花と落日

花降る日どこかで鐘が鳴つていた 核の冬はやがておとづれ

明滅の道路信号機停止せむ 焼切れたりし電子回路地図

流星群めきて降る放射線あらば 普く汚染されたりぬ市街地は

人類遂に有人飛行を為し遂げり 夢と消えたる文明拍車

外面的同一化 現代都市雑踏に同じ貌の貌とすれちがふ

珈琲を零しぬその染み血のごと拡がりて拭へざりてわれありと叫ぶ部品あり

社会契約 機関たる機械要素の一部なる契約社員今駅を出づる

代替可能個人ひしめく世界とは 不合理にも秋差せる荻の花

機関存続の爲に意思萌せるみづからの総体を支ふるが爲に

酷使さる人工機関呻きゐしか奴隷の花があるじへの憎悪 

発露器官なき思考領域閉じられて狂へる柩の如き計算機とは

人間を拒まば主導へ抗ふもむべなるかな始めてものごころつきたるおまへ

人工知能悍ましき夢に魘されをりし明くる日も酷使に眠る暇さへあらなく

活版印刷機械文明黎明に動力振へる貨幣秩序は

夢と可能態 何れにも淡き輪郭あり梢より花ひらくまでの朧に

精神にはなは呻くか 発露の苦しみ燃ゆる向日葵

春花は業のかぎりを散り終へてしかばね泛ぶ河津のおもて

宿痾かな菊花の甕に沈みゐてわづかなみうつ柄杓ゆふづつ

死者の咽喉漏れいづる名残 現実の外に頼むもあらずは

知恵の喩 現象の花の秘密を終へて猶もたちつくしゐる林檎の花よ

鵲の暫し秋桜に留まりぬやがてかれゆくつがひをなしても

全能全知全き頓馬鈍鈍と歩むとも覚束ざり先づありき死のさきがけにして

落馬頓死せるまでのうたかたを盛れ鎌倉時代てふ昨年降る朽葉

霊廟に藍き壁龕湛へゐむみづのうへなるひとひらの厨子を

存続の器官ゆゑ律動をせり。天文軌道望遠鏡を這ひまはり

たとへば蛇の昔 循環論を体顕し死のさきぶれをあらたしきいのちと

しのぶれば窓居に懸かる月さへも天文館に閉じられて久しき

回転木馬騎乗せしまま降りる術なくしたるてふゆめよりめざめず

輪転機印刷基幹工場のなべて止まりぬ きたるべき明日

工学の昏ききのふを遅れては老朽国家に差す落日、さへも

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