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【香り+臨床心理学】普通のアロマセラピストだった私が、香り演出家として起業できた理由

こんにちは。
 
香り空間プロデューサー、郡(こおり)香苗です。
 
noteでは、香りの演出ウラ話、香りを仕事にするためにやったこと・やらなかったこと、私が最近気になっていることなどをお伝えしたいと思います。
 
9月になっても、まだまだ暑いですね! 朝晩は少しずつ涼しくなってきましたが、昼間は強い日差しに汗ばむ日々。ですが、私が代表を務める香り空間プロデュース会社「シーナリーセント」では、早くもクリスマスシーズンに向けてのお打ち合わせが続いています。まだまだ先のことのように思いますが、きっとあっという間。どんな香りが出来たか、また随時お知らせしますね。

起業前、アロマセラピストの限界を感じ
大学で「臨床心理」を学びはじめる

今日は少し時間をさかのぼって、私が臨床心理学の勉強をしていた頃のお話です。

起業する5年前、放送大学で臨床心理学を学びはじめました。「香りと臨床心理学にどんな関係が?」と思いますよね。でも当時の私には必要なものでしたし、実際に今の仕事にとても役立っています。
 
その頃の私は子育てをしながら自宅でアロマテラピーサロンを運営していました。


アロマテラピーのサロンでおこなっていたのは、主に精油を使ったボディトリートメント。体験したことがある方も多いのではないでしょうか。アロマテラピーサロンで使用する精油とは、植物から香り成分を抽出したもの。香りに含まれる有効成分は、リラックスや健康維持、美容などさまざまな効果をもたらすと言われています。

サロンによっては使用する精油を数パターンに絞ることもありますし、業務用のブレンド精油をそのまま使うお店もあります。私のサロンは、精油はお客さまの状態に応じてブレンドするスタイル。

サロンでの施術前は丁寧なカウンセリングで、お客さまと向き合っていました

いい香りに包まれてリラックスするだけがアロマテラピーサロンではありません。お客さまの心や身体の状態をしっかり把握し、その人に本当に必要な香りを選び抜き、お客さまの心身を癒す。それがアロマセラピストの本来の姿だと思っています。


施術前のカウンセリングでは、心や身体の状態を詳しくお聞きします。お客さまの中には、ものすごく心がしんどいという方もいらっしゃいました。

今の気持ちを一生懸命に打ち明けてくださる方、心療内科に通院しながらサロンに来てくれる方、お話をしながら毎回泣いてしまう方……日ごろは心の内にしまっている辛い気持ちを、お客さまは私に預けてくださいました。

アロマセラピストの資格を取ったときにカウンセリングについても学んでいましたが、お客さまが抱える深い心の傷についてお聞きするたび、私は自分の力が及ばない領域があると痛感しました。
 
「お客さまを香りで癒すだけでいいのだろうか?」この疑問に、今なら「YES」と答えることもできます。お客さまは、まさにそれを求めて来てくださったのですから。でも、当時の私は「お客さまの心身をほぐして軽くするためには、もっと人の心理や精神疾患について深く学ばなければ」と考えていました。
 
当時は心理カウンセラーとして唯一認められる公的資格(※)だった「臨床心理士」を目指し、放送大学に入学。臨床心理士になるには、大学で学び、大学院を修了し、さらに資格試験に合格しなくてはなりません。簡単なことではないけれど、家族にも協力してもらって好きなことを学ぶのだから、中途半端なことはしたくない。大きな期待と同時に、少しの緊張を感じたのを覚えています。

※今は「公認心理師」という国家資格があります。

アロマセラピスト?カウンセラー?
悩んだ末に選んだ答えは……

サロンの仕事と育児、それに大学での勉強。当時長女は小学6年生、長男が3歳でまだまだ手がかかる時期なので、子どもたちと関わる時間は欠かせません。そういえば、アロマインストラクターとして、公立高校でアロマセラピーを教えていたのもこのときでした。

高校での授業風景。仕事・育児・大学で忙しい日々でしたが充実していました!


この話をすると、いろんな人から「忙しかったでしょう?」と言われるのですが、大変だったことは実はあまり覚えていません(笑)。むしろ家でじっとしているのは苦手なタイプ。なんといっても、大人になってから学ぶのは楽しい! 家族も協力してくれたので、家庭・仕事・大学のバランスを取ることは苦ではありませんでした。
 
臨床心理学の世界は、私にとって常識を覆される衝撃の連続でした。

例えば、あなたが大人から「トトロっているよね。どう思う?」と聞かれたら、何と答えるでしょう。「いえいえ、架空のキャラクターですよね」と答えるのではないでしょうか。でも臨床心理学では、クライエント(相談者)が「トトロはいる」と言えば、「そうですよね、もちろんトトロはいますよね」と答えるべきなんです。クライエントの心の中に実在するものを否定してはいけないからです。
 
臨床心理学は、人の根底に流れている普遍的な心理から、正常な心の働きから逸脱した精神病理まで、幅広く学ぶ学問です。精神疾患を抱える人や罪を犯した人の心理を理解するため、ときには大人社会で一般的とされる常識とは違った価値観やふるまいを求められることも。学び始めたころは何もかもが衝撃的すぎて、「すごいところに来ちゃったな」と思ったものです。
 
放送大学ではテレビやインターネットなどの放送授業のほか、実際にキャンパスに通学して学ぶカリキュラムもあります。一緒に学ぶ友達や先生との交流も楽しかった! さまざまな授業の中でも「箱庭療法」のワークは今も印象に残っています。

箱庭療法の授業ではこのような箱庭をつくっていました!


