お産と自閉症 刷り込み①
SBSK自然分娩推進協会では、代表の荒堀憲二(産婦人科医師)よりメルマガを配信しています。
今回は、2024.05.04配信のメルマガ内容です。
前回に引き続き、「自閉症の子どもたちと”恐怖の世界”」(白石勧著 花伝社)より。
今回は刷り込みです。
※白石さんの電子書籍に割愛、太字等の変更を加えています。もっとよく知りたい人は白石さんの原著書をご購入ください。Amazonで税込み1650円です。
これまでをまとめてみると、
「母親への信頼は刷り込みである。刷り込みがないと信頼がおけず、母親への甘えもなく、傍にいても安心できず不安が生じ、さらには恐怖を感じるようになる。恐怖のために同一性に固執し孤立する。」
これが自閉症の病理、ということです。
では自閉症と刷り込みについてもう少し探ってみよう!
2-1. 刷り込み
ローレンツは野生のハイイロガンの卵10個をガチョウに抱かせた。
最初のヒナが孵化すると、ローレンツはそのヒナを取り出して見ていた。やがて、ヒナは首をもたげてローレンツを長い間見つめた後、ピーピー鳴きだした。
ローレンツがその鳴き声に応えると、ヒナは首を前に伸ばしてローレンツに挨拶を始めた。ローレンツはガチョウの翼の下にもどして立ち去ろうとした。
しかし、ヒナは泣きながらローレンツの後を追いかけてきた。ローレンツはこのヒナをマルティナと命名し、我が子のように育てた。(ローレンツ、1996, pp.33-35)
孵化したばかりのヒナが、ローレンツを母親とみなして後を追いかけてきたのである。
この不思議な現象を生み出したものを、ローレンツはインプリンティング(刷り込み)と名づけた。
刷り込みは、生まれて早期に見た動く対象を母親とみなして後を追いかけるようになる学習だと考えられている。しかし、ローレンツを刷り込んだマルティナが、髭をはやしたローレンツと、金髪の女性を区別できるようになるのに3週間以上かかった(動物行動学、下 p.342)。
頼るべき母親を特定するには、ある程度の学習が必要である。しかし自然界では、ハイイロガンのヒナは孵化後2~3日で母鳥を特定する。
■ 刷り込みの特徴
刷り込みは受身で接するだけで生まれる
刷り込みは、世話をするといった特別なことをしなくても、受身で接するだけで生まれる。ただし、種によって条件が異なる。
ハイイロガンのヒナは、ヒナの鳴き声に応答する必要がある。
刷り込みが生まれる条件が満たされていると、刷り込みは数秒で生まれる。刷り込みは一目ぼれのようなものである。刷り込みは変更するのがきわめてむずかしい
刷り込みは変更したり取り消したりするのが非常にむずかしい。刷り込みは狭い発達段階に限定されている
刷り込みには、刷り込みをしやすい感受期と、それ以上遅れると刷り込みができなくなる臨界期がある。
ティンバーゲン(2000)によると、ガンのヒナの場合は完全な刷り込みができるのは孵化後18時間まで。18時間を過ぎると、刷り込みは不完全になり、36時間を過ぎると、刷り込みはできなくなる。
ただし、カラスのような巣のなかに長く留まる晩成種の鳥は、巣立ちをするころに親を刷り込む。巣立ちをする前のカラスのヒナが巣から落ちているのを拾って育てると、カラスのヒナは人を親として刷り込む。高等な種ほど多くの脳の機能が刷り込みによって生まれる
原始的な種ほど多くの脳の機能が本能として生得的に備わっている。そして、高等な種ほど多くの脳の機能が刷り込みによって生まれる。(人間は最も高等な種である)
■ 刷り込みの機能とは
親を特定すること:
ナイチンゲールという鳥は、孵化したときから人が育てても育てた人を母親とみなさない。鳥籠から出すと逃げてしまう。しかし、ほとんどの鳥は刷り込みによって頼るべき母親が決まる。
ただし、ハイイロガンのヒナは、人を刷り込むとほかの人でも母親になれる。種を特定すること:
ハイイロガンのヒナは刷り込みによって、はじめに自分が属する「種」を特定する。その後、その種のなかから頼るべき「母親」を特定する。
一部の原始的な種は生得的に自分が属する種が決まっているが、ほとんどの種は刷り込みによって自分が属する種が決まる。仲間の種を特定すること:
ほとんどの鳥は刷り込みによって仲間の種が決まる。自分とおなじ種でも、その種を刷り込まないと仲間と見なさない。
ハイイロガンは仲間と群れを作る鳥だが、ローレンツが刷り込みを妨げた2羽のハイイロガンを囲いに入れるとお互いにできるだけ遠く離れて座った。繁殖相手の種を特定する(性刷り込み)こと:
一部の高等な種は刷り込んだ種から繁殖相手を選ぶ。これは「性刷り込み」と呼ばれている。ローレンツを刷り込んだマルティナはオスのハイイロガンとつがいになったが、ローレンツが飼っていたコクマルガラス嬢は隣の家の少女に恋をした。本能だと考えられていた繁殖にも刷り込みがかかわっている。となるとLGBTQも関係あるのだろうか?自分の種への共感能力が生まれること:
ハイイロガンの自分の種(ハイイロガン)への共感能力は、自分の種を刷り込むことによって生まれる。
オスのハイイロガンは、求愛の初期に、メスのハイイロガンに見せかけの攻撃をする。メスのハイイロガンは求愛のための見せかけの攻撃なのか本当の攻撃なのか正確に読みとる。
しかし、刷り込みを妨げられたメスのハイイロガンは本当の攻撃を求愛と誤解し、オスのハイイロガンに求愛をした。刷り込みを妨げられたハイイロガンは自分の種への共感能力に障害が生まれた。
■ まとめ
刷り込みは母親を特定する学習だと考えられている。しかし、刷り込みには、母親を特定するだけではなく、自分が属する種や、仲間の種や、繁殖相手の種を特定する機能がある。また、自分の種への共感能力が生まれるという機能がある。
逆に刷り込みが障害されれば、これらの機能に混乱が生じることが推定される(荒堀)。
次回は哺乳類の刷り込み、その次が人の刷り込みへと続きます。
白石氏の電子書籍の目次は以下のとおりです。
※なお、本記事は白石氏の了承のもと公開しております。
第一部 自閉症の原因と予防
第1章 自閉症の原因
第2章 刷り込み
第3章 新生児室
第4章 自閉症予防の5カ条
第二部 自閉症の正しい理解と支援
第5章 自閉症の正しい理解
第6章 後期発症型の自閉症
第7章 恐怖症の治療
第8章 恐怖症の治療と教育
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