散りばめながら せめてもひとときは ひらかれていたのだ だが誰がおとずれるというのか 愛ははさすらうもの 留まらず ふたたびとは 留

        • 元素・「視覚」「未知」

                元素・視覚 例――視覚の内部       第一の見える詩 骨の腕は光のなかに咲きみてり、臺燈る白き花、花 脚の骨へ設計図 雌雄の蕊の立ち聳ゆる支へる冠毛臺 人の創造花茎となりぬ花鍵をさげ豆の芽ほそながく 肋骨のトルソゆ産れてうるはしき白裸婦逆さ吊りにはな ヒエログリフと古生代化石にかこまれて死と乙女つつがなき、未來史 多肉植物鬱蒼たるに両性のをとめ子宮の容の杯をもて佇ち 骨格図に脚の直角綿花をたてて胴なき腕のとどまる       第二の見える詩

        「主は冥府へと」

          元素・「暗黒」

          第一例――鶏の笑い      累卵増殖す皿の上ひとり立ち黒聖母天地を差しぬ 鶏の球乗 黒婦人復活の黒彌散寝台へと華燭蝋燭の灯がゆらゆら 鳥達の壁画、仮面、髑髏など集めて牝鶏女司教鶏連れて 處女ジュリエットの棺立ち会へる二人鶏頭を擡げて 塋域に紋章円十字を祀り裸婦授与の外套墓穴へ 霊廟は裸婦像ばかり――商人と青年あらたなる處女を取引す 分木 雄鶏の歓声 番ひの屍寝台ゆ血まみれに俯す部屋を出、 若主人様、暖炉へいかが たつたまま眠りしそびらの陰に鶏 歌劇座の貴賓席

          元素・「暗黒」

          聖母告知図

          瑪瑙質の海岸線をたどると、一面は海芋の園であった、 慈善修道院の窓の影には、白鳩と駁鳩の巣が吊り下がっている、 記憶の鏡には何時でも、――木と紙からなる模型飛行船の吊糸のような――、蜘蛛の経糸が一筋の罅をくきやかにも輝かしめ、 遮断された上半身を袈裟懸けに縫綴じているのであったが、 粘膜質の昼の日射は、壁掛時計の影を一層にも色濃く縁取りながらも、 その一室に、非在の主人そして賓客を、より明瞭に――空瓶の橄欖花の様に――神神、また人人の喧噪の埒外に擱き、 一幅の精密画の空瓶の底

          聖母告知図

          元素・「血」

          魚から鳥へ、鳥から魚へ――, 火焔陶器の外套逆さ纏ひたる雉男は戸の闇佇ちて 夫人母となりせば命令せる足許に一匹の巨飛蝗躾くも 雌雄両性の鵞鳥麗人みづからのかたちのろはば頭を捥がむとす 餌箱に蝶のしかばね孤燭床へたおれ母よわれへ触るるな 狩猟場芝生のみどりコカトリス飛べず標的に駆けり 男撃つ文鳥侯爵猟銃へ煙森遠景へ霧らひ夕の血 樹幹吊り下げり男の屍骸緑陰へ房事の腕掴む乳房 真夜森へうつくしきをとめ佇ち底浅き河へ梟公の死 七面鳥の紳士街の鄙逃げまはるを追ふものも

          元素・「血」

          一列の撞球

          撞球臺へと乗り上げる上半身へ、華燭の蝋燭が白い焔をゆらめかせているときに、 おりしも時同じくして分銅の円錘型へと吹き寄せる綿埃は、花菱模様の壁紙より一臺のトルソの脚へ到るまでを斑の影に照らしながら、 光芒の一束を稲妻の様に擲つ記念像の挙手から足許を正中線に分節しながらも、 左右対称の鏡へとディオスクロイの宮廷図を消失点より瞠っている ――尤もそれは肖像画家が自画像を睨め付けるときの、彼等の一種の審美眼にほかならないのであったが――、 血は血を憎み、そして躊躇わない、 三叉路に

