醜聞の果

火事の薔薇窓割れては噴く炎の業業と熔けゐむ 磔刑像も天使も

想像崇拝理智は抽象を語れども紛ふなき肉体、舞踏儀礼

生贄と滅ぶる國の辺境に産まれて星屑さへみあたらざる寂滅の底

死の糧をみづからをいつはれる朝、葡萄畑を呪ひ追はれて

可能態創造以前洪水の椅子へ一輪の餞を

心臓の鳩囀りて水栓の抜け落ちてしまひたる給水塔

防火壁盛れる菫の園に建ち碑は最なる果にこそ安らぐ

夢の階段傾きてくづれ落ちるまで宮殿のソロモンよ眠れ

政治精神萌してひと切り捨てたる日より澱める泉に冬朽葉降る

つたなき秩序を編み享くる罰報ひあれ舗装路に 生埋めの蝉

殻を出でてからつぽの航空工学揚力を得ては鳥籠の不可能を知る

今更に縋るべき国家在らずして救済はみづから掴むべし 報復起源

鋭利なれ舌鋒言葉にてひと殺めたるその顛末に屑と哂へど

自己優越に耽る劣等賤民の誇り集めては火葬にこそ附す

選ばれざる民族優生淘汰のいやはてに互みを憎しみ屠りあふ 歴史

存在の苦き質量 市民標遺失せる旧市街の路傍には花さへ

夕闇に染まれる降灰以後の町地平差すひとみへ剃刀を宛て

投壜寄港地に泛び壜中に蠍の星図渦巻けるなる

泥濘の夢シャンデリア落下せし後 孤燭の窓仄明る

摩天楼の死を見遣りつつ丘墟にて停電以降の街明りを懐かしめ

世界像白熱電球の内に燈りアルゴンの充満に気息せる

奔放なる悪意の花束過ちを問ふならば存続そのものこその悪

由縁とし麺麭籠の秘跡教育は種ひとつあらばいよよ膨らむ

犯行認否声は剣なれ言葉にて死者を蔑み 浅ましきかな

極端の両極 交流電気断絶の電燈 斯く別たるる発展と証明

花の名を訪ねをり。貴賤善悪有らずとも蒲公英は緩びぬ

調律師正しく絃を引き締めよ出鱈目の放縦の即興譜

醜悪も醜聞もみづからが形見なるただ足跡を愧じることなくゆけ

死のむかふ生のゆくへに待つものは時間 永続にさへ縛られざる一刻を

観念の庭に繁しきいばらかな炎を別けてそは現るる

邂逅は夢の梯子に 魘されて十日目の麺麭は命を喪ふべし

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