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映画『パラサイト』のシナリオのすごさ、ネタバレないから言わせて

今年の米アカデミー賞は、何といっても『パラサイト 半地下の家族』。
ある仕掛けによって、個別的な話から社会的な話へと、一気に観客を引きずり込んじゃうんです。

この部分のシナリオ的なすごさ、ぼくなりに整理したので、言わせてほしいのです。
ある一点だけ、だからネタバレないし!

シナリオ・センターは、1970年からシナリオ(脚本)、小説を書きたい方向けに講座をして50年。ジェームス三木さん、内館牧子さん、岡田惠和さんなど600名以上の脚本家、小説家が誕生しています。https://www.scenario.co.jp/

ファーストシーンからセオリー破り
だから生まれたとんでも効果

起承転結には、それぞれ機能があります。そして、『パラサイト 半地下の家族』は、いわゆる『起』のセオリーをあえて間引いて始めているんです!

ここがすごいの!だって、この間引きこそ、映画のテーマ性を色濃くするんだから!

『パラサイト 半地下の家族』のトップシーン、覚えていますか?
wifiの電波を探すところから始まります。そして、家族みんなが画面に紹介されます。

そう、一見ふつう。

『起』の機能は、天地人を紹介することです。
天:時代
地:舞台
人:人物
実に上手に紹介しています。

観ている私たちは、「あぁ現代のなんか半地下で生活を送る4人家族の物語なのね」と最初の30秒で了解するわけです。

で、ここに仕掛けがあるんです!
でも、でも、ちょっと待って。何がすごいか、もう少し待って。

序盤は、半地下家族とセレブ家族だけの物語

半地下家族は、セレブ家族の家に、家庭教師、美術教師、運転手、家政婦という形でパラサイトしていきます。(大丈夫、ネタバレないから!)

無事にパラサイト完了。

で、ある日セレブ家族がピクニックに行くわけです。半地下家族は、セレブ家族がいない家で、セレブごっこして、高いお酒飲んだり、好き勝手します。

外は、強い雨。この雨、なんかやな予感がするわけです。どんどん強くなる雨。そしたら、セレブ家族がピクニックから帰ってきちゃうからさぁ大変。

なんとか、大雨の中、セレブ家族にばれずに半地下家族は、自分の家に逃げ帰っていくわけです。(ほら、ネタバレしてないでしょ?)

ここで『起』で間引きが利いてくる!
ポン・ジュノ監督、天才!!

強い雨の中、半地下家族が、自分たちの家を目指して帰っていきます。日本でいうゲリラ豪雨的な大雨の中を。

ここがすごいの!

セレブ家族の家から、半地下家族の家まで帰る光景が、映画の中ではじめてロングのカットで映されるわけです。セレブ家族の家から、半地下家族の家までいかに下っていくか、観客ははじめて目の当たりにします。繰り返します。はじめて、です。

半地下家族が住むエリアには、同じような半地下家族がたくさんいることが、この時点でわかるのです。これ、映画の中盤ちょい過ぎたぐらいの時点です。

セオリー的に考えれば、ここまで舞台となる『地』の全景を引っ張らることはありません。『ジョーカー』も『ジョジョ・ラビット』も『マリッジ・ストーリー』も。

たとえば『となりのトトロ』のファーストシーン。
・舞台となる緑豊かな田舎道を走る一台の車
・車の中の姉妹の姿
・車が入っていく木が生い茂る森(全景がロングで映る)

『地』をロングで映すことで、「ここでの物語ですよ~」と伝えるわけです。
いろんな映画の最初の3~5分、観てみてくださいな。

でも、ポン監督はあえて、ファーストシーンでそういう演出をしなかったわけです。それによって、

雨のシーン以前は、
半地下家族とセレブ家族という特殊な家族の物語
雨のシーン以降は、
半地下家族的な層セレブ家族的な層という階層の物語になります。

ここではじめて観客は、「え?半地下家族的な人たちって、こんなにいるの?」という現実と、「セレブ家族的な人たちって、こんなにのんきに集まれるほどいんの?」という現実を目の当たりにします。

そうなんです!
雨のシーンを境に、個別的な出来事から一転、社会的な出来事へと、観客の視点と思考をもってっちゃうんです。

これ、マジすごくないですか?
『起』であえて、地の紹介から全景を間引いたことによって、観客が目にしているものの意味を、一気に変えてしまったわけです。
『パラサイト 半地下の家族』が現代社会が抱える問題を、洋の東西を問わず感じさせることに成功した要因は、ここだ!と個人的には思うんです。

型を知って型を破る。型破りな作品!
それが『パラサイト 半地下の家族』!!

実はぼくは、最初に観た時に、この雨のシーンに強烈な違和感を持ちました。「え、半地下家族的な人たちって、韓国にこんなにいるってこと?外国人にはよくわかんないじゃん。なんで、『起』でちゃんと伝えなかったんだろう」って。

それで帰りの電車で、ファーストシーンをもう一度思い出したりして、「やっぱ描かれてなかったよなぁ……」と思いながら、ガタンゴトン地下鉄に揺られながら

「!!  意図的にしてるんだ……」

型破りとは、まさに型を知って型を破ることだ!

ポン監督、あなたはすごい〜
と思ったわけです。

あぁ~ネタバレOKになったら(なるのか?)、もっと語りたい!『パラサイト 半地下の家族』についてだけ語るイベントとか、できないかな。

みんなで話したくなる作品って、やっぱりいい作品ですよね〜


なのに『ヘヴィ・トリップ』を高評価してしまった自分への戸惑い。


シナリオ・センターの柏田講師が『パラサイト 半地下の家族』の見どころを紹介してます。こちらもネタバレなしなので、ぜひ!


オスカーつながりでこちら。助演女優賞のローラ・ダンさんの存在感に圧倒されていまいち作品の良さがわからなくなった話。


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