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自閉症研究の歴史と原因論①

SBSK自然分娩推進協会では、代表の荒堀憲二(産婦人科医師)よりメルマガを配信しています。
今回は、2024.04.29配信のメルマガ内容です。


前回に引き続き、「自閉症の子どもたちと”恐怖の世界”」(白石勧著 花伝社 1500円)より
※私の独断で白石さんの電子書籍を一部編集しています。よく知りたい人は白石さんの原著書をご覧ください。

第1章 自閉症の原因

1-1. 自閉症とは

自閉症研究の先駆者は、アメリカのレオ・カナーとオーストリアのハンス・アスペルガーである。

■レオ・カナー(1894-1981)

1943年、アメリカの児童精神科医レオ・カナーが『情動的交流の自閉的障害』という論文で11名の子どもを報告。

これが世界で最初の自閉症の論文で特徴は、「孤立」と「同一性の固執」。「孤立」というのは、人を求めないで人を避けるという特徴。

自分の世界に閉じこもり、邪魔されることを嫌い、また、母親にも愛着を示さなかった。

同一性の固執」というのは、道順や、日常の行動の順序や、家具の位置などが同じであることに固執するという特徴。散歩の道順はいつも同じでなければならず、変えようとすると泣き叫んで抵抗した。

言葉にも問題があった。8人の子どもは話すことができたが、自分のことをアイ(わたし)と言わないでユウ(あなた)と言うなど、話し方が不自然だった。
残りの3人は話すことができなかった。しかし、3人のうちの1人は「おやすみなさい」と1回だけ言ったことがあった。

カナーは、言葉の問題は「孤立」と「同一性の固執」から生まれると解釈していた。

カナーは「孤立」と「同一性の固執」という2つを自閉症の診断基準にした。現在カナータイプの自閉症、典型的自閉症、重度の自閉症、重度の知的障害をともなう自閉症などと呼ばれている。

■ハンス・アスペルガー(1906-1980)

1944年、オーストリアの小児科医ハンス・アスペルガーが『子供の「自閉的精神病質」』(ウタ・フリス編著、1996)という論文を発表。
(1981年にイギリスの自閉症研究者ローナ・ウィングがこの論文を紹介したことで、英語圏でも知られるようになった。)

アスペルガーはこの論文で、大人のような話し方をする4名の子どもを報告した。

最初に紹介した子どもは、小学校に入学した初日、教室内を平然と歩き回り、コート掛けを引き倒そうとした。その日のうちに「教育不能」と見なされ、小学校から紹介されてアスペルガーの所にきた。
アスペルガーがいたウィーン大学小児科病院の入院施設では、医師、看護師、教師、セラピストがチームを作って治療教育をおこなっていた。
そして、教育不能といった理由で学校から紹介されてきた自閉症の子どもたちを学校に復帰させていた。
その中には、若くして天文学の教授になった人もいた。

アスペルガーたちの治療教育は、
社会的適応も知性として教える、けっして怒らない、客観的事実として伝える
で、また、彼らを教育できるのは理解と愛情を注ぎ思いやりとユーモアまでも示せる人に限られるなど、現在でも学ぶべき点が多い。

アスペルガーが論文で紹介した4名の子どものような言語能力に遅れのない自閉症は、アスペルガーの名前をとって、アスペルガー症候群、あるいは単にアスペルガーと呼ばれている。

1-2. 自閉症の原因論の変遷

(冷蔵庫マザー説と遺伝子説)

■冷蔵庫マザー説

カナーは1943年の論文では、自閉症は生まれつきだと解釈していた。

しかし、自閉症の子どもの両親は非常に知的だった。報告した自閉症の子ども11人のうち10人の父親は大卒だった。また、11人のうち9人の母親は大卒だった。残り2人の母親も、秘書と書店の経営者だった。
さらにカナーは自閉症と診断した子ども100名の家族を調べた。
親は全員が知的で裕福だった。子どもの両親、祖父母、叔父と叔母、計973名に精神疾患の問題はなかった。

そこで、カナーは親の性格に注目した。
心理学を専攻して大学を卒業した母親は、子どもは科学的に育てられるべきで、スケジュールに従って授乳すると決めていた。

また、感染症から子どもを守るために、子どもになるべく触れないようにしていた。
⇒このことは後章で、新生児室のあり方に関係してきます

カナーはこのような子育てをした高学歴で成功した親の性格を、知的で冷静な性格=冷たい性格、と解釈した。
そして、親の冷たい性格と子どもの生得的要因が結合して、子どもが自閉症になったと解釈した。

さらにアメリカのブルーノ・ベッテルハイムが、母親の冷たい性格が原因で子どもが自閉症になったという説を出した。

こうして生まれたのが自閉症の「冷蔵庫マザー説」である。
そして、母親が責められるようになった。

■冷蔵庫マザー説への反論

1964年、息子が自閉症だったアメリカのバーナード・リムランドが『小児自閉症』という本で冷蔵庫マザー説に反論した。

  • 劣悪な養護施設で育てられた子どもに現れるホスピタリズムと呼ばれている障害は、自閉症の障害とは異質である。

  • 自閉症児の母親の約10%は明らかに温かい人柄である。

  • 母親が冷たい性格だと考えられているケースでも、自閉症の子どもの殆どの兄弟は自閉症ではない。

  • 二卵性双生児よりも一卵性双生児の方が自閉症の一致率が高い。

こうして生まれたのが、遺伝子説である。

■遺伝子説

二卵性双生児の自閉症一致率は2~5%だったが、一卵性双生児の自閉症一致率は40~90%。したがって、自閉症の原因は環境ではなく遺伝子だと考えられた。
そこで、世界中で多くの研究機関が自閉症遺伝子の研究を始めた。しかし、自閉症遺伝子といった単独の遺伝子は見つからなかった

現在、自閉症は1000個ほどの遺伝子が関与している多遺伝子障害だと考えられている(ベルトラン・ジョルダン、2013)。
しかし原因遺伝子が1000個も出てきたら自閉症の原因解明が進んでいるとは言えない。
自閉症は一卵性双生児の方が二卵性双生児よりも一致率が高いからといって、遺伝子が原因とは言い切れない。
一卵性双生児でも自閉症の一致率は100%ではない。

自閉症の遺伝子説は、50年以上世界中で研究されてきたが、いまだに証明されていない仮説である。

では次回に続きます。


白石氏の電子書籍の目次は以下のとおりです。
※なお、本記事は白石氏の了承のもと公開しております。

第一部 自閉症の原因と予防
  第1章 自閉症の原因
  第2章 刷り込み
  第3章 新生児室
  第4章 自閉症予防の5カ条
第二部 自閉症の正しい理解と支援
  第5章 自閉症の正しい理解
  第6章 後期発症型の自閉症
  第7章 恐怖症の治療
  第8章 恐怖症の治療と教育


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