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“はたらくをデザインする” リモートワークという働き方をリベラルに捉えること

この約1ヶ月、新型コロナウィルス感染拡大以降、テレビやスマホの画面からリモートワークという単語を見ない日聞かない日はありません。こんな形でリモートワークの普及が加速するとはいったい誰が想像したでしょうか?

いまおいかぜではほとんどのスタッフは自宅リモートワークで仕事をしてくれています。新型コロナウィルス感染拡大防止対応としてのおいかぜのリモートワークはとてもうまくいっています。うまくいっている理由、そして”ほんとどのスタッフ”と書く必要のあるおいかぜの事情、そんなことを絡めながらボクなりのそしておいかぜなりのリモートワーク術、リモートワークに対する考えを整理してここに書き留めたいと思います。長くなってしまったので、お時間あるときにゆっくり読んでもらえると嬉しいです。

この内容は、いまこの時点の手法や考えであり、この先必要に応じて変えていくことだと思っています。

1、はじめに

新型コロナウィルス感染拡大防止対策におけるおいかぜでのリモートワークは、ここ京都で感染クラスターが発生したと発表された2020/3/30(月)、その日の午前中から自宅でのリモートワークに切り替えました。

正確に言うと、本社に出社しているスタッフは自宅でのリモートワーク、客先に業務委託で出向しているスタッフは客先の方針に従いつつ、自宅でのリモートワークを推奨するという指示でした。

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この説明をもう少し詳しくするために、おいかぜの組織の構造のお話をしておきます。おいかぜは大きく2つの事業部に分かれています。ウェブデザインやグラフィックデザインを主業務とするプロダクション事業部、ITインフラ(サーバ・ネットワーク・クライアントPC環境)の構築・運用・保守を主業務とするプラットフォームソリューション事業部の2つの事業部です。プロダクション事業部のスタッフは京都・西院にある本社に出勤して仕事をしています。一方プラットフォームソリューション事業部は、本社へ出勤しているスタッフと、客先に日々直行直帰している業務委託担当のスタッフがいます。全スタッフ30名程度のうち20数名が本社勤務、10名弱が客先勤務ということになるわけで、同じおいかぜのスタッフでも今回の対応が変わってくることになります。本社ではボクが全てを判断・決定して指示することができますが、業務委託先については、お客さんの方針を尊重しつつ判断や決定をする必要があるのです。

2、今回の件でのおいかぜのリモートワークはうまくいっているのか?

結論からいうと、おいかぜのリモートワークはとてもうまくいっています。些細な問題は発生しているかもしれませんが、大きな問題は発生していません。なぜうまくいっているのか、ボクなりに分析をしてみました。順を追って説明します。

- 2-1、おいかぜのリモートワーク制度

おいかぜではリモートワークを2種類に区分しています。取得型リモートワークと会社指示型リモートワークです。取得型のリモートワークとは有給休暇のようなかたちで勤続年数に応じて、リモートワーク取得日数を付与しています。事前に「この日は自宅で作業したいな」「どこか他の場所で集中したいな」となれば、前月末までに申請してリモートワークをする、というような流れです。一方会社指示型リモートワークは、例えば台風のような災害のときに適用となります。そういう場合は往々にして事前に「明日は出社できそうにないな」とわかることが多いので、前日に自分のノートパソコンを自宅に持って帰ってもらって、総務の判断で当日の朝にリモートワークに切り替えてもらいます。今回の新型コロナウィルス感染拡大防止対応についても会社指示型リモートワークが当てはまります。

- 2-1、助走期間

おいかぜのリモートワーク制度は2017年に就業規則に組み込む形で導入しました。取得型リモートワークについては、導入当初から就業年数や等級に応じて取得方法を調整してきました。今回の有事までの3年間でゆっくりと助走をしてきた、そのように考えてもいいかもしれません。

取得型リモートワークの浸透には時間がかかりました。どうしても事務所で作業をする必要がある、自宅に作業環境がないということもあったかもしれません。ただ直近1年については、ばらつきはあるものの、ほとんどのスタッフが取得をしてくれていました。

会社指示型リモートワークは前述のとおり主に台風が接近した際、あとは2018年の大阪府北部地震の際にも適用となりました。3年間、フローと連絡系統が整う程度の回数を重ね、今回のスムースな対応の布石となったことは間違いありません。

- 2-2、環境整備

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全てを同時に準備してきたわけではありませんが、おいかぜのリモートワークを支えている環境について説明します。最近お客さんから「リモートワークどうやってるんですか?」って質問をたくさんもらっていて、ここの説明がいま一番みなさんの役に立つのではないでしょうか。

