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トランプ大統領・ブレグジット・その他「現代世相の奇怪さ」の正体を見事にとらえた究極の一冊を発見!『なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか』

「読書好き」と公言しながら、ラテンアメリカ文学や太平記や水木しげるにすっかり埋没している最近ですが、本当に久しぶりに、現代社会を読み解く「いわゆる新刊」を購入しました。何を隠そうAMAZONにレコメンドされたから買ったものなのですが(!)、悔しいけれどこの本を私にレコメンドしたAMAZONはやっぱりすごいと言わなければいけない。まったく知らない著者の本なのに、ウウムと何度もうなってしまう、見事な読み応えでした。

よって、ここにて、私からも推薦させてください!

まず本書のテーマは、「現代社会はアイデンティティの分断の時代である」という著者自身の仮説の検証が前半、そして後半が、「ではそんな、アイデンティティ分断の時代に対して、私たちはどのように生きればよいのか」という処方箋の提案、となります。いろいろな「現代社会に警鐘を鳴らす」系統の本が、「現代はこういう意味で、よくない」という話だけをして、「ではどうすればいいのか」の提案がない昨今にあって、本書ではちゃんと「そういう時代なので、みなさんはぜひ、こう生きるべきだと思う!」の提案が最後に述べられている。この態度がまず素晴らしい!

「アイデンティティ分断」とは何か?

それは、マーケティング技術の先鋭化が生み出した、社会のセグメント化の帰結です。昔から、「白人対黒人」とか、「男性対女性」とかの対立はありました。ですが現代は、少し様子が違っています。

例をあげましょう。現代では、マーケティングテクノロジーの発達によって、「韓国を嫌う本が好きなグループ」とか「そんな『韓国を嫌う本を読んでいる人たち』を嫌うグループ」とかいったように、個々人の政治主義主張までもがビジネスと結び付けられ、「前者には嫌韓本を売り、後者には嫌韓本を批判する本を売ろう」というようにAIが判定してしまう。つまり現代ビジネスでは、「嫌韓本を好むグループと、『そんな嫌韓本を好む人々』を嫌うグループとが、分断されて、日々ケンカをしてくれているほうが都合よい」ということになる。

アメリカの例でいえば、「トランプ支持者」と「反トランプ主義者」が激しく嫌い合っている状況こそ、「前者にはこういうアプローチの情報を与え、後者にはこういうアプローチの情報を与えましょう」という戦略が立てやすいので、政治家(特に選挙対策チーム)にも、ビジネス界にも、知識人にもたいへん都合がいい

皮肉なことに「民主主義国家では、誰もが自分なりの政治的な意見を持ち、きちんと主張できるようにしましょう!」という教育の帰結が、「俺はトランプ支持だ!」「俺は反トランプだ!」という、相互に聞く耳を持たない激しい社会対立を生み出し、それが支配者側にも(実は)都合がいいので誰もその対立を止めようとしない。ゆえに、成熟した民主主義国家こそが「保守対リベラル」の政治的な意見の隔たりで、社会が疲弊し、崩壊していく、という自滅の道をたどるという、恐ろしい帰結が導かれます。これは、アメリカやイギリスが先んじてこの道をたどっているというだけで、近々で日本を含めた他の民主市議国家にも波及してくる危機だと予想しています。怖い。

では、私たちはそんな時代にどうすればいいのか?

いくつかの提案がありますが、特に私にビビッときたところを抜き取ると、

「アイデンティティの分断」自体は、インターネットがここまで進歩した現代において、避けられない宿命である。よって、「こんなふうになるなら、昔の、メディアが発達していない前近代的な世界のほうがマシだった」などとは、思わないこと!現代の危機は成熟した社会の宿命であると、前提条件として受け入れること
・問題は、せっかく自分なりの政治主義や主張を選べる時代なのに、けっきょくはメディアの押し付けてくるいくつかの選択肢の中の1グループを受動的に受け入れてしまっている、ということなのだ(アメリカでいえば、「トランプ賛成か?反対か?」という議論に載ってしまっている時点で、実は踊らされているのである!)
・よって大事な点は「押し付けられるアイデンティティから選ぶ」のではなく、「せっかくこれだけたくさんの選択肢がある時代なのだから、ゆっくり、自分なりのアイデンティティを自分で選んでいく」という生き方を守ること。アメリカの例でいえば、大事なのは、「トランプ賛成とかトランプ反対とかじゃなくて、もっと広い、アメリカ以外の世界も見て生き方を選ぼうぜ!」と言えるかどうか、である
・そのための武器は、結局は「できるだけたくさんの情報源や本に触れよう」ということである。これだけたくさんの情報や本を読める時代なのだから、その好みを、なるべく偏らせないこと!

ちょっと私の整理が入っちゃっているので、人によっては別の帰結をこの本から読み取るかもしれませんが、ともかく、私はこのように本書を読み、おおいに首肯しました。最後に「結局は多読が武器だ」という結論が入っているのも私の好み。これが「Amazonにレコメンドされてこの本を買った」という、私もどこかでどうしてもAmazonに踊らされていることへのわずかな罪滅ぼし。。。

ともかく、このように現代を読む上でたいへんに刺激的な視点を提供してくれる本です!ぜひ、オススメします!



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子供の時の私を夜な夜な悩ませてくれた、、、しかし、今は大事な「自分の精神世界の仲間達」となった、夢日記の登場キャラクター達と一緒に、日々、文章の腕、イラストの腕を磨いていきます!ちょっと特異な気質を持ってるらしい私の人生経験が、誰かの人生の励みや参考になれば嬉しいです!