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華のある暮らし

 いま大学4年生で、ちょうど1週間後が卒業式である。余剰単位がひとつもない、まさにギリギリでの卒業だが、卒業は卒業なので、自分をほめてあげたい。来月東京からいなくなるのは、京都の大学院に進学するからだ。私は演劇をやっていないときには数学をやっている。どちらも、やりたいことをやりつくしたとは言えないので、もうしばらくはこういう生活が続く見込みだ。
 脚本を書くときには Word の脚本用テンプレートを使っているが、数学に関する文書を書くときには LaTeX というものを使っている。これは数式と文章が混在した文書を作るときに綺麗に文字を配置してくれるシステムで、定義として Word と並列に扱って良いのかといわれるとちょっと微妙なのだが。LaTeX を使って自分の勉強の成果をまとめると、ただの板書ノートでも店売りの教科書とまったく同じ見た目になって嬉しい。賢くなった気がする。気が付いたときには5時間くらい溶けている。ネットで検索をかけると、 LaTeX で打ち込んだ自作の教科書みたいなものをアップしている人がいて、そういうのにちょっと憧れている。あと、論文を書く段になったらもっと速く打ち込めるようにならないといけないし、知識面も技術面もまだまだ修行が足りない。

「華」について


 大学2年の時、サークルの部室整理に際して使わない備品を持って行っていいという話になり、 薔薇の造花とノコギリを持ち帰った。 なんとなくそんな気分だったから、 としか言いようがない。どちらも結局使い道はなく、特にノコギリは今、捨て方に困っている。
 作り物の赤い薔薇の方は、 ずっとキッチンの箸入れに挿しっぱなしだ。 この置き場所もなんとなくで決めて定着してしまっただけで、 特に意味はない。 鍋にお湯が沸くのを待っている間、薔薇とにらめっこしている。残念ながら優雅な気持ちにはならない。
当たり前なのだけど、 造花は枯れないし色褪せない。 この部屋で彼だけが過去の記憶を保ったままそこに在る気がする。 あるいは、 彼の中では製造時から時間が止まったままで、 部室の記憶もこの部屋の記憶もまったく蓄積されていないのか。 いずれにしても、 京都には捨てずに持っていくつもりだ。 向こうは食事付きの学生寮でキッチンがないから、 にらめっこの時間が増えることになる。私と彼と、どちらが新居の華になれるか、勝負だ。

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