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教育の実施主体に関する法律④/教員に関する法律(全体像と地公法・教特法)

これまで3回にわたり、学校に関する法律を取り上げてきましたが、今回からは教員に関する法律を取り扱います。


はじめに:労働者と公務員

通常の会社であれば、労働者の地位や権利については、労働基準法をはじめとする各種の労働関連法及びこれに基づく就業規則や雇用契約等が規律していますが、これらの労働関連法と教員との関係はどのように整理されるのでしょうか。
私立の教職員に対しては、通常の会社と同じように労働関連法が全面適用され、所定の就業規則が適用されますが、国立・公立についてはやや複雑な条文構造となっています。
以下では、実務上最も重要と思われる労働基準法を念頭に話を進めます。

公務員一般と労働基準法

労働基準法第百十二条 この法律及びこの法律に基いて発する命令は、国、都道府県、市町村その他これに準ずべきものについても適用あるものとする。
国家公務員法附則六条 労働組合法、労働関係調整法、労働基準法(略)並びにこれらの法律に基づく命令は、職員には適用しない。
地方公務員法第五十八条 労働組合法、労働関係調整法及び最低賃金法並びにこれらに基く命令の規定は、職員に関して適用しない。
 (略)
 労働基準法第二条、第十四条第二項及び第三項、第二十四条第一項、第三十二条の三から第三十二条の五まで、第三十八条の二第二項及び第三項、第三十八条の三、第三十八条の四、第三十九条第六項から第八項まで、第四十一条の二、第七十五条から第九十三条まで並びに第百二条の規定(略)は、職員に関して適用しない。(略)
 (略)【注:1か月単位の変形労働時間制、休憩一斉付与の例外、代替休暇、時間単位の有休について、労働協約・労使協定要件を削除。】
5 (略)

労働基準法上は、公務員にも労働基準法の適用ありとされていますが(労基法112条)、個別の法律で適用範囲が限定されています。
まず、国家公務員は、原則として労働基準法の適用を受けません(国家公務員法附則6条。一部例外あり)。
他方、地方公務員は、労働基準法の適用を受けるものの、一部の規定が適用除外となっています(地公法58条3項)。適用除外になるのは、フレックスタイム制、1年単位・1週間単位の変形労働時間制、裁量労働制をはじめとする一部の規定のみで(58条3項)、その他の規定は(一部の規定は少し修正されたかたちで)引き続き適用されます。これについては、総務省の資料にも分かりやすくまとまっています。

教職員である公務員と労働基準法

以上が公務員一般に関する整理ですが、教職員の場合はどうでしょうか。

まず、国家公務員に労働基準法の適用がないのであれば、国立学校の教職員にも同法の適用はないように見えますが、そうではありません。国立学校の教職員は国家公務員ではないからです。国立学校には国立大学(+その附属校)と国立高専がありますが、これらの学校における教職員は、設置者である国立大学法人・独立行政法人国立高等専門学校機構との間で雇用関係を有しており、会社に勤める労働者と同じように、労働基準法が全面的に適用され、所定の就業規則の適用を受けます(ただし、刑罰との関係ではみなし公務員となる。国立大学法人法19条、国立高専機構法11条)。

また、公立学校のうち公立大学についても、その教職員は地方公務員にあたりません。教職員と設置者である公立大学法人との間で雇用関係が存在し、労働基準法が全面的に適用され、所定の就業規則の適用を受けます(ただし、特定地方独立行政法人である公立大学を除く。地方独立行政法人法47条)。刑罰との関係でみなし公務員となることは上記同様です(地方独立行政法人法58条)。

したがって、教員のうち、労働基準法が全面適用されない公務員にあたるのは、公立学校(特定地方独立行政法人設置でない公立大学を除く。)の教員だけということになります(なお、給特法の適用を受ける教員については労働基準法の適用がさらに限定されますが、次回扱います。)。
以下では、このような公立学校の教員について、さらに話を進めます。