          一列の撞球

          死者達の入府

          蜘蛛の容に佇つ立体は、建築の鳥瞰図へ、柩の肉体に到るまでを覆っては、 正八面体に折畳まれた脚の骨をつづれおり、絹の刺繍の倒錯を以て光芒のなかへ闇をくつろげるのであった、 寝衣の處女は暗闇の海原を歩み乍ら、懐中のシェードランプをまさぐり、その吊紐から帷へ至るまでの大緞帳を引く、 すると、曙光に射落とされたイアソンが――転落する一両の車駕からは純金のトライアングルが――、 精霊たちの海岸へ打寄せる漣の襞から別の手へ、そして別の手へと引き渡される、 誰が過ぎ去り、誰が訪れたのか、

          死者達の入府

          2024/06/14,オンライン発表作品一首,

          暗殺者の花言葉「淫売」紫陽花のちりばめて目・目

          2024/06/14,オンライン発表作品一首,

          元素・「火」Ⅱ

             跪く婦人、黒竜うやうやしくも伺ふ有翼指揮長の腕 婦人は交歓、紳士は地上俯瞰図を掲げり。扉挟み空椅子の部屋 蝙蝠の婦人介添人ふたりは腐刻凹版へ触れなむとす 後ずされ 薬指一本の環よこしまに蘖の幹 画の中の画の外へとムッシュ 水の廊下へ夫妻佇つ贈答の封受取りて 侍従は 足に蝙蝠の屍 侍従と主人いれかはるごとを夫人は含む 腐刻版の上佇つ主人俯ききへ蛇竜の環泛びとらへり 驚きて有翼夫人鏡臺のうへの燭臺の灯肩越しに見 朝 自然光照らす室内の主人背に竜の翼遂に生ゆる

          元素・「火」Ⅱ

          小 小曲符

          春から春へ そして 夏から夏へと 翅のあるものたちは なんと美しいことであろう 杜鵑草の薄緋の花は 濡れた睫毛へと そっと 贈っておくれ、 ゆえなくも 君のもとへ 君のもとへ 花から花へ そして 草から草へと 翅のあるものたちは 忙しくも行き交う 置き去られた花文の手紙を 濡れた睫毛へと そっと 届けておくれ、 ゆえなくも 君のもとへ 君のもとへ

          小 小曲符

          天鵞絨の喝采 闇

          死府へ行くのにも切符が必要かい? 花刷の凹版紙は? ところが市府庁の税吏ときたら、 腰には 回された夫人の指 木の幹から切り落した その真っ白いばかりの 樺の花枝を まつわりつかせていらっしゃる、 鼻音、そして通底する口、 ――誰を引き摺るのか、 宜しい、おやすみ きよらかな 少女達よ 少年達よ、 眞昼の後の夕――そして闇だ

          天鵞絨の喝采 闇

          元素・「火」Ⅰ

             檻に舞ふ百の蝙蝠火は消ぬとき燈るたとふれば双眸 厳密なる枯葉広場の一枚の石三葉虫を留めて脆し 大紗幕くろぐろと巻き火の竜の市街電話を覆ふパリ郊内 竜と塔、街燈へ行商人と車流るる壁文字売出の染髪料 嘆きありアダム史郊外のミモザ狒狒色へ黒窓の並びき 立会人かくして披露一章の始り終り暗示の森、洋燈 凸版の腐刻版覆りて朝市の獰猛なる野良犬 おはよう! 跪く街頭神父に灯非ずに頬髭黒き囚人こそへ焔 塔距て狂夫妻つつましやかに野良犬へ枷ラビは諸手をあげき 商店街正門

          元素・「火」Ⅰ

          そして、絵の石の中より

          伐採された蘖 髪の根 葛藤をする 草の葉 息吹く 汗の少年 死体、 ガラッタ・ガラッタ・ガラッタ 黒い帆を揚げろ 黒人船夫を 沈めろ、 阿呆鳥の土地へ、 あろうことか、 電話を記録しているのは 婦人と婦人、 船着場には石の死体が揚がる

          そして、絵の石の中より

          シュル掌編, パリ盆地へ、

          歯車は単純にも翌朝を唄い、 複数形の樹木、あるいはプリマドンナ達はその白質化した砂海岸の木靴を向う方へ万遍無く抛るのだ、 石灰婦人の履くコルセットには送電機からの電線が歪像画としての縞模様を落とし、 ロールシャッハ氏の苦悩は紫色の薔薇――或は双子の老婆――を見開く度に、 如何とも覚束無い、焦燥に包まれたかの海岸を思い、潮目の泡をその心象に浮かべるのであった、

          シュル掌編, パリ盆地へ、