骨抜きの鯖

型紙の背広を縫へる祖父、且て戦場にてひと殺めたる祖父

現実の総括として黒塗の教科書 風見鶏偏西風に廻る

眠剤の浅き眠りに 眠れ 隠されたる敗国の歴史

天鵞絨の夢に繻子の襟飾くだらなき飽食も醒めて

明らかに戦勝国と敗戦国たれも奇異とはおもはざる奇異

二流奴隷民族史大日本帝国のをろかしさ二羽の軍鶏の蹴爪 果し合ひ

豊作の麦穂畑を嫉みつつ休耕田明日にはマンション施工

青酸の咽喉を爛れて 挫折と死はいとも容易く購はるかな

誰も見ざるものばかり見て見えざるは国家債務と軍備増強

死衣の丈ホロコースト滲む夕つ方朋を売りいきながらへしユダ

リベラルを唱ふる教師よ盲信の夢見は如何にたやすかりぬか

きのふまで国家に殉じきその面によくも社会規範などと言ふな、きさま

一食の糧を得て生きながらへるかな西暦2023年の現実は

弑すべき父既に亡く老齢の母と精神障碍者の息子凌げる糊口

贅沢は再び敵とならむかな電力自粛てふ不可思議の国家

極寒の東京 春を鬻ぐ者富みて更にそを買ふものの贅肉

愛以前生活に貧す社会奴隷ただ黙しつつ労働を続けぬ

偽りの富に骨抜きにされて鯖 生鮮食品売場に並ぶ

更でも国家打倒の趨勢を諦めたる奴隷どもよ 三等市民

精神を病み肉体を病むされど不健全自己責任とひとは言ふかな

わたくしが狂つてゐるのか資本主義が狂つているのか 月へ飛ぶペニス

貧窮の炊飯器涸びて食糧支援資格非ず ただ死ねといふ国家宰相

読書に淫し多幸なる母明日にはその書架でさへ 蠍の共喰

鬱積は委縮を伴い遂にして貽貝となりきをとこの臓腑

クリスマス。底辺階級の懐旧はかつて外食をせし記憶のみなる

経済に膨れ上がれる脂肪かな 遂にはみづからを支へ得ず

花のみは変らざりけり一挿の牛乳瓶に凝る蒲公英

問題はなにひとつとて解決を見ず年忘れ都忘れの花ばかりなる

昨日より明日は凡そ過酷なる紅白歌合戦の腐臭払拭し難く

宵越の鐘は百八煩悩の焦土地獄に響かふ やはり地獄の沙汰

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