地方公務員法と教員の特例

労働基準法は、地方公務員の身分・待遇のうち、使用者が守るべき最低限の労働基準という側面を定めた法律です(同法1条2項)。
地方公務員の身分・待遇に関する法体系は、地方公務員法を中心とする各種の法律・条例によって形成されており、労働基準法はその一部にすぎません。

地公法第一条 この法律は、地方公共団体の人事機関並びに地方公務員の任用、人事評価、給与、勤務時間その他の勤務条件、休業、分限及び懲戒、服務、退職管理、研修、福祉及び利益の保護並びに団体等人事行政に関する根本基準を確立することにより、地方公共団体の行政の民主的かつ能率的な運営並びに特定地方独立行政法人の事務及び事業の確実な実施を保障し、もつて地方自治の本旨の実現に資することを目的とする。
第五十七条 職員のうち、公立学校(略)の教職員(略)については、別に法律で定める。(略)

地方公務員法の守備範囲は1条(太字部分)に示されています。
このように広範な事項について定める地方公務員法ですが、教員である公務員については、いくつかの特例法が別途定められています(57条)。
そのうち最も影響の大きい特例法が、教育公務員特例法です。

教特法第一条 この法律は、教育を通じて国民全体に奉仕する教育公務員の職務とその責任の特殊性に基づき、教育公務員の任免、人事評価、給与、分限、懲戒、服務及び研修等について規定する。

両者を比べてみると、地方公務員法の守備範囲の大部分が、教育公務員特例法の守備範囲に重なっていることが分かります。地方公務員法と教育公務員特例法が同じ事項について定めている場合、教特法が優先するので(地公法57条)、地方公務員法の規定は教育公務員特例によってかなり修正されていることになります(詳細は後述)。

その他の特例としては、教員の長時間労働との関係で議論の多い「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」のほか、以下のようなものがあります。

  • 地方教育行政の組織及び運営に関する法律(主に県費負担教職員について。詳細はこちら

  • 女子教職員の出産に際しての補助教職員の確保に関する法律

  • 公立の学校の事務職員の休職の特例に関する法律

  • いわゆる人材確保法

教育公務員特例法

適用対象となる教員

第二条 この法律において「教育公務員」とは、地方公務員のうち、学校(学校教育法第一条に規定する学校及び…幼保連携型認定こども園をいう。)であつて地方公共団体が設置するもの(「公立学校」)の学長、校長(園長を含む。)、教員及び部局長並びに教育委員会の専門的教育職員をいう。
 この法律において「教員」とは、公立学校の教授、准教授、助教、副校長(副園長を含む。)、教頭、主幹教諭(幼保連携型認定こども園の主幹養護教諭及び主幹栄養教諭を含む。)、指導教諭、教諭、助教諭、養護教諭、養護助教諭、栄養教諭、主幹保育教諭、指導保育教諭、保育教諭、助保育教諭及び講師をいう。
 この法律で「部局長」とは、大学(公立学校であるものに限る。)の副学長、学部長その他政令で指定する部局の長をいう。
 (略)
 この法律で「専門的教育職員」とは、指導主事及び社会教育主事をいう。

教育公務員特例法の適用対象となる「教育公務員」については2条が定めています。
小中高を念頭に置くと、公立学校の校長・副校長・教頭・主幹教諭・指導教諭・教諭・助教諭・養護教諭・養護助教諭・栄養教諭・講師がこれにあたります。学校教育法37条で掲げられている教職員の種別のうち、事務職員を除く全てです。
逆にいうと、事務職員は「教育公務員」にあたらないので、原則どおり地方公務員法の適用を受けることになります。

主な規定

教育公務員特例法の重要な規定としては、以下などがあります。

  • 通常の地方公務員よりも兼職制限が緩和されていること(17条)

  • 通常の地方公務員よりも政治的行為の制限が厳格であること(18条)

  • 研修と修養が努力義務となっていること(21条)

おわりに

次回は、教員の働き方に関する法律を取り上げます。


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