反理想郷

海の果てなるオルガン弾く天使 世界終末の振子時計に 

青き牆壁巡れる都市の記憶よりあらはるる秘匿の神の実名

存在記録の罰を背負ひて 申命に背くものたとへば深淵揺蕩へるをろち

天刑に纏ろはぬ汎神とし茗荷のはなほころべるころ

安息の園に身罷る老いらくの罪責むるも無粋なる 死は赦しなるか

存在に価せずみづからを律し伸びやかならざる荘厳弥撒曲

逞しき青年腹を捌きつつ殉死に価ふ理想のありしや

断絶の輪郭橘の実腐り初め切り捨てられたる奴隷階級

労働奴隷牙を剝く今し世に居所なくば墜つる花びら

陰謀論に縋る外なき貧窮に断たれたる個の集く爲には

明らかに属国 英吉利産罐詰の蓋を這へる蟷螂

マグナカルタ読まずあり貴族院議員が既得殖民地

知恵のみならず命さへなき本邦の腐敗関係 土地に垣根は

絶命は容易き問題はその名跡を継ぐ嫡男 菊と刀剣

刎ねられてあおのく鶏頭の一房ありて凡そは風向きに従ふ 

逼迫と断行おもはざる事変はつね執政には見えざるもの

積荷に撓み歪める貨物車の曲り果せず 石礫刎ねたり

人力機関車期間工への手当苦役にそぐはず 人間廃棄

平穏の爲に死を選ぶ超過労働の全容をひた隠し

縊死の縄つり下げられてみづからを死刑に処す 個人責任

自由人投獄されて然るべき義務を果せ 為政者・市民の声

訃報欄に数へ切れなき無名死者統計つひぞ掲載されず

市内放送行方不明の同居人を呼ぶ声すなり。理想国家にて

石切場にて鋸引く労働工の汗染みて滴る 雪花石膏に

柩工のをとこ天啓を受け奇蹟の丘に死する迄の御話

正しきは悪しく悪しきは正しからば貴様は誰か 正しき主よ

営為なべて全き善ならばただちに死せよ生きゐたる悪の榮をおもへば

希死念慮萌す現代人のこころ物憂ひせる必然の葦

不安恐怖そは文明に差し懸かる昏き月かな 医院収監 

病める存在 林檎の梢花を驚きてみやるなるあるもののおもたさ

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