301号室
死の森へと密葬をされた
鏡面反射の双子達へ
繙かれて
ほつれ
續けてゆく
後髪の光冠がありましょうか
櫃からは車百合の音が
輾転と燃える車馬のたてがみのように
くるめける乱鐘の舌のように
泛び上がってくるのでございましたが
迷子迷宮の手毬唄の三千浬目程へ到りますなら
三等客車の
車掌の掌へ落されました切符鋏から
018号車672号室の扉まで敷かれました
天鵞絨色の絨緞の闇の下には今も
空襲区域がひろがっているのでしょう
銀の胎を捌かれて
人道廻廊には
危篤の聖母が手術臺の上の石膏の薔薇とタイプライトの文字列の上へと
翰墨の髪を滴らしながら
何やら署名を致しておりますのが垣間見えました
それは300人の子供を火葬に附す
対価とし
1人の奇蹟のこども
或は水に薄めた葡萄酒を
蘇らせる手筈への了承手形なのでございました
1人の命より300人の命が重いようなことがございましょうか?
そう申しますと
胸元へと下げたアンクに身を攀じらせております
1人の犠牲者
名前は失念を致してしまいましたが
その胸元の穴
或は肋骨から1枚の手紙を鳩のように羽搏かせては
赤い葡萄酒のしぶくのをうっとりと見とれておりましたのですが
なにを思ったのでございましょう
恐怖、あるいは靑醒めた馬でも
目視しましたかのように
花茎へと聯綿と吹く木綿の花の白い闇から
後ずさりながら慄き
そのうつくしい垂髪を振り乱し
裏切者!!
と叫んだのでございます
その後の事はご存じでございましょう
かのひとはその病院客車から
出でる事を叶わないまま
301人目の火葬室の扉の内へと今も眠っているのでございます
この客車ももうすぐ発車を致しますから
あなたさまも
どうか
愉しい旅を
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