・作業用パソコン
おいかぜでは7年前からスタッフ全員に会社からノートパソコンを支給しています。プロダクション事業部はMacBookPro、プラットフォームソリューション事業部はWindowsのノートPCかタブレットです。普段事務所で作業する際は、ノートパソコンでは画面が小さいという人もいるので、外部ディスプレイも支給しています。

・ストレージ(ファイルなどの保存先)
ファイルの性質に応じて、2種類のストレージを使い分けています。お客さんの案件のためのファイルや個人情報を含むような機密性の高いファイルについては社内のファイルサーバを利用しています。細かい性能は省きますが冗長性や保守性は当然考えていて、社外から「まるで社内にいるように」社内のネットワーク環境が使える素敵な技術、VPN接続で使うことも多々あるので、ネットワークの帯域についても考慮して設計・構築しています。それ以外にも、おいかぜではG-Suiteを採用していて、個人用・案件用でクラウドのストレージも使っています。

あともう一つ、おいかぜらしいなぁと思うものを紹介します。

firestorageのようなファイル転送サービス、これってとっても便利なんだけど、セキュリティのことが気になりませんか?おいかぜはサーバもセキュリティもプロフェッショナル。ファイル転送サービスを自前で用意しています。自分のアカウントで転送したファイルの保存も可能なので、ファイル送付のログにもなり期限切れの再送も楽ちんです。

・勤怠管理
クラウドサービスのスマレジ・タイムカードを使っています。多拠点管理に向いていたこと、打刻の際の端末制限が設けれたことが、うちの管理方法に合ってい採用しています。支給したノートパソコンからなら、どこからでも打刻が可能なのでリモートワークにはもってこいです。ちなみに経費精算はGoogleスプレッドシートです。

・コミュニケーション
基本的にはslack(チャットツール)でコミュニケーションをとっています。理由はプログラムやHTMLのコードをそのまま貼れるから。案件では必要に応じてbacklogなどを使います。やりとりの精度を上げるためにGoogleスプレッドシートやGoogle Docsを併用します。サイト制作などで使うプロジェクト管理ツールや業界に特化したようなツールはここでは省きます。平時はもちろん直接の会話がここにプラスされますが、そのほとんどをこれらのツールで代替できるようにしています。

今回の有事では時間を決めて開催する会議はGoogle Hangout Meet、さくっと開催されるミーティングはwherebyかSlackのグループ音声通話を使っています。電話はほとんど使いません。

うちは平時に隣の席にいる人とチャットで話すような会社ですから、このあたりは何の問題もなくコミュニケーションが続いています。

・見積書→請求書→売上管理
boardというクラウドサービスを使っています。1年前くらいまではボクが創業当初に作ったワードとエクセルの差し込み印刷の仕組みをバージョンアップを繰り返して使っていたのですが、見積書作成業務を担当する人数が増えたことで同時に多人数で使えるように仕組みを入れ替えました。(こういう基幹業務の仕組みって入れ替える心理的、業務的負荷がとても高いのです…時間がかかる!)

細かな売上分析や売上原価管理はboardだけではできないので、データを抽出してあとは適宜MSエクセルで用途に応じて作ります。

・通信環境
ストレージの項目でも書きましたが、社外から「まるで社内にいるように」ネットワークを使う必要がでてくるのでVPNという環境を準備しています。社内のIPアドレスからしか繋げないお客さんのサーバがあったり、普通には外部から接続できない社内のファイルサーバにアクセスしたいとき、VPN環境が整っていれば、とてもセキュアに「まるで社内にいるように」接続できるわけです。

・セキュリティ対策
クライアントパソコンにアンチウィルスソフトを入れることなどは当然として、おいかぜでは「プライバシーマーク」を取得しています。セキュリティホールはヒューマンエラーで発生することが多い。リモートワークが発生すると個人情報の取り扱いについて、より慎重にならないといけないと思い、こちらも3年前に取得しました。個人情報自体の取り扱いはもちろん、ノートパソコンの管理や持ち出しについてPDCAを回して会社全体の個人情報の取り扱いについてのリテラシと意識の底上げをしてきました。

・承認フローと押印文化
承認フローはシンプルです。事業部長やチームリーダーは存在しますが、彼らは基本的には業務や案件のことで決定権と決裁権を持っています。総務・経理・労務に関することや日常のいろいろなことは、バックオフィス担当のスタッフがハブとなって決まりや制度や仕組みで打ち返せるようにしています。もし打ち返せない場合にはボクが都度判断をします。

社内での押印でのやりとりは最低限に抑えています。理由は非合理だから。そしてボクが押印文化が好きではないからです。社員のリソースを押印に使うことの意味を感じません。最近ニュースなどでも話題にあがっているとおり、社外との契約書などでの押印は例外です。