箱庭療法とは、砂箱の中にミニチュア玩具を置き、自由に配置してもらうことでその人の心理状態を見極め、治療に生かすという心理療法です。静かなカウンセリングルームの中で先生や学生がじっと見守る中、クライエント役の学生が箱庭づくりに没頭します。

なぜ、この位置にこのおもちゃを置いたのか?クライエントがつくった箱庭の世界にどんな物語が込められているのか? こうやって、出来上がった箱庭について学生たちが解釈していきます。目の前に現れたものから制作者の意図を汲む作業は連想ゲームのようでした。
 
入学当初は、アロマセラピストの仕事の延長線上に臨床心理士があるというイメージを持っていました。しかし学びを深めるにつれ、アロマセラピストと臨床心理士の役割は全く違うということがわかりました。

アロマセラピストは嗅覚という本能に近い部分にアプローチし、お客さまに癒しや美を提供します。それに対して臨床心理士は、医師との連携を図りながら病理を解明して根治を目指したり、さまざまな療法を用いて人生を生きやすくしたりといった、伴走者のような存在です。実際に学んでみなければ、この違いは分からなかったかもしれません。

※イメージ写真です


大学卒業を目前にしたとき、私はどう生きていくか悩みました。アロマセラピストであり続けるのか? 臨床心理士としてカウンセラーに転身するのか? アロマセラピストと臨床心理士を両立させるのか? 

しかし「ここまで学んできたのだから、どちらかを選ぶ前に、臨床心理士の資格は取っておきたい」と、大学院への進学を決意。兵庫教育大学の大学院に合格できたため、修士課程に進むことを決めました。
 
そんな私に、転機が訪れました。それが、香り演出のお仕事でした。NHK大阪ホールでの舞台作品で、香り演出を手がけてほしいという依頼があったのです。お客さまの数は約3000人。私が作り出した香りが、客席に広がっていきます。客席に視線を移すと、お客さまがパッと顔を輝かせていました。

NHK大阪ホールで香り演出を手がけ、その面白さに魅了されました


「香りには、エンターテインメントの世界をさらに盛り上げる効果がある!」

香り演出の世界に、一気に魅了されてしまいました。
 
とはいえ、大学を卒業し、せっかく合格した大学院で学びたい気持ちもまだありました。アロマセラピストか、カウンセラーか、香りの演出か……。入学式の前日まで悩みました。

私が出した答えは「香りの空間演出家としてビジネスを始める」。アートやエンターテインメントの世界で、香りはまだまだ未開拓な分野。そこに最初に切り込めるのは、私しかいない。新しい世界で、新たな価値をつくっていこうと決めたのです。

私の「香り演出」の手法には
臨床心理がベースにある

アロマセラピストでもなく、臨床心理士でもなく、「香りの空間演出」という新たな分野に挑み続け、10年が経ちました。

大学で学んでいたときの教科書の一部。学んだ日々が今に繋がっています!


私の仕事は、アートや舞台、音楽など、言葉を持たないものたちから想像し、香りをクリエイトすることです。

香り演出のお仕事では、「ここに香りが欲しい」というオーダーを受けてから香りを作り始めます。具体的な香りを指示されることもありますが、こちらから香りの提案を行うことも珍しくありません。そんなとき、香りのヒントは、舞台作品の内容や装飾デザイン、あるいはオーダーしてくれた代理店の方や、クリエイターさんとの会話の中にあります。それらから「こんな香りが求められているのだろうな」と意図を汲み取ることから、香りづくりがスタートします。

※イメージ写真です


香り演出家というと、香料に詳しい人と思われがちです。たしかに、香料にはこだわりがあります。しかし私の香りづくりの特徴は、「言葉にできない想いや意図をさまざまな視点から分析し、香りに落とし込む」こと。

そうです、これらのプロセスは、箱庭療法で箱庭を分析していく方法と同じなんです。箱庭は、クライエントの心の深い部分が形になったもの。授業では、表面的なことを受け取るだけではなく、幾層にも重なる感情の動きや「本当に伝えたい想い」を汲み取っていくワークを繰り返していました。

臨床心理学を学んできたからこそ、私は「香り演出家」になれたのだ、と今は胸を張って言えます。
 
これからも、作品の世界をより深く濃密に表現し、誰かの記憶に残る香りのクリエイトに力を尽くしたいと思っています。これからも応援をよろしくお願いいたします!

【お知らせ】週刊東洋経済『すごいベンチャー100( 2022年版)』に掲載されました!

9月12日発売の「週刊東洋経済」に「シーナリーセント」が掲載されました!『すごいベンチャー100 2022年版』で、弊社を取り上げていただきました。
 
書店や電子書籍で見かけられたら、ぜひお手に取ってご覧ください。
 
週刊東洋経済公式サイト
https://str.toyokeizai.net/magazine/toyo/
 
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「シーナリーセント」では、イベントや展示会、店舗などで香りを演出する事業を行っています。
 
世の中に「ある」香りの再現も、「ない」香りのオーダーメイドもOK。
 
また、イベント会場などで香りを拡散する機器を開発。販売やレンタルも行っています。

◆イベント、ライブ、テーマパークで香り効果演出
◆商業施設でのクリスマス装飾香り演出
◆ホテルブライダルでの香り空間演出
◆ミュージカルなど舞台演出での特殊効果の香り演出
◆アニメやゲームなど推しキャラの香り

シーナリーセント https://sceneryscent.com/

郡(こおり)香苗
Instagram https://www.instagram.com/sceneryscent.kanae/
Twitter https://twitter.com/kanae_kori


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