・運用ポリシーやルール
上記の項目それぞれに細かい運用ポリシーやルールや工夫があります。ファイルサーバのフォルダやファイルの命名規則やパソコンのマシン名をどうやってつけるかとか、VPN接続方法のマニュアルだとか挙げ始めたらキリがありません。細かいところでは、遅刻や欠勤の際の連絡方法をSlackで行っているのですが、全体のグループに「休みます!」って送るのはシンプル過ぎるなので、Slack内で承認フローのプログラムをつくっています。こういう工夫もたくさんあります。ハードウェアやシステムは大事だし、そこが無いと始まらないのですが、実はこの「運用ポリシーとルールと工夫」がとても大事です。「どうやったら運用に乗るか」「どうやったら使い続けられるルールになるか」ということに関してはボクを始めとして一過言ある人ばかり。なんでも決まりをつくって、その決まりを検証しながら、アップデートさせ続けています。

- 2-3、業界の性質と会社の性質

リモートワークに向き不向きな業界があるということは、よく報道されています。そのとおりだと思います。おいかぜはリモートワークに向いている業界・業種です。ウェブサイトや印刷物のプロダクション・制作会社は、やりとりはインターネットのサービスを経由することがほとんどですし、ITインフラの業界でいうと、そもそもインターネットの基盤をつくる仕事なわけですから、向いていないわけはありません。

そして、おいかぜはリモートワークを導入するのにも、実施するのにも向いています。導入するのはプラットフォームソリューション事業部、実施するのは主にプロダクション事業部です。ITインフラの環境をつくる、運用ポリシーやルールをつくるプロフェッショナルがリモートワークの基盤をつくって、その基盤を駆使して仕事をすることが得意なプロダクション事業部がリモートワークを実施するというような構図です。

もっと掘り下げると、ボクは体の半分がプラットフォームソリューション事業部で、残りの半分がプロダクション事業部です。ボクの思考がリモートワークを導入して実施することに向いている、特化していると言っても過言ではないわけです。

3、おいかぜのリモートワーク制度の課題と改善

ここまでとても良いことばかり書きました。良いことばかりではありません。おいかぜには2つの大きな課題があります。

- 3-1、自宅の環境整備

今回の有事のようなリモートワークの長期化を想定していなかったため、自宅の作業環境についてきちんと聞き取りができていませんでした。自宅の作業環境をどういう位置づけで捉えるかは難しいのですが、仮に会社の作業環境と同等だとみなしたとき、何かしらのサポートが必要だと考えています。

みんなの自宅の作業環境の椅子や机を会社の備品にするわけにはいかないと思うので、今後は金銭的な補助をするなどのサポートを検討していきます。ただこれは長期的な視点に立った対応です。取り急ぎの今回の有事の対応としては相応しくないと考えました。

2020/04/20(月)の段階でおいかぜの今回の有事におけるリモートワークの対応は次のフェーズへ移行しました。5/6(水)までの緊急事態宣言の対象が全国になり、京都府が特定警戒都道府県に指定されたことが理由です。自宅リモートワークが長期化することを考慮して、スタッフの作業環境確保と心理的負荷の軽減のために以下の3つ施策を打ちました。幸いなことにおいかぜで働いてくれている人(社員・アルバイト・パートナーさん含む)の半数以上は本社のある西院・壬生エリアに住んでいて、その前提での施策です。

a) 本社近隣のホテルの1室の利用

本社のある西院の近くの梅小路エリアにアートホテル&アートホステル KAGAN HOTELがあります。

4/20(月)から5/6(水)までおいかぜのスタッフ(社員・アルバイト・パートナーさん)がリモートワークの作業場所として使えるように、このHOTELのシングルルームの1室を貸していただきました。

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生活環境と作業環境分けることができる人はいいのですが、この終わりの見えない状況が続いたとき「もしボクが一人暮らしでワンルームマンションに住んでいたりしたら詰まるよなぁ」と考えていました。自宅とは違う、そして会社とも違う作業環境を用意することで心理的負荷が下がればと思い、立地・部屋の快適さ・価格など総合的に判断してKAGAN HOTELさんにお願いすることにしました。雨さえ降っていなければ自転車や徒歩でスーッと行ける距離がとても良い。

このKAGAN HOTELさん、この有事を乗り越えるために「#STAY_BIG_HOME」と題して、さまざまなホテル利用を提案してくださっているので、ぜひ相談してsみてください。エントランスやカフェやギャラリー、そしてもちろんホテルの部屋もとても素敵な空間です。

b) oikazeCUBE(自社の打ち合わせ・会議・イベントスペース)の利用

普段は打ち合わせ・会議・イベントで利用している、自社のフリースペースoikazeCUBEをおいかぜのスタッフ(社員・アルバイト・パートナーさん)に開放しました。

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開放した理由はKAGAN HOTELと同じです。普段のデスクとは環境が違いますが、1人の空間を確保できることで、心理的負荷が下がればと考えました。アプリ登録していればNFCで開錠・施錠できるakerunを利用しているのでNFC対応のスマホでユーザー登録さえしていれば社員・アルバイト・パートナーさん関係なく利用できます。ちなみにオフィスはセコムを利用しているので、フリースペースとセキュリティレベルをわけて運用ができます。

c) aやbが自宅から離れている場合

西院・壬生エリア以外に住んでいない遠方の人はKAGAN HOTELやoikazeCUBEを利用できません。スタッフの作業環境確保と心理的負荷の軽減という意味では遠方の人も同じ。都度相談にはなるのですが、自宅近くの作業場所として使えそうなホテルなどを会社の費用負担で利用してもらうようにお願いしています。

- 3-2、リモートワークの格差

おいかぜで言うところの「客先に業務委託で出向しているスタッフ」は平時の「取得型リモートワーク」をほとんど取得できません。そして「会社指示型リモートワーク」も適用できない場合もあります。なぜなら客先の方針に従う必要があるからです。客先の方針でリモートワークの指示が無ければ、おいかぜにリモートワーク制度があっても適用できません。客先常駐でお仕事をさせていただいているので、それは当然のことであり、今回の有事で「客先の方針に従いつつ」としたことも当然だと思っています。

一点補足をしておくと、2020/4/27(月)の段階では客先勤務については自動車通勤をしているスタッフを中心にシフトを組み、自家用車を持っていないスタッフの通勤における感染リスクと心理的負荷の軽減を図っています。自動車通勤時のガソリン代と駐車場料金は会社負担です。ただ根本的な感染リスクと心理的負荷の軽減にはなっていないため、今後の情勢に合わせて対策を行なっていきます。

ただ視点を社内に戻したとき、本社勤務のスタッフと客先勤務のスタッフとでリモートワークについての格差が生まれます。有事以前の3年間、取得型リモートワークの浸透期であったこと、会社指示型のリモートワークについても近地域での災害であり平等な適用であったため、格差はあまり感じられませんでした。ただ制度に欠陥があることにボクは気付いていて、まさにリモートワーク制度の改訂に着手していた矢先のこの有事で決定的な課題として浮き彫りになりました。

つまり、
・取得型リモートワークを取得することのできる人とできない人がいる
・会社指示型のリモートワークを適用できる場合とできない場合がある
ということです。

実はここに
・取得型リモートワークを取りたい人と取りたくない人がいる
ということも考慮に入れないといけないと思っています。「会社以外で仕事するつもりはないんですよね」という人もいるのです。

いま、ボクはこの課題を解決するために制度の見直しをしています。具体的には「リモートワークをする・リモートワークができる」ことのメリットを、「リモートワークをしない・リモートワークができない」人たちの何に置き換えるかを模索しています。「会社指示型リモートワーク」の格差是正、「取得型リモートワーク」の選択制を仕組みに取り入れる作業でもあります。

また制度の見直しという点で言うと、出産時リモートワーク制度の導入も進めています。これは男女問わず産休育休とは別に出産前後にリモートワークができる制度です。女性の場合は産休育休を、男性の場合は育休を取得することが多いのですが、これからは働きながら出産育児をすることも多いんじゃないかと思い制度化するつもりです。これは奥さんの出産をサポート、そして育児を一緒にしたいけれどいつもどおり働いていたいと、ある男性スタッフが相談してくれたことがきっかけです。取得型リモートワークの選択に関わらず、出産育児の全ての機会に取得できるリモートワーク制度です。

4、リモートワークという働き方をリベラルに捉えること

最後にボクが考えるリモートワークの本質、リモートワークの捉え方について、少しお話しできればと思います。

いまこの有事において、リモートワークができること、リモートワークをすることが望まれています。当然です。新型コロナウィルス感染拡大防止の観点に立てば反論の余地はありません。そしてこの有事以降、リモートワークという働き方がいよいよ本格的に市民権を得ることになりそうです。まだ何も先の見えない今日ではありますが、仮に新型コロナウィルス収束がやってきたとき、リモートワーク万歳、リモートワークは素敵な働き方と諸手を挙げて喜ぶべきでしょうか?ボクはそれは違うと思っています。

リモートワークというのは一つの働き方であって、働き方の多様性の一部なのです。個人の事情、会社の都合、世の中の出来事、働く人の役割。リモートワークをしたい・したくない、リモートワークができる・できない、の必要に応じて選択したり適用する(できる)働き方の一つです。

いまリモートワークという働き方に向き合い、みなさん一所懸命に取り組まれていると思います。新型コロナウィルス収束以降、リモートワークという働き方がリベラルに、そしてリモートワークが働く人たちの“おいかぜ”になればいいなと願いつつ結びとさせていただきます。





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